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かの気球と関係か…中国が4年前、飛行船で「上空から世界を眺めるプログラム」

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
成層圏の飛行船のシミュレーション画像(南方日報のサイトよりキャプチャー)

 中国の偵察気球を含む一連の飛行物体に絡んで、いま、にわかに注目を集めているのが、中国が約4年前に明らかにした「ニアスペース(近宇宙)プロジェクト」だ。飛行船を高度20,000mでアジアからアフリカ、北米、太平洋まで飛ばしていたためだ。

◇「人類による初めての世界一周飛行」

 中国共産党広東省党委員会機関紙「南方日報」の電子版(2019年8月21日付)には、無人飛行船「追雲号」(全長100m、重さ数トン)が同7月27日に飛び立ち、高度20,000mを進みながら、アジアからインド洋、アフリカ、大西洋、北米、太平洋を通過し、地球を半周している――こう紹介されている。

 これを主導したのは北京航空航天大学副校長の武哲(Wu Zhe)氏(1957年2月生まれ)。同大学は中国の航空・宇宙研究の最前線の組織だ。

 中国メディアによると、武哲氏は20年近く、飛行機器の開発に携わり、航空機の形状や電磁波散乱メカニズムにおける新発見▽戦闘機や無人航空機(ドローン)、ヘリコプターの総合統合設計環境システム・対応データベースの研究開発▽ステルス技術の応用における重要な業績――などがあるという。

 南方日報には、「追雲号」の飛行に関連した武哲氏の次のようなコメントが記されている。「20,000mの上空において、空気動力の制御された成層圏の飛行船を使った、人類による初めての世界一周飛行だ」

 中国の巨大な高高度気球が米全土に浮かび、米国が大騒動に巻き込まれる何年も前に、武哲氏のチームは20,000m上空に飛行船を打ち上げ、北米を含む地球上のほとんどの地域を周回させていたわけだ。

◇中国の野心の中心人物

 南方日報によると、地上約20〜50kmの大気圏は「ニアスペース」と呼ばれる。米紙ニューヨーク・タイムズによると、約20~100kmは、ほとんどの飛行機にとって長く滞空するには高すぎ、宇宙衛星にとっては低すぎるという。ニアスペースは未開拓とされ、成層圏飛行船を開発し、ニアスペースを探査すれば、人類の宇宙利用が画期的に拡大されるそうだ。

 ジェット戦闘機の設計に携わり、ステルス素材の専門知識も身につけ、その研究で中国軍から表彰され、北京航空航天大学副校長を務めた――そんな武哲氏が、中国の「ニアスペース」分野における野心の中心人物として浮上したというわけだ。

 南方日報は、成層圏飛行船の応用領域は非常に広く、無線ネットワークやスマートシティの構築▽各種災害警報▽監視・臨時ネットワーク▽空中偵察▽環境・汚染源検知――など、幅広い用途に利用できると紹介している。

◇21世紀の競争領域

 武哲氏のプログラムは、国内および軍事的な必要性から、高高度の飛行船を使って地上の活動を監視しようとする中国政府の意図を示す証拠といえる。

 さらに、中国は宇宙強国への野望を抱き、宇宙空間におけるプレゼンスを確立するため、ニアスペースでの影響力を高めようとしているのは間違いない。

 米紙ニューヨーク・タイムズによると、中国の軍事評論家は「ニアスペースは21世紀の軍事大国間の主要な競争領域」「そこでの競争では、宇宙船で優位に立った者が、より多くの主導権を握ることができる」と展望しているという。

 武哲氏のチームは2022年、ウェブページ上で、三つの高高度の気球を同時に打ち上げてネットワークを形成する計画を持つと明らかにしている。最終的には、少なくとも8万フィート(24,384m)の高さに浮かぶ固定気球を使って、空中通信網を構築することだと宣言していたという。

 一連の気球と武哲氏のプログラムがどのような関係があるのか。米国側の分析と中国側の釈明を待ちたい。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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