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『全領域異常解決室』絞め落とし決着とラストすれ違いの意味 秀逸な社会派オカルトドラマだった

武井保之ライター, 編集者
フジテレビ『全領域異常解決室』公式サイトより

藤原竜也が主演を務める『全領域異常解決室』(フジテレビ系)の最終話が放送された。圧巻だった。

最終話では、ついに本作のなかでの謎の神・ヒルコの正体が明らかになる。二重三重のミスリードを経てたどり着いたその存在の背景や行動原理には説得力があり、物語の構造と巧みなストーリーテリングに唸らせられた。

最後の天石戸別神(藤原)とヒルコの対決において、人間が雌雄を決する場に絡むキーパーソンになっていた。そして、その闘いの結末は、神の力ではなく、関節技など体がぶつかり合う格闘の末の絞め落としだった。神々の闘いの最後の決着の場には、人間くさい姿があった。

本作には、神話の時代から生きる神々の視点を通した、いまを生きる人々や現代社会に対するメッセージが節々ににじんでいた。象徴的なのは、最終話で描かれた大勢の人々の自殺の裏にあったものだ。それは、神の力ではなく、人間によるテクノロジーであり、そこに込められた悪意だった。

そこには、匿名の悪意がうずまくSNSが影響力を持つ社会と、それに依存する生活がふつうになり、思考停止する人々への警鐘があるだろう。とくに、英有力メディアは社会的害悪と糾弾していた、Xに対する、そのあり方への疑問の投げかけがあるように感じた。

本作は、そんなSNSの位置づけを含めて、現代人がいまの社会で、わずか100年足らずの人生をどう生きているかを、何千年と生きる神の視点を通して客観視させた。そこから、いつか必ず誰にも訪れる死への意識を明確にすることにより、人それぞれの生き方や生きる意味への気づきを与えようとしている。

ラストシーンのすれ違いが意味すること

そんなメッセージとは別に、本作は純粋にエンターテインメントとして深く楽しめる秀逸な物語であり、社会派オカルトドラマの傑作だった。

振り返れば、そのストーリー、物語設定、キャラクター造形、10話を通した物語の構造、世界観、オカルトと人間ドラマのバランスなど、すべてが完璧に調和したエンターテインメントであり、最終回の最後の最後まで興味を引き続け、次へと視聴者の関心をつなげた。

ラストシーンが意味することは、2つ考えられる。天石戸別神は、神に戻ることが叶わなかった雨野小夢(広瀬アリス)に「事戸渡し」を行うふりだけで、記憶を消さなかったのか。それとも、雨野はその後のどこかで天宇受売命に戻っているのか。

そして、まだ本物のヒルコは登場していない。

次作が待ち遠しい。ただ、本作が10話を通して高度に作り上げられたエンターテインメント大作だっただけに、それを越えることへの期待に応えるのは簡単ではないだろう。しかし、そこから新たなIP展開がスタートすることになる。

ひとつだけ願うのは、映画化ではなく連続ドラマでやってほしいということ。本作の完結は映画で、と言われたら、これまで引き込まれていた視聴者は一気に興冷めする気がする。

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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