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#先生死ぬかも の先につなげたいこと~長時間労働是正に向けた取組み~

嶋崎量弁護士(日本労働弁護団常任幹事)
あらた | PowerPoint+ @powerpoint_plus 様のご提供

#先生死ぬかも の誕生

7月18日~8月14日までの1ヶ月ほどの間に、教員の長時間労働をテーマにした3つの連続したウェブセミナーに関わらせていただいた。

これは、いずれも内田良さん(名古屋大学准教授 @RyoUchida_RIRIS )、斉藤ひでみさん(現職教員 @kimamanigo0815)、工藤祥子さん(神奈川過労死等を考える家族の会代表 @kanakaroshi)との共同企画である。

この連続企画が、参加者総数が延べ約1900人と大盛況で、しかも半数以上は教員以外の方からのご参加だった。教員の長時間労働の問題が、教員以外の方にも関わる大きな社会全体の関心事であることを改めて実感した。

この3つのセミナーは、今でも無料で観られるので、ぜひ多くの方にご試聴いただきたい。

コロナ禍の 子どもの教育と教員の働き方改革を問う!(2020年7月18日,オンラインによるライブ配信) 

〈やりがい搾取〉の構造に斬り込む/本田由紀・嶋崎量・斉藤ひでみ(2020年8月9日,オンラインによるライブ配信) 

世論をつくる!たかまつなな と内田良は教育をどう報じたか #先生死ぬかも/聞き手・斉藤ひでみ(2020年8月14日,オンラインによるライブ配信)

Twitterでの#先生死ぬかも  のハッシュタグをつけた投稿呼びかけは、オンラインイベント最終回に、登壇者のたかまつななさん(時事YouTuber)から急遽行われて実現した(直ぐにトレンド入り)。詳しくは、内田良さんの記事(「夏休み ネットに集まる教員の声 オンライン・イベントに教員と市民が集う」)をご覧いただきたい。

このイベントの盛り上がりは、当事者である教員の皆さんだけでなく、教員以外の方からみても、教員の長時間労働が限界まで来ていることを示すものと考えている。

教員長時間労働の弊害

筆者作成
筆者作成

私がこのイベントで繰り返し強調した点は、教員長時間労働が、教員職場だけではなく、社会全体の課題である点だ。

教員の長時間労働による弊害として真っ先に思い浮かぶのは、#先生死ぬかも  のハッシュタグが連想させる過労死など教員の命・健康の被害である。

ただ、これにとどまらず、教員から人間らしい生活時間を奪う(教員の子どもを含む家族への負担をも伴う→教員が教師として必要な人間性・創造性を培う機会を奪う)、教員の離職者増加(新規希望者の減少)、家事育児・介護など家庭責任との兼ね合いで長時間労働に耐えられない労働者(しわ寄せは女性に偏りがち)が離職に追い込まれるジェンダー不平等の問題など様々な問題が生じ、意欲と能力ある教員が教育現場を離れざるを得ない状況などもうまれ、複合的な要因の下で教育の質低下を招く。

また、長時間労働(ジェンダー格差助長)の教員職場を子ども達に見せることは、子ども達にとっていわば悪い働き方の見本を示すことにもつながる。

だから、この問題は教員の世界を飛び越えて、教育の質や子ども達への悪影響という、社会全体の課題なのだ。

今回、#先生死ぬかも のハッシュタグ(外部への情報発信)が大きく拡がった要因の一つは、コロナ禍でも改善されず拡がる先生たちの過酷な職場環境について、社会全体の課題であることが共有化されたことも要因の一つではないかと考えている。

どう取り組むか

とはいえ、#先生死ぬかも というハッシュタグが流れるだけで、職場環境が直ちに改善されるはずはない。

重要なのは、この集まった当事者である先生達の声をどのように次につなげるのか、であろう。

私は、まず教員(以下、明記しない限り法令上の問題は公立学校教員を念頭におく。末尾注有り)の皆さんなら誰もができる当面の取り組みは、労働時間の把握や残業時間の上限を定める上限指針の遵守だと考えている。

残業時間の上限がある!

