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『海のはじまり』毎週切なさが積み重なり心が温まる ドラマだから今の時代に伝えられる人生の学びがある

武井保之ライター, 編集者
フジテレビ『海のはじまり』公式サイトより

フジテレビ月9『海のはじまり』が放送を重ねながら、親と子の向き合いを中心に据えて、それぞれの登場人物が受ける心の傷と、それを真正面から受け止めてまっとうに生きる人生のあり方を映し出し、心を揺さぶられる。

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7月29日放送の第5話では、主人公・月岡夏(目黒蓮)が自身の家族(実の母と血のつながらない父と弟)に、娘・海(泉谷星奈)の存在をようやく打ち明けた。7歳の孫(姪)がいることを突然知らされた家族それぞれのリアクションは、血の通ったリアルなものだった。

とくに母から夏への言葉には、親から子への教えがあり、他者の気持ちを最優先にして慮る親だからこそ言える正論があった。

一方、夏は自分の考え方や立場について言っておきたいことはありつつも、親のまっとうな言葉の前に口を挟まない。親の意を理解しているから、すべてを受け止める。その真摯な姿からは、いくつになっても強い絆で結ばれる親子の関係性のあるべきひとつの理想が説かれていた。

その後、夏は海を家族と会わせる。孫との初対面での両親の嬉しそうな表情と、弟の姪への愛情あふれる姿に心が温まる。そして、夏の両親から海を育てた祖父母へ謝罪の連絡があり、後日挨拶に行くことを約束する。

当事者誰もがそれぞれ複雑な感情を抱きながらも、お互いの前向きな気持ちがにじんでいた。

ドラマだから伝えられる人生の学びがある

そこで描かれるのは、性格も社会的属性も家族としての立場も、人生すべてが異なる家族を含めた関係者それぞれが受ける心の傷ととまどい、悲しみとの向き合い方だ。そして、これから誰のためにどう生きていくべきか。

人生の壁にぶつかること、突然暗闇に突き落とされること、何をどうすればいいのかわからなくなるような場面に遭遇することは、誰もの人生にいつかどこかで起こることだろう。

本作は、そんなときの人生への向き合い方のひとつの答えを、彼らの人間ドラマを通して切々と訴えかけてくる。

振り返って、いまのネットやSNSという空間で、趣味趣向の合う仲間だけで集まるコミュニティと四六時中つながる子どもたちと親の間に、どれだけ会話があるのだろうか。そこに欠けていがちな人としての気持ちの持ち方や、他人への思いやりなど人生への教えがこのドラマにはある気がする。

インスタやX、ネットニュースをいくら見ても得られない学びや感情の揺れを、人間ドラマを通して心で感じることができる。中高校生など思春期の年代こそ本作から感じ取ること、得るものが大きいだろう。

水季(古川琴音)の人生へ思いを寄せることの意義

物語はいよいよ女手ひとつで海を産んで育てた水季(古川琴音)の人生へ、夏が思いを寄せるパートに入る。水季とその周囲の人たちの心のうちには、当事者にしか計り得ない感情があるはず。

それを目の当たりにさせるドラマからは、見る人それぞれに何かを考えさせ、感じさせる。これまで以上に感情を揺さぶられることだろう。それは誰もの人生の糧になるに違いない。本作はそんな意義のあるドラマだ。

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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