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新型コロナの発症予防に抗体カクテル療法が適応拡大 影響は?医師が解説

倉原優呼吸器内科医
photoACより使用

抗体カクテル療法の「予防投与」が承認

新型コロナ治療薬のうち、抗体カクテル療法と呼ばれているカシリビマブ/イムデビマブ(商品名:ロナプリーブ)は軽症~中等症Iの新型コロナ治療薬として、2021年7月に特例承認されました。外来での点滴投与にも適応拡大され、往診などで活躍してきました(抗体カクテル療法がどういうものか?についてはこちらに詳しく書きました:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20210723-00248995)。

11月4日の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会において、新型コロナ発症前に抗体カクテル療法を投与する「予防投与」の適応拡大が承認されました。ただし、現時点では、患者と同居している濃厚接触者や無症状感染者、重症化リスクがある人、ワクチン接種歴がないか効果が不十分と考えられる人、に限定しています。これにより、中等症以下において抗体カクテル療法が対象となりました。なお、もう1つの抗体療法であるソトロビマブ(商品名:ゼビュディ)については、予防投与の適応はありません。

新型コロナ治療薬のまとめ

2021年11月5日現在承認されている新型コロナ治療薬は、ウイルスが増えるのを抑えるレムデシビル(商品名:ベクルリー)、ウイルスによる炎症を抑えるデキサメタゾンバリシチニブ(商品名:オルミエント)、ウイルスのはたらきを抑えるモノクローナル抗体である抗体カクテル療法カシリビマブ/イムデビマブ(商品名:ロナプリーブ)およびソトロビマブ(商品名:ゼビュディ)の5つです。このうち、軽症の新型コロナの治療オプションとしては現在カシリビマブ/イムデビマブとソトロビマブの抗体療法が承認されており、今後、メルク社のモルヌピラビル(1)やファイザー社のパクスロビドの承認が見込まれています。モルヌピラビルについては、濃厚接触者に対する予防投与についても現在臨床試験が進められています。

図1. 2021年11月6日時点での新型コロナ治療薬のまとめ(筆者作成)
図1. 2021年11月6日時点での新型コロナ治療薬のまとめ(筆者作成)

抗体カクテル療法の予防投与の効果

抗体カクテル療法カシリビマブ/イムデビマブの予防投与に関しては、すでにアメリカで緊急使用許可が下りています。

新型コロナの家庭内濃厚接触者を対象に実施された抗体カクテル療法の臨床試験では、感染していなかった人の症状を伴う感染(症候性感染)の発症リスクを81.4%減少することが確認されました(2)(図2)。これをブレイクスルーして新型コロナを発症したとしても、有症状期間を大きく短縮できる効果もあります。

図2. 抗体カクテル療法の予防的皮下注射の効果(参考資料2より引用)
図2. 抗体カクテル療法の予防的皮下注射の効果(参考資料2より引用)

製剤が潤沢にあるならどんどん投与したいところですが、感染拡大期にはとんでもない数の製剤が必要になるため、適正な配分と流通、そしてかかるコストについては議論の必要があるかもしれません。たとえば、新型コロナに感染した家族がいる基礎疾患持ちの人や、医療機関でクラスターが発生した場合などでは、よい適応と思います。

新たに皮下注射も承認

今回、投与方法として点滴に加えて、皮下注射も新たに認められました。海外ではよく皮下注射が用いられていますが、4か所に分けて同時に投与するためなかなか大変です。注射部位は、上腕後側、腹部(臍周囲を除く)、大腿などです(図3)。

図3. 抗体カクテル療法の皮下注射部位(看護roo!より使用)
図3. 抗体カクテル療法の皮下注射部位(看護roo!より使用)

今回承認された皮下注射の用法には別のメリットがあります。それは、往診で便利という点です。抗体カクテル療法は、これまで静脈に点滴ルートをとる必要があることから、簡単に投与できないというジレンマがありました。皮下注射だと投与する側の手間が省けます。

まとめ

抗体カクテル療法の予防投与は、新型コロナワクチンほどの予防効果は期待できません。有事において抗体カクテル療法を緊急避難的に投与するよりも、事前にワクチンを接種しておくほうが、ウイルスの抗体の恩恵が受けられます。

このまま第6波が来なければ、抗体療法を使う場面は少ないかもしれません。とはいえ、新型コロナと戦う手段が増えたのは喜ばしいことです。油断せず、引き続き感染予防につとめてください。

(参考資料)

(1) 飲めるコロナ治療薬 重症化を50%減少させたモルヌピラビルは新型コロナ診療をどう変えるのか(忽那賢志)(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20211009-00261214

(2) O'Brien MP, et al. N Engl J Med. 2021 Sep 23;385(13):1184-1195.

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

※2021年11月6日11時14分:パクスロビドについて追記

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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