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ジョナサンの傷害事件で「労災」認定 店長の暴力で肋骨骨折も「休むな」

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
写真はイメージです。(提供:イメージマート)

ジョナサン店長の暴力による骨折と打撲が労災認定

 ファミレス最大手のすかいらーくグループが運営する「ジョナサン」の東京都港区の店舗において、当時の店長から部下の正社員Aさんに対して、暴力・暴言のパワーハラスメントが繰り返されていた。この事件については、既に筆者が記事を公表しているとおりだ。

参考:「ジョナサン」店内で暴力事件 肋骨骨折も「勉強になったな」「また折られてえのか?」

参考:相次ぐ「告発」の有効性は? ジョナサン「傷害」事件に大阪王将「ナメクジ」事件

 これらの深刻なパワハラ被害のうち、2021年に店長の殴打、足蹴りでAさんが負わされた骨折と打撲の負傷について、三田労働基準監督署がいずれも労働災害であると認定し、今年7月26日に療養補償給付(治療費)の支給を決定していたことがわかった。療養補償給付は8月3日に振り込まれたという。

 ところで、職場の暴力に伴う労働相談は後を絶たないが、職場の暴力による怪我が労災認定されることについて、知らない方は多いのではないだろうか。

 そこで、本記事では、今回の被害者である従業員のAさんが加盟する労働組合「総合サポートユニオン」と、同社への取材をもとに、ジョナサンの暴力事件が労災認定された経緯を報じつつ、職場の暴力に対する労災保険の利用について説明したい。

第一の傷害事件:拳で殴ってあばらを骨折させる

 まずは、今回どのような負傷が労災として認定されたのか、経緯から確認しよう。

 被害を受けたAさんは、アシスタントマネージャー(店長候補の正社員)として、大学卒業後から、新卒でジョナサンに勤務していた。複数の店舗で経験を積み、マネージャー(店長)への昇格のチャンスが近づいてきた矢先、2020年9月にAさんは東京タワーの近くにある芝公園店への異動を命じられた。

 同店で待ち受けていたのが、店長(当時)による暴力・暴言だった。些細なことでも店舗で「ミス」が発生すると、「死ね、殺されてえのか」などとAさんに怒鳴り、頭をはたくというパワハラが日常的に行われていた。その中でも身体的な被害が最も大きかったのが、2021年8月の骨折事件だ。

 新型コロナウイルス感染拡大にともなう緊急事態宣言によって、東京都の飲食店では酒類の提供停止が「要請」されていた。ジョナサンでは酒類の注文を停止するために、テーブルに用意されている注文用のタブレットの設定を毎朝変更する必要があった。ところがこの日、その担当者だったアルバイト従業員が、この設定変更を忘れてしまった。そのまま運悪く、客が酒を注文したため、その取り下げをお詫びする時間を割き、伝票用紙を余計に発行するという「無駄」が発生してしまった。

 「どれだけ無駄なことをやっているか、わかってるのか」。店長はAさんに、アルバイトの管理がなっていないとして激怒した。ネクタイを引っ張って店舗の控え室に引きずりこむと、Aさんの右のあばらを拳で力強く殴りつけ、肋骨を折った。Aさんは恐怖のあまり涙が止まらなくなり、痛みすら感じられないまま、当日は22時まで働き続けたという。

 Aさんは帰宅後にようやく激しい痛みに気付き、翌日整形外科を受診して、骨折が発覚した。ところが2日間休んだだけで、Aさんは痛み止めの薬を服用しながら、サポーターを巻いて勤務を続けた。Aさんは当時、恐怖で労災保険の申請どころか、誰かに相談することすらできなかったという。

第二の傷害事件:狭い冷蔵室の中で足を蹴って転倒させ全身打撲

 骨折事件からわずか2ヶ月後、今回労災が認められることになる、もう一件の重大な傷害事件が発生した。こちらの症状は「全身打撲」である。

 2021年10月、アルバイト従業員が宅配の注文を表示する端末の設定ミスをしていたため、Aさんが指導した。その後にAさんが店舗内の冷蔵室で配送品の片づけ作業をしていたところ、アルバイトへの指導方法が悪いとして、店長がAさんの左足の太ももを蹴った。Aさんはその場に倒れこみ、狭い室内のため、腰と肩を強くぶつけた。痛みのためにしばらく立てず、当日は足を引きずりながら勤務を続けることとなった。

 Aさんは翌日、もともと休日だったため病院を受診し、両肩、左太もも、腰の「打撲傷」と診断された。痛さがひかないため店長に電話をかけ、「明日休ませてください」とお願いをした。ところがAさんによると、店長は「お前がマネジャーだったら骨折しても休むのか。松葉杖ついてでも来るのが責任だ」と発言したという。

 すかいらーくが総合サポートユニオンに対して開示した調査結果によれば、店長はこの発言については否定しているとのことだ。Aさんに出勤を指示したわけではなく、かつて他のジョナサンの店長が骨折した際に、松葉杖をついて出勤したという過去のエピソードを話しただけだという。しかし、店長の反論どおりだったとしても、重傷のAさんに休ませないプレッシャーを与えるという意味では同じことではないだろうか。

 なお、以前の記事の再掲になるが、これら二件を含む暴行事件に関する筆者の質問に対して、すかいらーく本部は下記のように返事をしている。

「ご質問いただいた件につきましては、当該社員からの通報により初めて当社として認識し、 元社員1名によるハラスメント等の社内規定違反行為として社内調査を行い、同調査結果を踏まえ、厳正な処分を行いました」

