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『あまちゃん』再放送で再発見する「ここがスゴイ!」その2

碓井広義メディア文化評論家
三陸鉄道リアス線(写真:イメージマート)

再放送の第1回を見ながら、あらためて宮藤官九郎さんが手掛けた「脚本」の凄さを感じました。

ここには、いわゆる一般の連ドラだけでなく、半年間の放送という朝ドラの「初回」に求められる、全てがあります。

「クドカン脚本」の凄さ

どんな物語なのか。

登場人物はどんなキャラクターなのか。

ドラマの雰囲気は明るいのか、暗いのか。

テイストは笑えるのか、それともシリアスか。

第1回には、ドラマ全体のイメージを明確にし、その魅力を訴求するという「役割」があります。

宮藤脚本は、それをきっちり果たしていました。

東北の北三陸という海辺の町が、物語の舞台の一つであること。

そこに、もう一つの舞台となる東京から、一組の「母娘」がやって来る。いや、帰って来たんですね、故郷に。

それが春子(小泉今日子)とアキ(能年玲奈、現在:のん)です。

何やら事情がありそうで、それは春子と彼女の母・夏(宮本信子)の過去に原因があるらしい。

そもそも、ドラマの冒頭がヒロインのアキではなく、若き日の春子(有村架純)のエピソードであること自体、普通じゃありません。

「もう一人のヒロイン」春子

このドラマにおける、春子の存在は重要です。

18歳だった1984年に、当時の女子中高生を象徴する「聖子ちゃんカット」のヘアスタイルで、家出をしました。

そして24年後、高校生の娘を連れて、北三陸へと帰郷したわけです。

自分が捨てた、寂れた小さな町の駅に、白のブラウスと赤のロングスカートにサングラスという姿で降り立った春子。

彼女には、見る側が謎の24年間を想像したくなるような、それまでの「女の軌跡」の重さというか、ちょっとした「やさぐれ感」が全身から漂っていました。

演じる小泉今日子さん、ハマり過ぎです(拍手!)。

かつてアイドルになるべく東京へと向かった春子。

しかし、目的を果たせないまま結婚し、子育てを続けてきたのです。

では、なぜアイドルになれなかったのか。

物語の進行と共に、春子のいわば「秘密の過去」が徐々に明らかになっていく。

これは、そんな「複線」のドラマであり、春子は「もう一人のヒロイン」でもあるのです。

いや、そうじゃないですね。「三人目のヒロイン」もいました。春子の母であり、アキの祖母である夏です。

大胆な「トリプルヒロイン」

遠洋漁業の船に乗る夫(蟹江敬三)に代わり、一人で家を守ってきた、海女(あま)一筋の60代女性。

一般的な朝ドラにおける「ヒロインの祖母」は、どちらかといえば「遠くで見守る人」という場合が多いのです。

しかし夏の場合は、海女クラブ会長として、また海女の大先輩として、やがてアキを指導していく立場にあります。

孫のアキへ、海女の継承はいかに行われるのか。

また、24年前、娘の春子との間に何があったのか。

その確執はどう解消されていくのか。

アキの、また春子の心の拠り所としての夏は、物語展開に大きくからむ「第三のヒロイン」と言っていい。

この「トリプルヒロイン」という大胆な設定が、幅広い視聴者層を巻き込み、それぞれの世代の目線でドラマに参加することを可能にしています。

(つづく)

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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