ジャニーズ事務所・藤島ジュリー社長が「話したこと」と「話さなかったこと」──性加害を生んだ構造的問題
4つのポイント
5月14日、故・ジャニー喜多川前社長による性加害問題について、ジャニーズ事務所の藤島ジュリーK.社長が動画で声明を出した。記者会見を望む声も多かったが、ジャニーズ事務所は先代から経営陣がいっさい公式の場に顔を出すことはなかったので、ジュリー社長が顔を出したこの声明はかなり異例のことだ。
その内容は、動画で1分ほどの謝罪をし、その他の疑問については書面で回答するという形式だった。それらは、同社のオフィシャルサイトに掲載されている。筆者も先月4月30日に、関係者を通じてジャニーズ事務所に質問しており、この回答はそれらも含むさまざまなメディアから寄せられたものを集合させたものである(筆者の質問内容はこちら)。
そうしたジュリー社長の声明だが、そのポイントは4つにまとめられるだろうか。
- 性加害の事実を認めるかどうか
- 2004年の『週刊文春』裁判結審後の対応
- 第三者委員会を設置しない理由
- 話さなかったこと
以下、この4点について考えていく。
被害者が限定される“難しさ”
まず性加害の事実認定についてだが、これについては「『事実』と認める、認めないと一言で言い切ることは容易ではな」い、と明言を避けている。文脈的にも、認めているようにも読めるし、認めていないようにも読める。
そこからは、集団訴訟への発展を避けようとするジャニーズ事務所の苦しい立場も感じられるが、本件特有の“難しさ”もかいま見える。というのは、カウアン・オカモト氏をはじめとした多くの被害を認めてしまえば、同社所属の現役タレントも被害を受けている可能性を認めることとなり、結果的に二次被害を引き起こしてしまうことに繋がりかねないからだ。
つまりこの曖昧なスタンスは、被害者を救済するのと同時に、現役タレントを保護することのバランスを取ろうとして生じている。「憶測による誹謗中傷等の二次被害についても慎重に配慮しなければならない」と述べているのもそのためだ。
筆者が4月18日の記事「ジャニー喜多川氏『性加害問題』の課題」で指摘したのも、まさにこのことだった。それはジャニーズ事務所だけでなく、ファンの多くも不安視していることでもある。
現役タレントの保護のために被害者の救済を無視することはできず、しかし、被害者の救済のために現役タレントを見捨てるわけにもいかない──被害者が限定されている本件には、常にこの“難しさ”がつきまとう。
被害は恥ではなく、加害者が悪い
そのときひとつのヒントとなるのは、この問題の調査を求める署名を集めた「PENLIGHT ジャニーズ事務所の性加害を明らかにする会」が5月11日に行なった記者会見にあるかもしれない。
被害者の救済と現役タレントの保護をどう両立すればいいのか、なにか妙案はあるか?──会見での筆者の質問に対し、発起人のひとりである高田あすみさん(仮名)はこう話した。
「二次被害を引き起こすのは社会全体の人権感覚の問題です。被害に遭ったのは恥ずかしいことではなく、加害者が悪いと捉えられる社会を作っていく必要がある」
それは、今回の問題に新たに一筋の道を照らす考え方だろう。被害者を蔑む視点を社会が許容するからこそ被害者が沈黙を余儀なくされ、そしてまた社会で加害行為が繰り返される──それを断ち切ることこそが、現役のジャニーズタレントを保護するうえで重要であるという視点だ。
一方、TBS以外の民放テレビ局がこの問題の報道に消極的な理由は、「現役タレントの保護」だと関係者から耳にした。だが、当然のことながらその姿勢は声をあげた被害者を見捨てることを意味する。
そもそも報道機関の重要な役割のひとつは、社会における議題設定(アジェンダ・セッティング)だが、現状は「現役タレントの保護」をタテマエ的な言い訳に使っているようにも見える。必要なのは、被害者の訴えを受け止めて、被害者への偏見を緩和するための議論を促すことだ。現状、TBSを除く民放4局はその立場を放棄していると断じざるをえない。
白波瀬傑副社長の責任
次に2004年に『週刊文春』に対する名誉毀損裁判で、ジャニー喜多川氏の性加害(裁判では「セクハラ」)が認定された以降のジャニーズ事務所の対応についてだ。
