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ウィシュマさん入管死訴訟、裁判所側が「大枠の争点」示す 医療提供巡る違法性について双方が主張整理へ

関口威人ジャーナリスト
第15回口頭弁論で名古屋地裁に入るウィシュマさんの遺族ら=11月27日、筆者撮影

 名古屋出入国在留管理局(名古屋入管)で収容中に死亡したスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさん=当時33歳=の遺族が国を相手取り約1億5000万円の損害賠償を求めている裁判の第15回口頭弁論が2024年11月27日、名古屋地裁であった。

 2022年6月の初弁論以来、3度目の冬を迎えた裁判は、ウィシュマさんの死の責任や死因を巡り原告・被告双方が主張を出し合うも、議論は平行線の状態が続いている。

 それを踏まえて大竹敬人裁判長はこの日、「裁判所の考える大枠の争点」として以下の3点を示した。

 ① 国家賠償法1条1項(※)の義務違反があったか

 ② 義務違反と死亡の結果との間の因果関係があるか

 ③ 因果関係が認められた場合の損害

 ※ 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

 大竹裁判長は今後の弁論を上記①から③までの「順序に沿って検討していく」意向を示した上で、①はさらに以下の2つの論点に分かれるとした。

 ❶ ウィシュマさんの収容を継続したことの違法性の有無

 ❷ 必要な医療提供がなされなかったことの違法性の有無

 そして特に❷の医療提供の問題について、「前提となる事実関係や医学的知見」と「どのような立証がどこまで必要か」などを「簡潔にまとめて、必要と考えられる立証方法や立証計画」を合わせて書面で出すよう双方に求めた。

 その意図について大竹裁判長は、これまでの準備書面などのやり取りで双方の主張が追加、細分化されてしまっており、特に原告側には「義務違反と指摘している行為が多岐にわたり、どの時点で誰が何をするべきであったのかが分かりづらくなっている」「義務違反とされる行為と低栄養・脱水による死亡という結果がどのようにつながるかが分かりづらい」などと指摘。まずは原告側がそれらの点を整理した後に、被告の国側には「それにかみ合わせたような主張」をするようにと述べた。

「機序論」に言及なく「裁判所はのらない」か?

 閉廷後は非公開の進行協議で具体的な文章のボリュームなどについて話し合われ、原告側弁護団によれば裁判所から「できるだけ手短に」との注文があった。文書は準備書面として扱われ、次回の来年2月の弁論までに原告側が、次々回の来年4月の弁論までに国側が提出し、それを受けて来年6月の弁論で裁判所側があらためて争点についての考えを示す段取りだという。

 一方、その内容について、国側がこだわるウィシュマさんの死因の細かな「機序(メカニズム)」の立証を裁判所側がどこまで求めるかは、まだはっきりとしない。しかし、原告側の指宿昭一弁護士は、今回の争点整理で機序については一言も触れられていないことから、「裁判所が被告の機序論にのっているとは思えない」との見方を示した。

閉廷後に記者会見するウィシュマさんの妹のポールニマさん(左)とワヨミさん=11月27日、筆者撮影
閉廷後に記者会見するウィシュマさんの妹のポールニマさん(左)とワヨミさん=11月27日、筆者撮影

 この日の弁論では他に、前回の原告側の主張に反論する国側の第12準備書面と、司法解剖医の氏名などの開示要求に対する国側の回答書、そして原告側の第16準備書面がやり取りされた。

 

 国側は第12準備書面で、ウィシュマさんの死亡当時、名古屋入管は一般の病院や診療所に求められる水準の医療提供体制は構築していたと主張。当時の入管局長に国賠法1条1項に違反するような「体制構築義務違反」もなかったなどと反論している。

 また、回答書で、刑事事件の司法解剖結果の鑑定書と検査報告書を作成した医師2人の氏名や所属は「円滑な訴訟進行に協力する」ためとして公開した。しかし、それ以外のマスキング箇所は「詳細を明らかにする必要はない」として公開を拒んだ。

カロリーやビタミン摂取量の少なさに「ショック」

 一方の原告側は第16準備書面で、ウィシュマさんが入管収容中の2021年1月下旬から、死亡する同3月6日までに施設内の食事で摂取したカロリーと水分、ビタミンB1の量を一覧表にまとめた。

名古屋入管収容中のウィシュマさんが食事で摂取したカロリー量の表=原告側弁護団の資料から筆者が抜粋
名古屋入管収容中のウィシュマさんが食事で摂取したカロリー量の表=原告側弁護団の資料から筆者が抜粋

 それによると、カロリーは2月1日から7日までの1週間で平均497キロカロリーで、30代の女性が1日に必要とする1750キロカロリーの3分の1にも満たなかった。この頃、ウィシュマさんは毎日のように嘔吐を繰り返しており、実際に摂取したカロリーはさらに少なかったとみられる。

 その後も50から多くて1200キロカロリー程度の日が続き、「必要なカロリーを摂取できていない状態が続いていたことが客観的に明らか」だとする。

 水分も食物由来で1130グラム、飲料由来で1100グラムの必要量を満たしていた日は少なく、ビタミンB1も平均0.22ミリグラム/日と、脚気(かっけ)を発症する恐れのある0.32ミリグラム/日を下回っていた。2月15日には尿検査でカロリーやビタミンB1の欠乏状態を示唆する「ケトン体3+」の検出結果が出ていたが、入管側はこれに適切に対応しなかったと原告側は主張している。

 ウィシュマさんの妹のワヨミさんは、この表を見て「あらためて大きなショックを受けた」とし、「国籍がどこでも同じ人間。どうしてここまで残酷な命の奪い方ができたのか。姉の死に責任ある者に責任を認める判決だけが同じ悲劇が起こらないための唯一の手段であり、姉の死を無駄にしない唯一の方法。姉の魂はこの法廷を必ず見ている。スリランカで母も毎日祈り続けている」と訴えた。

 次回期日は来年2月5日の予定。

ジャーナリスト

1973年横浜市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学)修了。中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で社会問題をはじめ環境や防災、科学技術などの諸問題を追い掛ける。東日本大震災発生前後の4年間は災害救援NPOの非常勤スタッフを経験。2012年からは環境専門紙の編集長を10年間務めた。2018年に名古屋エリアのライターやカメラマン、編集者らと一般社団法人「なごやメディア研究会(nameken)」を立ち上げて代表理事に就任。

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