Yahoo!ニュース

JR東「上越新幹線終電繰り上げ」は何のため? その上で列車ダイヤにはどんな影響が?

小林拓矢フリーライター
夜の上越新幹線E7系「とき」(写真:イメージマート)

 地方の人にとっては、東京にどれだけ遅くまでいられるかどうかは重要だろう。遠いところに住んでいても、遅くまで都心にいられるようにしてくれる新幹線の存在は、地方在住者にとってはありがたいものである。

 そんな新幹線も、終電の繰り上げをすることになった。JR東日本が、上越新幹線の終電繰り上げを、2024年春のダイヤ改正に合わせて行うということだ。

 なぜ、終電の繰り上げを行うのか。

在来線での終電繰り上げが新幹線にも広がる

 JR東日本では、2021年3月のダイヤ改正より東京圏での終電繰り上げを始めた。深夜時間帯の利用者の減少だけではなく、工事時間の確保や、人手不足対応を理由としている。この終電繰り上げは、いまなお続いている。

 ただし、この時期はコロナ禍であり、同年1月にはすでに「緊急事態宣言」のため、終電を繰り上げるということをしていた。その際には、乗客がいない列車を走らせていたケースも多かったため、工事時間の確保は難しかった。本格的に工事時間をのばしたのは、ダイヤ改正後である。

 工事時間を確保する、というのは鉄道のメンテナンスには必要なことである。現在の人手不足の状況で、これまで通りの工事はできない。

 そこで、終電を繰り上げて工事時間を確保するというのが、首都圏で行われている。

 新幹線でも、同様のことが起こっている。生産年齢人口が減少している中、それ以上に鉄道工事の担い手の確保が厳しくなっている。JR東日本管内の軌道工事従業員は10年前に比べ約20%減少している。今後も工事従業員の減少は続くと考えている。

 2024年から「働き方改革関連法」が建設業にも適用され、その対応も必要となっている。

 新幹線は、朝6時から深夜24時までしか営業運転ができない決まりになっている。その時間以外にメンテナンス時間を確保するようになっている。その意味では、朝早い時間に始発がある在来線と比べて恵まれているところはある。

 しかし、そんな新幹線でも工事時間は足りないという状況にある。その背景は何があるのか。

終電繰り上げの理由となっている新幹線の工事について(JR東日本プレスリリースより)
終電繰り上げの理由となっている新幹線の工事について(JR東日本プレスリリースより)

設備リニューアルと地震対策

 東北・上越新幹線は、開業から40年以上経過し、リニューアル工事を実施している。今後10年間で、レール交換約400km、架線交換約800kmなど、工事は大きく増加すると考えている。橋りょうやトンネルなどの土木構造物の改修も計画している。

 さらに、新幹線は地震に強くならなければならない。2021年と2022年には、2度も福島県沖地震が発生し、長期の運休となった。線路やトンネル、電柱の地震対策が必要になっている。

 工事を促進するために大型機械をさらに増やすことも予定している。

 JR東日本の新幹線設備が老朽化している中、工事をしなければならない箇所も増え、その負担がJR東日本にとって大きなものとなっているのが背景である。

 そんな中、在来線で成功した終電時刻の繰り上げを、新幹線でも導入しようということになった。まずは上越新幹線で20分程度終電を繰り上げ、東北・北陸新幹線でも作業時間拡大を検討している。

 おそらく、JR東日本の意向を見るに2024年春のダイヤ改正で上越新幹線の終電を繰り上げ、2025年春のダイヤ改正で東北新幹線東京~盛岡間や、北陸新幹線東京~長野間の繰り上げということになるのだろう。

 では、どんなダイヤになるのか?

過去の地震の教訓を生かすために工事をする(JR東日本プレスリリースより)
過去の地震の教訓を生かすために工事をする(JR東日本プレスリリースより)

大型機械の導入で工事を迅速にし、人手不足に対応する(JR東日本プレスリリースより)
大型機械の導入で工事を迅速にし、人手不足に対応する(JR東日本プレスリリースより)

終電繰り上げの新幹線ダイヤは?

 JR東日本は、首都圏での終電繰り上げの際に、既存のダイヤをベースにしそこから削っていくという方法で対応した。しかし上越新幹線では20分程度の終電繰り上げとなる。

 現在の終電は、

「とき」351号:21時40分東京発、23時52分新潟着

「たにがわ」417号:22時28分東京発、23時52分越後湯沢着

「たにがわ」477号:23時00分東京発、23時56分高崎着

 となっている。

 もしそれぞれの終着駅を新潟から越後湯沢に、越後湯沢から高崎にして、最終の運転を削るとなると、20分どころではない繰り上げとなる。

 ここに挙げた3つの列車を20分繰り上げても、東京~大宮間で線路を共有する東北新幹線にダイヤがかぶることはない。

 となると、それぞれの新幹線のダイヤを変更することになるのか?

 しかしそうなると、東北新幹線や北陸新幹線のダイヤと合わせて調整したほうが、二度手間にならないで済むということになる。2024年3月に上越新幹線のダイヤを修正、2025年3月に東北・北陸新幹線のダイヤを修正するというのも無理がある。北陸新幹線最終「あさま」633号は22時08分東京発、23時50分長野着と遅いため、工事時間の拡大対象として削りたくなるような列車である。東北新幹線のダイヤを見ると、仙台行き最終「やまびこ」223号21時44分東京発、23時46分仙台着のあとは那須塩原行きしかなく、その最終も「なすの」281号22時44分東京発、23時52分那須塩原着となっている。こちらは「やまびこ」「なすの」を調整すれば済む話だ。これで工事時間を増やせる。

 最終列車の調整を考えると、JR東日本は東北・北陸新幹線の繰り上げをどうするか早いうちに決めて発表する必要がある。東京~大宮間のダイヤをどうするかが、上越新幹線にとっても重要である。

 新幹線の終電繰り上げは、新幹線通勤の人や出張者などにとっては重要なため、早めに詳細を決めて発表してほしいものである。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

小林拓矢の最近の記事