「公立学校の教育職員の業務量の適切な管理その他教育職員の服務を監督する教育委員会が教育職員の健康及び福祉の確保を図るために講ずべき措置に関する指針」〔概要〕文部科学省作成より
「公立学校の教育職員の業務量の適切な管理その他教育職員の服務を監督する教育委員会が教育職員の健康及び福祉の確保を図るために講ずべき措置に関する指針」〔概要〕文部科学省作成より

文科省は、2019年1月に「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」を策定し、超勤4項目以外も含めた労働時間を「在校等時間」として労働時間管理の対象とすることを明確にした。

さらに、2019年12月4日の給特法改正(同法7条)で、このガイドラインの実効性を高めるため法的根拠ある「指針」へと格上げされた(2020年4月1日から適用開始)。

具体的に把握される残業時間(正確には「在校等時間」であり概念が異なるし、それ自体問題をはらんでいるが、ここではこの問題に触れない)は、超勤4項目以外の業務も含め教師が校内に在校している時間及び校外での業務の時間を外形的に把握した上で合算し、そこから休憩時間及び業務外の時間を除いたものとされている。

上限時間数は、1ヶ月あたり原則45時間年間360時間だ。特別の事情により業務を行わざるを得ない場合は延長できるが、1ヶ月100時間未満1年間の時間外在校等時間720時間以内(連続する複数月の平均80時間以内、且つ、45時間超は年6ヶ月が限度)である。

私学や民間企業などで適用される労基法の上限規制とは異なり、休日労働もこれに含まれるという意味では、実は民間より厳しい規制ともいえる。

教員の皆さんには、この上限が設定され、労働時間把握が義務づけられている事実が知られていないという問題がある。

日本教職員組合「学校現場の働き方改革に関する意識調査」(2019年7~9月実施)
日本教職員組合「学校現場の働き方改革に関する意識調査」(2019年7~9月実施)

日本教職員組合が2019年7~9月に実施した「学校現場の働き方改革に関する意識調査」では、上限時間を知っている教員は4割以下、在校等時間は3割以下だ。

制度の周知徹底には、労働組合等による組織的な取り組みが不可欠だが、個人の立場で教員一人一人が啓発をしていくことも重要だろう。

労働時間把握の徹底

かかる上限規制の遵守には、まずは使用者による労働時間(在校等時間)の把握が必要だ。

この点、指針は、ICTの活用やタイムカード等により客観的に計測し、校外の時間についても、できる限り客観的な方法により計測するとされている。

また、上限時間の遵守を形式的に行うことが目的化し、実際より短い虚偽の時間を記録に残したり、残させたりするようなことがあってはならないともされている。

重要なのは、上限指針が求める客観的な在校等時間把握が決して容易ではないことを強く認識をし、それ自体を重要課題として位置づけることだ。

後述する残業上限規制も、変形労働時間制の条例導入阻止も、労働時間が適切に把握されていなければ機能しない。

この点、公立学校教員は、給特法の下、長年にわたり残業代が払われず労働時間把握がなされない職場実態があった。教員の立場からすれば、記録しても残業代も払われず、自身の業務削減にも直ぐには反映しないのに労働時間把握に協力する動機が見いだし辛いのは間違いはない。かえって、時間把握のため手間もかかると反発もあるだろう。

しかしながら、当たり前だが労働時間把握なしに長時間労働の実態を数値化することはできない。現実を数値化せねば、過重な業務負担の改善や人員増の要求も通るはずがなく、労働時間把握は極めて重要だ。

このような現状を踏まえて、どれだけ客観的な時間把握が現場で徹底できるのかが鍵となる。

誤魔化しを許さない

「公立学校の教育職員の業務量の適切な管理その他教育職員の服務を監督する教育委員会が教育職員の健康及び福祉の確保を図るために講ずべき措置に関する指針」〔概要〕文部科学省作成より
「公立学校の教育職員の業務量の適切な管理その他教育職員の服務を監督する教育委員会が教育職員の健康及び福祉の確保を図るために講ずべき措置に関する指針」〔概要〕文部科学省作成より

指針では、上限時間の遵守を形式的に行うことが目的化し、実際より短い虚偽の時間を記録に残したり、残させたりするようなことがあってはならないともされている。とはいえ、現状は、在校時間削減のみを命じられ、結果として持ち帰り残業が増えているなど、正確な労働時間把握がなされていないという実態も報告されている。

形式的な上限時間遵守を目的化した指導がなされると、偽りの過小な労働時間が記録されてしまう危険がある。

誤魔化しを許さないように、現場での徹底が重要だ。

持ち帰り残業

指針では、業務の持ち帰りは行わないのが原則とされている。上限時間を遵守するため、教員を早く帰宅させ自宅で業務を行わせるようなことはあってはならず、指針でも禁じられている

とはいえ、先ほども引用した 日本教職員組合の意識調査では、勤務時間を減らすため行ったこととして、「退勤時間を早め仕事を持ち帰った」との回答が20.3%(前年2018年度は16.8%)もあり、前年度から上昇している。

こういった歪んだ運用を阻止する取り組みも重要だ。

休憩の問題

休憩時間のカウントも問題がある場合も多い。

多くの教員は、使用者から法が要求する適切な休憩(6時間~8時間以下:45分以上、8時間超:1時間以上)を確保されていないが、休憩をとれたことにされている(実際に休憩できていないのに所定の休憩取得がカウントされてしまう労働時間記録のシステムが構築されてしまっている地域もあるようだ)。トイレにいく時間もないため膀胱炎が職業病とさえいわれる教員の多くは、所定の休憩を取れておらず重大な法令違反であるが、これが見逃されるだけではなく、労働時間のカウントからも除外されてしまっている。