当時すでに幹部だったジュリー社長は「知らなかった」と述べ、ジャニー喜多川氏と姉のメリー喜多川氏のふたりが会社運営をほぼ担ってきたと話している。これは苦しい言い訳のように見えるが、喜多川姉弟の独裁体制は生前からよく知られていたことでもあった。そして、ジュリー社長がいまになってその状況を「異常」と捉えているあたりにも強い悔恨が見える。
ただし、その場合にキーマンとなるのはジュリー社長だけではない。長らく広報を担当してきた白波瀬傑副社長も重要人物だ。現在70代前半と見られる白波瀬氏は、メディア側には広く知られた存在だ。ジャニーズ事務所は、タレント出演の番組や映画などコンテンツを盾にしてメディア側を操縦してきた。
たとえばジャニー氏は、テレビ朝日『ミュージックステーション』の皇達也プロデューサー(故人)に対し、「(競合グループを)出したらいいじゃない。ただ、うちのタレントと被るから、うちは出さない方がいいね」とタレント引き上げをちらつかせたという(『週刊新潮』2019年7月25日号)。また2019年7月には、元SMAPの3人の民放テレビ番組出演に圧力をかけた疑いがあるとして、公正取引委員会から「注意」されたことも記憶に新しい。
こうした水面下のさまざま差配を指揮してきたのは、広報担当の白波瀬副社長と見られる。2004年の『文春』裁判の結審の際も、民放テレビ局をはじめ多くのメディアが追従することはなかった。そうした状況において広報を担当していたのが白波瀬氏だ。そんな彼が、裁判結果=ジャニー氏の性加害問題を知らなかったとは考えにくい。
ジュリー社長は、当時ジャニー氏が「加害を強く否定していた」と説明するが、その一方で白波瀬氏が報道になんらかの関与をした疑いはある。白波瀬副社長の責任は確実に追及されなければならない。
第三者委員会を望まない理由
3つ目は、第三者委員会を設置しない理由だ。当初から筆者も含め多くのひとびとが望むのはこの対応だが、今回もそれは否定された。
ジュリー社長は複数の理由をあげているが、そのひとつは「調査段階で、本件でのヒアリングを望まない方々も対象となる可能性が大きい」ことだ。そこで想定されている「望まない方々」とは、おそらく所属タレントたちだ。
ここまでの筆者の取材で見えてきているのは、所属する現役タレントたちの多くが第三者委員会の設置に反対していることだ。ただしタレント同士でも温度差があり、調査を望む者もいるという。この問題の複雑さは、やはりここにある。
だが、そもそも第三者委員会は調査内容をすべて公開することを前提とするわけではない。調査結果を公開するかどうかの判断も第三者委員会に委ねなければならない。そこでは実態解明を目的としながらも、プライバシーに配慮することは当然だ。なにより、現役であるがゆえに被害を押し殺し、そのうえで精神的なケアや補償を受けられないことは不条理だ。
補助線をひとつ引くならば、たとえば2012年にイギリスの人気司会者だったジミー・サヴィルが死後に多くの性加害を行なっていたことが発覚した事件が参考になるだろう。サヴィルを番組で起用していた公共放送・BBCは、216ページにわたる長大な調査結果を発表した(”THE DAME JANET SMITH REVIEW”2016年/PDF)。これは、BBCの施設内で性加害が行われていたためだ。そこでは時系列かつ人物別に被害実態が明らかにされており、当然のことながらプライバシーも保護されている。
こうした前例がありながらもジャニーズ事務所がかたくなに第三者委員会を拒むのであれば、それはタレントの姿勢以外にも「隠したいなにか」があると邪推されても仕方がない。
たとえば『週刊文春』は、ジャニーズ事務所のスタッフからジャニーズJr.の少年たちを全日空ホテルに送り届けていた証言を得ている(2023年4月27日号)。それが本当に知らないだけか、あるいは「未必の故意」かはわからないが、そうしたことを解明するためにも第三者委員会は必要だ。
そしてもちろん、ジャニー氏による性加害の実態解明は、単にジャニーズ事務所のためだけに必要なわけでない。それは日本の未来のために必要だ。日本社会が本件を教訓としなければならないからだ。
「ジャニーズ利権」にすがるテレビ局
最後に、今回のジュリー氏が話さなかったことについてだ。それはジャニーズ事務所のメディアコントロールだ。前述したように、ジャニーズはコンテンツを盾に巧みにメディアを操縦してきた。それを指揮してきたのが、白波瀬副社長であることにも触れた。
