世界の耳目がウクライナ情勢に集まるなか、イスラエル、ヒズブッラー、ロシア、トルコがシリアで軍事攻勢
ウクライナ情勢が、国際社会、なかでも欧米諸国や日本の耳目を奪うなか、国際政治におけるもう一つの主戦場である中東のシリアでも、大国が互いをけん制し合うかのように軍事攻勢に出ている。
イスラエルによるミサイル攻撃
国営のシリア・アラブ通信(SANA)がシリア軍筋の話として伝えたところによると、イスラエル軍が2月23日午前0時30分頃、占領下のゴラン高原からクナイトラ県内の複数カ所を地対地ミサイルで攻撃、これにより若干の物的被害が出た。
英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、この攻撃でバアス市の財務局ビル、ルワイヒーナ村一帯の複数カ所が狙われた。
同地を含むシリア・レバノンとイスラエルの境界地帯には、レバノンのヒズブッラーをはじめとするいわゆる「イランの民兵」が拠点を設置し、展開している。
また、イスラエルのニュースサイト「タイム・オブ・イスラエル」(2月23日付)によると、イスラエル軍はこの攻撃の数時間後に、ヘリコプター複数機から、クナイトラ県一帯に「我々はシリア軍の将兵に警告した。我々はあなた方に警告を続けた。あなた方がヒズブッラーを支援し続ける限り止めることはない」などと書かれたビラを散布し、シリア軍を脅迫した。
イスラエル軍はさらに、1月24日午前1時10分、ゴラン高原のガリラヤ湖北上空から首都ダマスカス一帯の複数カ所を狙ってミサイル多数を発射した。
シリア軍防空部隊が迎撃を行い、ほとんどを撃破したが、この攻撃によりシリア軍兵士3人が死亡、物的被害が出た。
イスラエルは、ウクライナ情勢への対応に追われるなかで、イランが増長するのを警戒するかのように、シリアへの越境攻撃を強めており、今回の2度の攻撃を含めて今年に入って8回の侵犯行為を行っている。
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■イスラエルがシリアの首都近郊を越境攻撃する一方、トルコは北東部のロシア軍基地近くをドローンで爆撃
ヒズブッラーによる威力偵察
なお、ヒズブッラーが主導する軍事組織のレバノン国民抵抗は2月18日、ハッサーン無人航空機(ドローン)が占領下パレスチナ(イスラエル北部)上空で4分間にわたり偵察任務を実施し、イスラエル軍に迎撃を受けつつも無事帰還したと発表した。
ロシアがトルコ占領地を爆撃
一方、シリア北部では、クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)に近いハーワール・ニュース(ANHA)やシリア人権監視団によると、ロシア軍戦闘機1機が2月23日、トルコの占領下(いわゆる「ユーフラテスの盾地域」)にあるアレッポ県北部のタルヒーン村(バーブ市近郊)の東に位置するハダス村にある石油精製施設を爆撃した。
ANHAによると、ロシア軍戦闘機は3日前からアレッポ県北東部上空に飛来、熱気球を放ち索敵を行っていた。また、シリア人権監視団によると、ロシア軍は23日にも同地に近いバルシャヤー村上空に熱気球を上げていたという。
ロシア軍がトルコの占領下にあるシリア北部(いわゆる「ユーフラテスの盾」地域、「オリーブの枝」地域、「平和の泉」地域)に対して爆撃を実施するのは異例。
トルコもシリア政府とPYDの共同支配地を爆撃
シリア人権監視団によると、これに対して、トルコ軍もシリア政府と北・東シリア自治局(PYDが主導する自治政体)の共同統治下にあるマンビジュ市東のジャート村にあるシリア軍とマンビジュ軍事評議会(PYDの民兵である人民防衛隊(YPG)を主体とするシリア民主軍に所属する武装勢力)の合同軍事拠点1カ所をドローンで爆撃、これによりシリア軍兵士2人が負傷した。
ANHAによると、トルコ軍はまた、マンビジュ市北東のヒサーン村を戦車で砲撃した。
トルコ占領地に対するロシア軍の爆撃は、ウクライナ情勢に対する国際社会の関心の高まりに乗じて、トルコがシリア北部でシリア政府に対する更なる優位を確保しようとすることを警戒した動きと捉えることができる。また、トルコ軍の攻勢も、欧米諸国や日本による新たな制裁に直面することとなったロシアに対して、「分離主義テロリスト」と目されるPYDへの圧力を強めることを黙認させようとするジェスチャーに見える。