「暴力、ハラスメントは、決して容認されるものではなく、当社では、従前よりハラスメント防止に取り組んでまいりましたが、 今回の事態を踏まえ、ハラスメント研修等の一層の強化と相談窓口の更なる周知を図り、再発防止の徹底に努めてまいります」

 総合サポートユニオンによれば、Aさんはパワハラによって精神疾患を発症しているとして、精神疾患の労災申請や、会社に対する損害賠償請求を予定しているという。また今回の負傷の労災決定を踏まえて、傷害罪で元店長の刑事告訴も検討中のことだ。

「故意」の暴力でも、労災保険は支給される

 さて、今回の労災認定について、不思議に思った人も多いのではないだろうか。労働災害といえば、事故や職業病、長時間労働やパワハラによる脳・心臓疾患、精神疾患などがイメージされやすい。ましてや、社長でも管理職でもない人間が、偶然ではなく、「意図的」に振るった暴力による負傷が労働災害として認められるのか。あくまで個人間のトラブルとして扱われるのではないか。そういう疑問があってもおかしくはないだろう。

 じつは、職場の暴力による負傷でも労災保険の支給が認められることはよくある。まず考えるべきポイントは、あらゆる労災認定において前提となる「業務起因性」の有無だ。業務と、ケガや病気の間に、一定の因果関係があることが労災認定には不可欠なのである。では、故意による暴力の場合は、どのように考えられるのだろうか?

 ここで参考になるのが、厚労省が2009年7月23日に出した通達「他人の故意に基づく暴行による負傷の取扱いについて」(基発0723第12号)である。

「業務に従事している場合又は通勤途上である場合において被った負傷であって、他人の故意に基づく暴行によるものについては、当該故意が私的怨恨に基づくもの、自招行為によるものその他明らかに業務に起因しないものを除き、業務に起因する又は通勤によるものと推定することとする」

 この通達において、厚労省は「故意」による暴力であっても、労災として認められるという見解を示している。ただし、「私的怨恨」や「自招行為」などは例外とされている。「私的怨恨」とは、私的な個人間のトラブルによる喧嘩などが該当するだろう。「自招行為」とは、挑発や侮辱などによって相手の暴力を招いたケースが当てはまると考えられる。

労災申請は会社任せにしないことが大事

 とはいえ、どこまでが私的で、どこまでが業務上のトラブルと言えるのだろうか。仕事の仕方について注意をしたことが、相手が激怒する「引き金」になるケースも多々ある。この「業務起因性」の存在を争うために、被害を受けた労働者の側による原因や経緯の証明が重要となってくる。

 今回のジョナサンの二つの労災は、いずれもアルバイトのミスやその管理・指導を理由として、Aさんに振るわれた被害であった。ただ一般論としては、仮にこの店長や会社が「個人的な理由でAさんに挑発された」などと強く反論すれば、労災が認定されない可能性もなかったわけではない。ユニオンによる、すかいらーく本社との団体交渉を通じて、暴力の事実経緯が認められたため、労災保険が滞りなく支給されたものと考えられる。

 暴力に限らず、労災保険の申請においては、労災支給をさせたくないがために、会社側が嘘をつくことで、業務起因性を否定させようとするケースは後を絶たない。

 加えて会社にとっては、労災が認定されたのちに労働者から請求される「リスク」のある損害賠償額を減らしたい、そもそも賠償を認めさせたくないという狙いもある。このため労災が支給される場合でも、会社が災害の原因や経緯について、本人の落ち度を過剰に強調し、自社の責任を過小に労基署に報告するケースが非常に多い。被害があった直後、労災申請の段階から、専門家や支援団体のサポートがあることは重要だ。

 「自分が職場で受けた被害は、労災にはならないんじゃないか」と最初からあきらめる必要は決してない。しかし同時に、明らかな業務上の被害であっても、労災保険の支給が認められるとは限らないのが現実だ。ぜひ労災について疑問を感じたら、会社に丸投げにせずに、労災の専門家や支援団体に相談してみてほしい。

 なお、総合サポートユニオンの支部である「労災ユニオン」では、今回の事件を受けて、職場の暴力被害を含む、労災相談ホットラインを実施予定だという。

労災相談ホットライン

日時:2022年8月28日(日)13〜17時

電話番号:0120-333-774(通話無料・相談無料・秘密厳守)

主催:労災ユニオン

無料労働相談窓口

NPO法人POSSE

03-6699-9359(平日17時~21時 日祝13時~17時 水曜・土曜日定休)

soudan@npoposse.jp

公式LINE ID:@613gckxw

*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが労働法・労働契約法など各種の法律や、労働組合・行政等の専門機関の「使い方」をサポートします。

総合サポートユニオン 

03-6804-7650(平日17時~21時 日祝13時~17時 水曜・土曜日定休)

公式LINE ID: @437ftuvn

*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。

仙台けやきユニオン

022-796-3894(平日17時~21時 日祝13時~17時 水曜・土曜日定休)

sendai@sougou-u.jp

*仙台圏の労働問題に取り組んでいる個人加盟労働組合です。

ブラック企業被害対策弁護団

03-3288-0112

*「労働側」の専門的弁護士の団体です。

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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