Yahoo!ニュース

朝ドラ『おむすび』を揺さぶる、見る側の〈ギャル〉アレルギー

碓井広義メディア文化評論家
ドラマのタイトルは「おにぎり」じゃなくて「おむすび」(写真:アフロ)

「架空の人物の現代物」は要注意

放送開始から1ヶ月以上が過ぎた、NHKの連続テレビ小説『おむすび』。

前作『虎に翼』は実在のモデルがいた「実録系」でした。しかも大正生まれの女性であり、近い過去とはいえ一種の「歴史物」でもありました。

今回は、「架空の人物」が主人公の「現代物」です。

実録系であれば、既にその人物に対する評価というものがあり、ドラマ化されても大きくズレることはありません。

しかし、架空の人物の現代物の場合は要注意です。過去の朝ドラには、「迷走するばかりのヒロイン」が複数いたからです。

『おむすび』が持つ「テーマ」

さて、『おむすび』です。現在の主な舞台は2004年の福岡県糸島郡です。

主人公は高校1年の米田結(橋本環奈)。両親と祖父母との5人暮しですが、最近、姉の歩(仲里依紗)が東京から戻って来ました。

これまでに分かったのは、このドラマにはいくつかのテーマがあるということです。

1つは、タイトルが象徴する「食」。結の家は農家で、食べることも大好きです。

「おいしいもん食べたら悲しいこと、ちょっとは忘れられるけん」といったセリフが、食に関わるであろう結の将来を暗示しています。

次は「災害」です。結は1995年の阪神淡路大震災の被災者でもあります。

神戸に住んでいましたが、震災を機に父親の故郷である糸島に移り住みました。

本作は、災害に遭遇した人たちの過去と現在、さらに「これから」も描こうとしていることがうかがえます。

「ギャル」への違和感

そして3番目のテーマが、「ギャル」です。

ギャル文化の全盛期は90年代後半。確かに、ドラマの背景である2000年代半ばにもギャルはいました。

とはいえ、すでに往時の勢いはなく、特に地方では微妙に「浮いた存在」と化していたのです。

そんなギャルが、ドラマでは何らかの「価値観」の「象徴」として扱われています。

強いて言えば、「他者からどう思われようと、自分のやりたいことを貫く意思」といったものかもしれません。

ところが、どこか無理があるんですね。「食」や「災害」とは異なり、「ギャル」に理屈抜きの拒否反応を示す視聴者は少なくないからです。

放送開始以来、毎朝、あの独特のメイクや「チョー受ける!」といった話し方、パラパラダンスなどに接することを、ストレスと感じてきた人もいるでしょう。

前述の「貫く意思」みたいなものも、これをドラマの中で「ギャルマインド」とか言われちゃうと、ちょっと困りませんか?

ギャルが、「サブカルチャー」としてある輝きを持っているのは確かです。

しかし、それを「メインカルチャー」のように提示されることに、どこか違和感があるのです。

今週に入っても、結がギャルをやめるとか、やっぱりギャルを続けるとか、何かとギャルをめぐる話題が続いていきそうです。

果たして、これほどギャルを引っ張って、今以上に見る側の「共感」が得られるのか。

見る側が抱える〈ギャル〉アレルギーのようなものを、無視したままでいいのか。

少々心配になりますが、ひとまず物語の行方に注目したいと思います。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

碓井広義の最近の記事