休憩60分がとれていないとすれば、月20日勤務でも単純に20時間がカウントされるので、労働時間把握の上でも重大な問題である。

休日労働の把握

指針では、土日・祝日などの校務として行う業務も労働時間(在校等時間)に含まれるとされている。

しかし、法的知識の欠如、管理職からの圧力や忖度から、部活指導などでも多い休日労働が適切に把握されていないという声も届いている。

この点についても、職場での徹底が必要だ。

変形労働時間制の条例レベルの導入阻止

1年単位の変形労働時間制は、2019年12月にこれを可能とする休特法が改正されて導入可能が状況になってしまった。

この制度の問題点については、以前執筆した「公立学校教員への1年単位の変形労働時間制導入は社会にとっても有害無益」、 「教員の長時間是正に、変形労働時間制の導入は不要です ~国会参考人意見陳述を踏まえて~」に執筆しているので、こちらをご参照いただければと思う。

実は、この変形労働時間制導入の阻止のためにも、労働時間把握の徹底が重要となる。

というのは、上限指針の遵守は、変形労働時間制導入の前提条件(これを遵守できなければ導入不可)ということが、指針に明示されたからだ。

適切に労働時間を把握すれば、自ずから上限時間(原則月45時間)を超過した教員の長時間労働の実態は明らかになるはずだ。そうすると、これにより各地域で変形労働時間制が導入できる状況にはないとして、条例による導入を阻止できるのだ。

こういった知識を周知徹底することで、教員の皆さんの労働時間把握へのモチベーションを持たせることともできるだろう。

さいごに

教員の皆さんの具体的な取り組みとして、まずは定められた指針を活用し正確な労働時間把握の徹底をお願いしたい。

そのためには、労働時間把握の意義を職場で周知徹底し、校長・教育委員会等の不当な圧力や忖度を排除するため、職場での集団的な取り組み(労働組合など)も不可欠だろう。

そうすれば、正確な労働時間の実態が把握されて、上限指針が遵守されない、いわば違法状態を校長・教育委員会に突きつけて、無駄な業務削減、教員の本来業務ではないものを外注化する、人員増など、具体的な長時間労働削減の動きにもつなげていける。労働組合〔職員団体〕を通じて改善に向けた交渉も可能だし、やるべきだろう。

教員の長時間労働の弊害は、教員職場だけではなく、教育の質に直結する社会全体の課題だ。教員の皆さんが、現場の実態を社会に向けて発信し、職場環境の改善を求める取り組みを行うのも、社会の将来を担う子ども達のためになる

自分や家族はもちろん、同僚や社会のため、皆さんが職場で抗う姿は、子ども達が社会に出てからも必ず何かの役に立つ

学校の外に多くの応援団(私もその一人)もいるのだから、自信をもって、学校を変える取り組みへとつなげて欲しい。

注記:本稿は、法制度上の問題は公立学校教員を念頭に記載したが、私学についても長時間労働の実態は同様に存在する。私学の場合、法律上は、シンプルに労基法が適用され(給特法が適用無し)、36協定締結、労基法の定める罰則付上限規制があるが、公立学校の影響なのか、公立同様に僅かな定額手当が支給され、36協定すら締結すらない学校が未だに数多く存在する。

公立学校教員の長時間労働を是正する取り組みが進む中で、その影響を大きく受けている私学教員の職場環境を是正する取り組みにも注目が集まり、改善がなされることを期待している。

【追記 2020年8月17日14:34】

・数カ所の誤記を訂正した。

・上記記事で引用した指針(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法施行規則の制定及び「公立学校の教育職員の業務量の適切な管理その他教育職員の服務を監督する教育委員会が教育職員の健康及び福祉の確保を図るために講ずべき措置に関する指針」令和2年7月17日改正のもの)は、こちらで確認できる。同指針のQ&A(令和2年7月時点)はこちらから確認できる。

弁護士(日本労働弁護団常任幹事)

1975年生まれ。神奈川総合法律事務所所属、ブラック企業対策プロジェクト事務局長、ブラック企業被害対策弁護団副事務局長、反貧困ネットワーク神奈川幹事など。主に働く人や労働組合の権利を守るために活動している。著書に「5年たったら正社員!?-無期転換のためのワークルール」(旬報社)、共著に「#教師のバトン とはなんだったのか-教師の発信と学校の未来」「迷走する教員の働き方改革」「裁量労働制はなぜ危険か-『働き方改革』の闇」「ブラック企業のない社会へ」(いずれも岩波ブックレット)、「ドキュメント ブラック企業」(ちくま文庫)など。

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