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FRPに匹敵?油ヤシの幹から生まれた新素材は熱帯雨林を救えるか

田中淳夫森林ジャーナリスト
油ヤシプランテーションは膨大な廃棄物を出す。(京都府立大学提供)

 現在、ヤシ油(パームオイル)は、日常生活に欠かせない存在になっている。

 食用油のほか、インスタント麺やスナック菓子、マーガリン、ショートニング……などありとあらゆる加工食品に利用されているうえ、石鹸の原料やバイオディーゼルなどの燃料としても重宝されているからだ。年間生産量は全世界で5920万トン(2014年)と、植物油脂全体の30%を占めており、日本では一人当たり年間約5キログラムのヤシ油を消費している計算になる。

 だが、このヤシ油を得るための油ヤシ(オイルパーム)は、熱帯雨林を破壊する元凶だと指摘されているのだ。

 なぜなら、油ヤシのプランテーション(農園)は、広大な熱帯雨林(熱帯でしか栽培できない)を伐採して拓かれているからだ。栽培面積は、正確な統計はないが、全世界で2000万ヘクタールを優に超えていると思われ、その8割以上をインドネシアとマレーシアで占めている。 日本の面積の半分以上が油ヤシで埋めつくされたようなものだ。なかには一つの農園の広さが60万ヘクールというところもあって、まさに地平線まで広がっているのだ。

 これほど増えたのは、油脂の使い勝手の良さだけでなく、やはり大量生産による安価さが魅力だからである。

地平線まで続く油ヤシプランテーション(マレーシア・サバ州)
地平線まで続く油ヤシプランテーション(マレーシア・サバ州)

 問題は、プランテーション開発による森林破壊だけではない。

 ヤシは植えてほぼ3年目から油脂分がたっぷりの実を稔らせるが、20年以上経つと実の収穫量が低下するため伐採される。全栽培面積の 3%程度が毎年伐採の対象だ。インドネシアでは年間2000万トンの油ヤシ廃棄物が発生しているそうだ。一本のヤシは高さ 5メートルから12 メートルもあり、太さも30センチを超すから、伐採も大変だ。

 大部分は切り倒して小さくスライスするか、そのままの状態でプランテーション内に放置される。熱帯だけにすぐ腐朽するが、ものすごい悪臭が漂うそうである。さらに雨で流されて川を汚染することもある。そのためか古いヤシを伐採せずに放置することも多い。それより新たな森を切り開く方がてっとり早いからだ。これがまた森林破壊を増長させる。

 そこで、この廃棄される幹を利用して商品化する研究が行われている。廃棄樹幹による環境破壊を抑えるとともに、ヤシ油以外の収益源を生み出すためである。取り組んだのは、京都府立大学大学院の生物材料物性学研究室の面々。

 とはいえ樹幹は水分が6~7割も占め、伐採後はカビが生えやすくそのままでは使えない。また組織的には樹木というより竹などの草本に近いそうだ。

 まず浮かんだのは、幹を柔細胞と維管束という組織に分けて使うということだった。とくに油ヤシの樹幹は、水や養分を通す維管束組織が非常に長い繊維になって多く存在している。

「普通に破砕すると、維管束の繊維も短くなってしまいますから、ローラー式のゼファー処理機にかけて、柔細胞を分離して数十センチもの長い状態の維管束を取り出しました。それを樹脂で固めてボードにしてみたんです」(古田裕三教授)

 油ヤシの維管束は、繊維が長いだけでなく複雑に絡み合っている。たとえば竹も長い維管束を持つが、繊維自体はばらけやすい。だから油ヤシから新たに作られた維管束ボードは強靱なのだ。

 さらにエネルギーの吸収率が高いのだそうだ。硬いだけのボードだと、何かをぶつけた場合、ぶつかった側が壊れるか、あるいはより強い力を加えると粉砕されてしまう。だがエネルギーを吸収しやすいと、ふんわり受け止める素材となるという。それならガードレールなどの素材に向いているのではないかと期待する。

長い状態で取り出せた維管束
長い状態で取り出せた維管束
油ヤシの維管束から作られたボード
油ヤシの維管束から作られたボード

「一見チップを固めたパーティクルボードに似ていますが、むしろ性能は樹脂にガラス繊維などを埋め込んだFRPに近い。だからライバルは木質ボード類ではなくて、FRPや金属製品です」(古田教授)

 FRPと似ているなら、自動車や鉄道車両の内外装、あるいはユニットバスのような住宅設備にも適しているかもしれない。プラスチックや金属の製品を木質ボードに換えられたら目に優しく写るだろうか。

 さらに分離した柔細胞は、豊富なデンプンを含むことから、家畜の飼料に向いていることがわかった。ブタやウシに与えてみたが、よく食べて混合飼料の一つとして十分に使えると確認できた。またデンプンだけを抽出すれば食品化も夢ではない。

 いずれも素材は廃棄物なのだから、原材料費はゼロに近いだろう。すでにボードや飼料としての使い道に興味を示しているメーカーがあるそうだ。

 増産の続くヤシ油だが、需要はいつまでも伸び続けない。油だけの生産では土地収益性も低いままだ。薄利多売するため大量生産を続けようとすれば環境破壊を増大させていつか行き詰まる。しかし樹幹などから新建材や飼料を生産できれば、収益性を高め農園の野放図な拡大を抑えられるだろう。

 それはプランテーション経営を循環型・環境保全型産業に変える一助とならないだろうか。

(維管束の写真は京都府大提供、ほかは筆者撮影)

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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