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言論と表現の自由が狭まる社会にいま感じること。そして、香港の巨匠監督に弟子入りした理由

水上賢治映画ライター
「少年たちの時代革命」より

 香港の新鋭、ラム・サムとレックス・レンが共同監督で作り上げた映画「少年たちの時代革命」は、2019年6月に始まった香港民主化デモを背景にした、ひとつの命をめぐる物語だ。

 あまり日本では報じられていないが、香港の民主化デモでは、若者による抗議の自殺が相次いだ。

 その事実をもとに、本作は、香港の民主化デモに参加した若者たちが民間捜索隊を結成し、自殺しようとするひとりの少女の命を救うため奔走する様を描く。

 表だっての撮影はほぼ許されないであろう内容ゆえにゲリラのスタイルで極秘裏に制作された本作は、中国当局の締め付けで急速に確実に自由が失われつつある香港では上映禁止に。その一方で、海外映画祭では高い評価を受け、台湾アカデミー賞(金馬奨)を受賞するなど大きな反響を呼ぶ。

 「この映画は<自由>に対するリトマス試験紙」と語るレックス・レン監督に訊く。(全四回)

レックス・レン監督
レックス・レン監督

香港にあったいろいろな意味での魅力がどんどん失われているように思います

 香港で2019年に起きた民主化デモと、その際に起きた悲劇、若者の抗議の自殺問題に言及した本作。

 すでにニュースなどで報じられているように、その後、香港の言論と表現の自由はどんどん狭まってきている。映画への検閲や規制も厳しさを増している。

 この状況をどう受けとめているだろうか。

「2019年の当時、そして、この作品を撮影した当時、そして現在と振り返ったとき、客観的にみて状況は悪くなっているとしか言いようがない。

 それはなにも言論の自由といったことに限らず、経済も悪くなっているし、香港人が香港から離れていっています。

 香港にあったいろいろな意味での魅力がどんどん失われているように思います。かつての香港はもうないと言っていい。

 もうかつてのような輝きのある状況の香港に戻ることはおそらくないでしょう。

 ただ、わたし自身は希望を失っていません。

 というのも、いまの香港にはすばらしい志をもた若者たちがまだまだ大勢いる。

 彼らはお金とか名誉といったことではない、自由や開かれた社会のために闘っている。

 彼らはよりよい社会になることに重きを置いて行動できる。

 そこには確実に希望が存在していると思います」

現実よりおもしろいことが映画では確実に起きる

 ここからはレックス・レン監督自身のことを訊く。

 監督自身が映画作りを志したきっかけは何にあったのだろうか?

「わたしが映画を生まれて初めてみたのは、5歳のとき。

 映画館に行って『スーパーマン』をみました。

 そのときのことはよく覚えていて、なにより画面の中で、スーパーマンのことですけど、人が飛んでいるのにびっくりしました。

 そこから映画が大好きになりました。

 何よりもわたしが惹きつけられたのは、現実よりおもしろいことが映画では確実に起きる。

 実は、両親が離婚していて、わたしは家に1人でいる時間がすごい長かった。家に1人きりでいるということはかなり孤独で。

 その孤独な心を紛らわせてくれるのが映画でした。

 なので、家でビデオで映画を見て、見終わってから、そのワンシーンを1人で再現したりしていました。

 そういった経験があったので、進路を考えたときに、自然と映画の道に進みたいと思いました」

「少年たちの時代革命」より
「少年たちの時代革命」より

フルーツ・チャン監督は恩師であり、自分の映画作りの礎を築いてくれた人

 こうして映画の道に進み、フルーツ・チャン監督に師事している。

 これはどういう経緯でなったのだろう?

「前に話した通り、ラム・サム監督と同じ映画学校に通っていて、無事卒業しました。

 その卒業してまだ間もないころ、脚本を書いたんです。

 すると、わたしの書いた脚本に、ある監督さんが興味を持ってくれました。

 で、その監督さんが『いい脚本なのだけれど、君はまだ映画学校を卒業したばかりで若すぎるのでまだ監督は務まらない』と言って、『いったんフルーツ・チャン監督のところに行ってアドバイスを求めてみては?』と言われたんです。

 後日、フルーツ・チャン監督に脚本を送って、実際に会うことになりました。

 それで、『脚本を読んでくれましたか?』と聞いたら、『いや、そんなもん見てないよ』と(苦笑)。

 『だって今日会うことになったんだから、この場でどんな脚本か説明して』と言われて。

 そこで説明したんですけど、そのあと、フルーツ・チャン監督にこう聞かれました。『おまえは自分のことを映画の天才だと思っているのか?』と。

 当時のわたしは映画学校を卒業したばかりでなんの実績もない。しかも目の前にいるのは世界的に知られる名監督。

 もう、わたしは緊張で足も震えてなにも答えられなかった。

 すると、フルーツ・チャン監督からこう言われたんです。『自分は君のことを天才だとは思わない。だから、自分のところにいて映画を2作品、スタッフとして耐えきれたら(映画を)教えるというか、君の作りたい映画の支援してやる』と。

 当時、香港の映画界で、フルーツ・チャン監督は怖い監督としてすごく有名でした。

 だから、ちょっと躊躇いがなかったといったら嘘になるのですが、もうそこは意を決して飛び込むことにしました。

 それで、フルーツ・チャン監督のもとで2作、実際は3作品に携わることになりました。

 そして耐え抜いた後、フルーツ・チャン監督にこう伝えられました。

 『君はそこそこ(映画を作る)覚悟はできているようだ。監督というのは2タイプいる。一つは椅子に座ってふんぞり返ってモニター越しに役者の演技を見ているだけであれこれいう人、もう一つのタイプはわたしのようになにからなにまで自分でやる人。もし自分のようになりたいのであればわたしの知っているすべてのことを教えてやる』と。

 こうしてわたしは正式にフルーツ・チャン監督の弟子になりました。

 フルーツ・チャン監督はわたしの恩師であり、自分の映画作りの礎を築いてくれた人です」

【「少年たちの時代革命」レックス・レン監督第一回インタビューはこちら】

【「少年たちの時代革命」レックス・レン監督第二回インタビューはこちら】

【「少年たちの時代革命」レックス・レン監督第三回インタビューはこちら】

「少年たちの時代革命」ポスタービジュアル
「少年たちの時代革命」ポスタービジュアル

「少年たちの時代革命」

監督:レックス・レン(任俠) ラム・サム(林森)

出演:ユー・ジーウィン(余子穎) レイ・プイイー(李珮怡) スン・クワントー(孫君陶) マヤ・ツァン(曾睿彤) トン・カーファイ(唐嘉輝) アイビー・パン(彭珮嵐) ホー・ワイワー(何煒華) スン・ツェン(孫澄) マック・ウィンサム(麥穎森)

ポレポレ東中野ほか全国順次公開中

公式HP:www.ridai-shonen.com

写真はすべて(C) Animal Farm Production

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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