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「コンパクト+ネットワーク」で大規模地震対策も推進

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:Fujifotos/アフロ)

国土のグランドデザイン2050と国土形成計画

 国土交通省は、2014年に「国土のグランドデザイン2050~対流促進型国土の形成~」を公表しました。西暦2050年の日本を見据え、1)急激な人口減少と少子化、2)高齢化の進展、3)都市間競争の激化などグローバリゼーションの進展、4)巨大災害の切迫とインフラの老朽化、5)食料・水・エネルギーの制約と地球環境問題、6)ICTの劇的な進歩など技術革新の進展、などの動向を踏まえて、国土づくりの理念や考え方をまとめたものです。ここで示された大切なキーワードが、「コンパクト+ネットワーク」です。2015年には、国土づくりの方向性を定めた第2次国土形成計画が策定されました。「対流促進型国土」の形成を図ることを国土の基本構想とし、この実現のための国土構造として「コンパクト+ネットワーク」の形成を進めることが謳われました。

2050年の日本

 2050年には、日本の人口は今より3千万人も減って9,700万人と1億人を切り、高齢化率は39%に達すると予想されています。一方、世界の人口は97億人と現在より20億人増えるとされ、日本は世界の人口の1%になってしまいます。1950年の世界と日本の人口は25億人と8400万人で、世界の1/30を占めていましたが、わずか100年で1/3以下になります。世界の中における日本の位置づけはずいぶん低下しそうです。人口の減少によって、現在の居住地域の6割以上で人口が半分以下になり、2割の地域で人が住まなくなるとされています。このため、国土をどのように利用し、社会を維持するかが大きな課題となります。

コンパクト+ネットワーク

 人口が減少し、各地でまちを存続することが難しくなれば、ライフラインやインフラの維持も困難になります。このため、まちを集約化して、人が集まらないと、社会機能やライフラインの維持ができなくなります。そこで提唱されたのが、コンパクト+ネットワークの考え方です。質の高いサービスを効率的に提供するには、30万人程度の人口規模が必要のようです。人が集まったコンパクトなまちをネットワークで結ぶことで、圏域人口を確保できます。そして、人・モノ・情報が集まり、相互に交流すれば、新たな価値も創造できる、というのが基本的な考え方です。

コンパクト+ネットワークが生み出す多様性と連携

 コンパクト+ネットワークで、自律・分散・協調型の社会が実現できれば、生産性の向上と共に、大規模災害にもレジリエントな社会が実現できます。各地域がそれぞれの個性を伸ばすことで社会の多様性を生み出し、地域を超えて連携することで、人やモノや情報を交流させ、活力のある国土や地域を作ることができます。これを支えるのがコンパクト+ネットワークです。また、物理的な距離の制約を無くすには高速の交通手段が役に立ちます。2027年開通予定のリニア中央新幹線が完成すれば、東京と名古屋が40分で結ばれ、一つの都市圏となります。さらに、バーチャルな世界の通信ネットワークが、知識や情報を結合します。これがSociety5.0の世界です。地域を超えた交流は、社会の対流によって生み出され、対流は地域間の差異(温度差)によって生み出されます。すなわち、個々の地域が個性を磨くことで多様性のある社会を作り、ネットワークにより連携させることで社会の活力を生み出します。まさに、地方創成そのものです。

コンパクト+ネットワークが育むレジリエントな社会

 地域社会が生き生きとすれば、コミュニティの共助力が育まれます。緑に囲まれた集約型のまちは、アメーバー状に広がるまちに比べ、延焼が拡大しにくく、災害にも強いまちになります。また、地域の魅力が高まれば、都会から地方への人の流れができ、首都一極集中が是正され、強力な首都直下地震対策になります。さらに、地域間が連携することで、自律・分散・協調型社会が実現すれば、南海トラフ地震のような超広域災害でも対応が円滑に進みます。結果として、災害に対して粘り強くしなやかに対応する「レジリエント」な強靭な国土が作られます。

地域間を移動する人と地域に残り支える人

 社会の中には就職・進学・転勤などで地域を移動する人たちと、故郷に残り地域を支え続ける人たちがいます。前者の人たちは、職場・学校に近い集約したまちに住む可能性が高く、社会施設やライフライン・インフラも維持されやすいと思われます。一方で、家を継いで故郷に残る人には、集約したまちの外に居住し続けて、地元の自治体や1次産業・2次産業に従事する場合が多いようです。中山間地や農村、工業地域の保全には、ライフラインやインフラの維持が難しい地域に住む人たちの居住環境の維持が必要です。再生エネルギーの活用、井戸、浄化システム、無線LANを利用したテレワーク、自動運転、ドローン、空飛ぶ車、家庭菜園やミニ植物工場などを活用すれば、自立住宅化も可能で、自然に囲まれた環境で安全かつ便利な生活を続けることができます。ライフラインに頼らないので、南海トラフ地震後も普段通りの生活を続けることも可能です。

 コンパクト+ネットワークから外れた我が田舎家も、目下、耐震対策に加え、自立住宅化を着々と進めているところです。田畑に囲まれた中で引退後も充実した生活を続けるために・・・・。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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