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ここまで来た習近平中国のハンパない「ぜいたく禁止」――誕生会も新築祝いも禁止

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
中国では結婚式でも倹約が求められている(写真:アフロ)

 中国の習近平(Xi Jinping)政権が公務員に対する「ぜいたく禁止」を続けるなか、地方都市では誕生日パーティーや新築祝いの禁止、結婚式・葬式の費用・規模の圧縮など、徹底的な倹約が図られている。地方政府は近年、中央の指示を受けて厳格な措置を取る傾向があり、庶民の間には「行き過ぎている」との悲鳴も聞かれる。

◇冠婚葬祭は主催者の社会的地位を示す指標

 湖南省の日刊紙「瀟湘晨報」ウェブサイトの今月7日付記事によると、ベトナム国境にある雲南(Yun-nan)省富寧(Funing)県(人口約40万人)は今月3日、冠婚葬祭に関する新たな規則を制定。県内すべての共産党員や公務員、自治組織のリーダーを対象に「厳格・シンプル・倹約を順守し、コストを削減し大衆の負担を軽減する」ことを要求した。

 具体的には、結婚式の披露宴は20卓以下・招待客は最大200人▽使用する車は10台以下▽ホテルなどで開催する場合、アルコール代を含む食費は1人当たり50元(約850円)以下、自宅開催ならテーブル当たり300元(約5000円)以下▽祝儀は200元(約3400円)以下――としている。

 葬儀も▽儀式を簡略化して花輪も減らす▽豪華な墓をつくらない▽葬儀期間は3日以内▽葬儀での会席は1回だけ▽香典は200元以下――などに抑制的にするよう求めている。

 富寧県は「冠婚葬祭で趣味の悪い行動、無駄遣いが横行し、伝統的な意味を損なっている」と規則の制定趣旨を説明している。

 禁止事項はこれにとどまらない。誕生日・長寿・子供の満1カ月・各種記念日から、昇進・進学・軍への入隊・新築などに至るまで、あらゆるパーティーの開催が厳格に禁じられるようになった。

 また、結婚式を開催する際、場所・時間・招待客リスト・費用などを事前に地元政府に報告する▽葬儀を営んだ場合、10日以内に詳細を報告する――ことがそれぞれ義務付けられている。

 中国では伝統的に、冠婚葬祭は主催者の社会的地位を示す指標とされ、豪華式典を開催することが重視されてきた。特に、伝統を重んじる農村部では、結婚式は数日間に及び、葬式でも大行列になることがあった。高額の祝儀・香典が賄賂の意味合いを帯びることもしばしば指摘されてきた。

◇厳格措置に市民の間に不満も

 中国ではかつて、高級官僚は接待漬けにされてきた。宴席では高級酒やフカヒレ、上海ガニなどの高級料理がふるまわれ、高級クラブなどでの接待も繰り返されてきた。党高級幹部が賄賂に手を染め、ぜいたくな生活スタイルをしていたことが暴露されたこともあり、庶民の強い反発を招いていた。

 こうしたなかで習近平指導部が2012年に発足。その直後に、腐敗一掃に向けた「八カ条の決まり」が発表され、ぜいたくを戒める通知が次々に発出された。

 高級料理はもちろん、職務と関連のない娯楽活動での接待から、中国でお月見を祝う「中秋節」に欠かせない月餅の高級品まで、多種多様な高級品がターゲットにされた。現金や有価証券を贈ったりすることは言語道断だ。各地の監督機関は、ぜいたく禁止令違反を次々に摘発し、処分を進めてきた。

 その結果、高級ホテルは会議、パーティー、出張での利用が制限されて稼働率は急落。飲食店や贈答品、旅行などの業界に大きな影響が出た。中国本土からの観光客の購買力をあてにしてきた香港の高級宝飾品店でさえも大打撃を受けた。

 香港の有力英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)によると、中国政府は2019年、習慣の変更に関する指示を通じて、地方政府に対して、冠婚葬祭が豪華なものにならないよう、村単位で詳細な方針を出すよう命じてきたという。

 このため、地方政府の多くが近年、厳格な措置を取る傾向があり、庶民の間には「強引で押しつけがましく、行き過ぎている」との批判も出ている。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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