今回の件でも、日本テレビ・テレビ朝日・フジテレビの民放3社はいまも積極的にこの問題を報じようとしない。それは、やはり長いあいだジャニーズ事務所とズブズブの関係にあるからだ。筆者はこの問題が騒がれだした3月終わりの段階で、「民放が官邸や政府よりもずっと怖れているのは間違いなくジャニーズ事務所だ」と書いたが、その後の展開は残念なことにその通りになった(『朝日新聞GLOBE+』2023年3月30日)。
たしかに、確実に数字が取れるジャニーズのコンテンツは、斜陽のテレビ局にとっては決して失いたくないものに違いない。だが、この「ジャニーズ利権」を保持するために、TBS以外の民放局は報道機関としてのプライドを捨てた状態にある。
たとえば定例会見でテレビ朝日の篠塚浩社長は「今後の推移を見守りたい」と発言し、フジテレビの港浩一社長は「事実関係がよく分からないのでコメントは差し控える」とそれぞれ述べた。『報道ステーション』や『FNN Live News α』というニュース番組があるにもかかわらず、自分たちで調査して報道する気はさらさらない様子だ。それは、「報道機関としてのオワコン宣言」であるのと同時に、「ジャニーズ事務所の2軍宣言」でもある。
筆者がジャニーズ事務所に望んだのは、「自動忖度機」に成り下がったメディアの“呪い”を解くことでもあった。
ジャニーズタレントがレギュラーのテレビ朝日『ミュージックステーション』には、いまだに競合グループが出演できない状況が続いている。Da-iCE、JO1、INI、BE:FIRSTなどがそうだ。このうちJO1とBE:FIRSTは『紅白歌合戦』に出場しており、Da-iCEは日本レコード大賞を受賞している。さらにJO1とINIには元ジャニーズJr.のメンバーが含まれている(「ジャニーズ忖度がなくなる日」2023年2月23日)。
ジャニーズは、このようにコンテンツを盾にして報道を左右してきた。これがメディアコントロールだ。
性加害の温床となったメディア支配
そして、こうしたメディア支配こそがジャニー氏が性加害を続けた温床にもなった。
2004年に『文春』裁判が結審したときに追及がなされなかったのも、このズブズブの関係があったからだ。また、この構造的な関係によって間接的に加害行為へ加担していることを自覚しているからこそ、テレビ朝日とフジテレビは現在も報道に及び腰になっていると推察される(そうでないならば、今夜の番組でちゃんと説明すれば良い)。
筆者がジュリー社長に強く望むのは、先代の社長・副社長がテレビ局にかけた“呪い”を解くことだ。それは先月末に筆者が投げた質問にも含まれていたが、残念なことに今回はその回答は得られなかった。
ジャニーズ事務所のコンテンツを担保としたメディア支配が続き、それによって追及を逃れたジャニー氏が再度加害行為を繰り返していた可能性について、社会はより重大な関心を向けるべきだ。この問題は、ジャニー氏の単独行動としてではなく、構造的に読み解かなければなにも解決には進まない。しかも、メディア支配はいまも続いている。
われわれ報道する側は、芸能プロダクションに嫌がらせをしたいから批判するのではない。問題があればそれを指摘して改善を促し、社会をより良くすることが目的だ。しかし、それが機能不全になったからこそ、ジャニー氏は加害行為を繰り返し、ジャニーズ事務所はいま地獄を見ており、テレビ局もその泥舟に乗って膝まで水に浸かっている。
もうそろそろ目を覚ますときではないか。
問題は始まったばかり
このジャニー喜多川氏の性加害問題は、まだなにも解決にいたっていない。カウアン・オカモト氏とジャニーズ事務所は面談をしたものの、なんらかの合意にいたったわけではない。
さらにその後、『週刊文春』でふたりが実名・顔出しで被害を訴えた。「Me Too」は今後も続く可能性もある。
ジャニー氏の加害行為の全容はまだ見えず、はじめて報道された1960年代から再調査する必要もあるだろう。過去に声をあげながらも、「芸能ゴシップ」として軽視されてきたひとびとに目を向けることも必要だ。
ジュリー社長の声明も、これが始まりであって決して最後であってはならない。この問題が終わるのは、まだまだ先だ──。
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