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アフガニスタン暫定政権のキーパーソン――タリバンは何が変わったのか

六辻彰二国際政治学者
カブールでの反パキスタンデモと周囲で警備に当たるタリバン兵(2021.9.7)(写真:ロイター/アフロ)
  • 7日に発足した暫定政権は国内融和よりタリバン内部の派閥間の論功行賞の意味合いが強い。
  • 派閥のなかには実利性重視の穏健派から、これに対立する急進派まであり、そこには3人のキーパーソンがいる。
  • 暫定政権は一枚岩ではなく、3人の力関係がこれを突き動かす原動力になる。

 いよいよ発足したタリバン暫定政権は、「国内融和」より「派閥間の論功行賞」の意味合いが強い。とりわけキーパーソンの処遇をみていくと、今後の暫定政権の難しさが浮き彫りになってくる。

論功行賞のための暫定政権

 8月15日にアフガニスタンの首都カブールを制圧したタリバンが9月7日、暫定政権の閣僚名簿を発表した。それに先立って、タリバンは「国民を癒す政府(caretaker government)」の発足を強調していた。

 しかし、フタを開けてみれば案の定というべきか、33人の閣僚のほとんどがタリバンメンバーだった。タリバンの大半を占めるパシュトゥーン人以外の民族出身者はほとんど入閣しておらず、女性閣僚もいない。

 アフガニスタンにあるアメリカン大学のオバイドゥラ・バヒール教授は「大半の時間はどうやって多くの勢力を組み込んだ包括的な政府を作るかではなく、どのようにタリバンのなかでパイを分け合うかについての話し合いで費やされた」と批判する。

 もっとも、世界中どの国をみても、軍事力で権力を奪取した者が、敗北した側やそれに連なる者を率先して新体制に迎えた歴史はほぼない(最後の将軍、徳川慶喜が明治新政府のもとで公爵に列せられたように、敗れた側に名目的な役職が与えられることはしばしばあるが)。その意味では、今回の暫定政権の陣容は不思議ではない。

主要閣僚の顔ぶれ

 それでは、暫定政権の閣僚にはどんな人物がいるのか。以下では、4人のキーパーソンに絞ってみていこう。

【首相】ムハンマド・ハサン・アフンド

 まず、首相就任が発表されたムハンマド・ハサン・アフンドは、タリバンでも古参メンバーの一人で、今年71歳になる。旧タリバン政権では外務大臣も務めた。

 アフンドが首相になった大きな理由は、タリバンの現在の最高指導者ハイバトゥラー・アフンザダとの緊密な関係だ。

 宗教学者のアフンザダは、前指導者ムハンマド・マンスールが2016年に米軍の空爆で死亡した後、タリバン第3代の最高指導者になった。この際、アフンザダが最高指導者になることを強く推したのがアフンドだったといわれる。

 こうした経緯からみれば、アフンドが首相に就任するのは「収まりがよかった」かもしれない。ただし、タリバンは内部の派閥分裂が激しく、いかに古参幹部でもアフンド首相がトップダウンで物事を進めるとは考えにくい

 もともとタリバンは一枚岩ではなく、タリバンはアフガニスタン人口の約40%を占めるパシュトゥーン人によって構成されているが、パシュトゥーン人の中もドゥラニ族、ホタキ族、カルラニ族などの部族連合によって分かれている。また、歴代の最高指導者のうち、誰を支持するかによっても立場が分かれている。

 こうした派閥をそれぞれ率い、タリバン内部ですでに大きな影響力をもっているのが以下の3人で、実際にはこの3人のその時々の力関係がアフンド首相を動かすことになるとみられる。

【副首相】アブドゥル・ガニ・バラダル

 タリバン設立当時からのメンバーで、初代指導者オマルとも近く、オマルが潜伏中には副代表として代行することも多かった。いわばタリバンの影の指導者ともいえる

 アメリカから制裁対象となり、2010年にパキスタンで拘束された。しかし、2018年に釈放されると、カタールにあるタリバン事務所の代表に就任し、事実上タリバンの外交責任者となった。

 アメリカとの徹底抗戦を叫ぶ声を抑え、和平合意を進めたのもバラダルである。その意味で、実利的な思考パターンが強い。

 タリバンがカブールに向けて大攻勢をかけていた8月末、バラダルは中国政府の招きに応じて北京を訪問し、外交関係の構築に着手したが、「中国国内のムスリム弾圧について口を出さない」という姿勢は、良くも悪くもその現実路線を象徴する。

【内務相】シラージュディン・ハッカーニ

 バラダルといわば対極にあるのが、内務大臣に就任するハッカーニだ。

 ハッカーニはタリバン内部にあった軍務委員会や財務委員会を束ねてきた、いわば番頭格だ。正確な年齢は不明だが、54歳のバラダルより10歳ほど若いとみられている。

 首相のアフンドや副首相のバラダルがパシュトゥーン人の中でも主流派とみなされるドゥラニ族出身なのに対して、ハッカーニはカルラニ族で、主流派への反感が強いとみられる。

 実際、ハッカーニはハッカーニ・グループと呼ばれる、タリバンの中でも最も強硬な路線の一団を率いていて、バラダルら主流派が進めたアメリカとの和平合意にも反対してきた。独自のテロ活動も数多く行なってきたため、やはりアメリカから制裁の対象になっており、FBI も追っている。

 国際的な承認を得ることを優先させたいバラダルと、イスラーム主義的な主張を強調するハッカーニの綱引きは、今後のタリバン暫定政権の行方を大きく左右するとみられる

【国防相】ムハンマド・ヤクーブ

 最後の一人が、国防相に抜擢されたムハンマド・ヤクーブだ。31歳と主要閣僚のなかでとりわけ若い。

 若くして国防相に就任したヤクーブは、初代指導者オマルの長男で、2013年にオマルが死亡した後、第2代指導者マンスールとの確執も伝えられた。しかし、マンスールと和解後はタリバン内部で頭角を現し、昨年軍事部門を率いるポジションについたといわれる。

 その出自からも、いわばタリバンの「ホープ」といってよいヤクープの立場は、「穏健派」バラダルと「強硬派」ハッカーニの中間にあるといえる。

 ヤクーブはバラダルが推し進めたアメリカとの和平合意を基本的に支持し、和平合意が進むなかで米軍への攻撃を控えたといわれる。

 ただし、その一方で、ヤクーブはアメリカの撤退を待たずにカブール進撃を推し進めた。ロンドンにある王立防衛安全保障研究所のアントニオ・ジュストッツイ博士はこれを「強硬派をなだめるため」とみている。つまり、ヤクーブにもハッカーニら強硬派をただ押しとどめることは難しいのである。

革新派と守旧派

 このように一枚岩でないとすると、今後ともタリバン暫定政権の運営は困難を極めるとみられる。

 欧米からの懸念を受けて、タリバンは報道の自由や女性の権利を擁護すると再三述べているが、他方ではドイツ人ジャーナリストの家族が混乱の中で射殺されたり、女性のデモ参加者に威嚇発砲したりするなど、公式の表明とのギャップが目立つことも現場レベルでは発生している。

 こうしたことから、「結局タリバンは変わっていない」というのが西側の論調の大半を占めているようにみえる。

 とはいえ、いきなり全てが変化することを期待する方が非現実的だ。むしろ、「タリバンが変わっていない」というより、「変わろうとする勢力とそれに反発する勢力が拮抗しているのが今のタリバン」とみた方がよいだろう。

 どんな国や組織であれ、革新派も守旧派もいる。その意味では、タリバンも当たり前の人間集団と変わらないのであり、その行方を見定めることが各国には求められるのである。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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