中国・ファーウェイの“逆襲”、米国を抑え込めるのか?
米国による中国通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)の封じ込めが続くなか、同社は新興国市場での存在感を高めることで再浮上を図っている。政治的安定や治安維持を急ぐ新興国の指導者には、ファーウェイが唱える「安全都市」のシステムは魅力的に映る。新興国市場を足掛かりにファーウェイが“逆襲”に転じているような印象がある。
◇大規模な新興市場で存在感
米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)シニアフェロー、ジョナサン・ヒルマン氏が「ファーウェイの逆襲」という論文を書き、11月9日に米外交誌「フォーリン・アフェアーズ(Foreign Affairs)」電子版に掲載された。
ここ数年で、ファーウェイは「中国のハイテクによる脅威」の象徴的存在となり、半導体のサプライチェーン(供給網)の主要部品から切り離されている。米国は同盟国を含む諸外国に、ファーウェイ製品を次世代通信規格「5G」のネットワークに使用しないよう要請するなど、世界規模で圧力をかけてきた。ヒルマン氏は「こうした懲罰的な措置が影響して、同社の収益は4四半期連続で減少している」と指摘する。
その一方で、この状況にファーウェイは順応していると、ヒルマン氏はみる。ファーウェイは既にネットワーク機器やスマートフォンから、最先端の半導体への依存度が低いクラウドコンピューティングや電子政府サービスなどの製品に軸足を移しているという。併せて、自社の技術が広く受け入れられている発展途上国で積極的なマーケッティングを続け、ブラジルやインドネシア、ナイジェリアなどの大規模な新興市場での存在感を高めることで、ファーウェイは再び浮上することを目指しているというのだ。
◇「安全都市」
「差し迫った問題を解決するためのテクノロジー」を求める政治家にとって、ファーウェイは魅力的な企業にみえる――ヒルマン氏の見解だ。これを、アジアの発展途上国の主要都市の市長の立場で考えれば、次のようになるという。
市は危機の連鎖に直面している。新型コロナウイルス感染で医療システムは崩壊寸前となり、経済的にも大打撃を受けている。債務は危険なほど高額で、開発プロジェクトのための借金や融資が制限されている。犯罪が外国人投資家を脅かす。市長は2年後に次の選挙を控えているが、政治的な見通しは市の将来と同様に不透明……。
この状況の中でファーウェイの「安全都市」という売り文句が響く。「市長にはこれが “祈りの答え”のように響くかもしれない」(ヒルマン氏)というわけだ。
ファーウェイは、高熱の人を特定するための温度検知カメラ、指名手配中の容疑者を見つけ出すための顔認識ソフトウェア、異常な行動を警察に知らせるためのデータ分析結果などを提供する。これらのシステムの導入を円滑に進めるため、同社は中国の国有銀行による融資をパッケージにするかもしれない。「オプションメニュー」には、サーバーで埋め尽くされたビル、国民識別システム、税務サービス、選挙支援などのサービスもあるそうだ。
◇セキュリティよりコスト
もっとも、セキュリティ面では新たな課題が起きているようだ。
ファーウェイが提供した▽エチオピア政府のサーバー▽パキスタンの監視カメラ▽パプアニューギニアのデータセンター――などでデータ流出といった問題が起きているという。ファーウェイは中国当局から長年にわたって支援を受け、要請があれば中国の情報活動に協力することが法律で義務付けられているため、ファーウェイに依存する国は、中国からの圧力に脆弱にならざるを得ない。
論文によると、現在、国内総生産(GDP)に占めるデジタル領域の収益の割合が最も大きい上位30カ国のうち、16カ国が発展途上国だそうだ。人類の半数がいまだにインターネットへのアクセスが限られているか、ネット環境が存在しないという点を考えると、今後の成長の可能性は大きいといえる。
ヒルマン氏は「米国とその同盟国が、経済的、技術的、戦略的に中国に対抗することを真剣に考えるならば、発展途上国のデジタル面でのかかわりを強化しなければならない」と指摘する。発展途上国ではセキュリティよりもコストが優先されることが多く、ヒルマン氏は「米国とその同盟国が成功するには、中国の技術に代わる手ごろな選択肢を提供する必要がある」と呼びかけている。