新たに承認された「抗体カクテル療法」とは? 新型コロナ治療薬まとめ(追記あり)
現在、新型コロナワクチンの接種がすすめられていることもあってか、私の周辺でも高齢者の重症患者さんの数が減ってきたことを実感しています。さらに、こうした予防だけでなく、治療の分野でも進歩がみられています。
2021年7月には、軽症~中等症用の治療薬である「抗体カクテル療法」が新たに承認されました。ただ、治療薬が増えたこともあり、少しややこしくなってきたと感じられるかもしれません。そこで、あらためて現在の治療についてまとめてみましょう。
新型コロナの重症度と承認薬
まず、新型コロナの重症度は、軽症、中等症I、中等症II、重症の4つに分けられています(表1)。軽症というのは、肺炎もなく酸素の数字も悪くない患者さんのことです。中等症はIとIIの2つありますが、Iは肺炎があるものの酸素の数字は悪くない患者さん、IIは肺炎があって酸素の数字が悪い患者さんです。そのため、中等症IIの患者さんは酸素を吸わないといけません。重症というのは、集中治療室で人工呼吸器などの機械をつけないといけない患者さんです。
これまで新型コロナの治療薬は、軽症でない患者さんに対するものばかりが特例承認を受けてきました。軽症の患者さんもかなりしんどい症状が出るのですが、世界的にも死者を減らしたいという思いから、酸素を吸っているような患者さんに対する治療薬が優先的に開発されてきた経緯もあります。
2021年7月現在承認されている治療薬は、ウイルスが増えるのを抑えるレムデシビル(商品名:ベクルリー)、ウイルスによる炎症を抑えるデキサメタゾン、バリシチニブ(商品名:オルミエント)、ウイルスのはたらきを抑える抗体カクテル療法(商品名:ロナプリーブ)の4つになります(表2)。これに加えて、海外のガイドラインではトシリズマブ(商品名:アクテムラ)という薬剤も推奨されています(1)※。
※販売元は年内の国内承認を目指している。
これらのうち、どれがよいというわけではなく、それぞれ作用メカニズムや役割が異なることから、患者さんの病態に応じて使い分けています。とはいえ、軽症の患者さんではデキサメタゾンのような炎症を抑える薬は必要ないことが多く、重症度に応じて使いわけているのが現実です(図1)。
実際の治療
さて、架空の設定ですが、典型的と思われる新型コロナの例を取り上げて、実際どういう治療を受けているのかみてみましょう。
例:55歳の男性。職場のクラスターで新型コロナのPCRが陽性となり、3日前から息切が進行してきた。胸部レントゲン写真で左右の肺に広範囲の肺炎があり、酸素を吸わないといけなくなった。
この男性は、酸素が必要な「中等症II」という状態で、この先重症化する可能性を考える必要があります。近日中に人工呼吸器を装着する可能性があり、本人に早期に意思確認を行います。高齢者の場合、人工呼吸器を希望されないケースも当然ありますし、医療逼迫時にそれが叶わないことがあるかもしれませんが、「人工呼吸器を装着する可能性」について、私は入院時に説明するようにしています。
この男性のように、両方の肺に肺炎がある新型コロナでは、ウイルスが増えるのを抑えるレムデシビルと、炎症を抑える薬のデキサメタゾンを用いることが多いです。もしかすると、バリシチニブを用いるかもしれません。
例:体重が100kgの35歳の肥満男性。40度の高熱と咳が続き、クリニックで新型コロナPCRが陽性と判明した。息切れや肺炎はない。
よくメディアの「新型コロナ体験記」のような記事に出てくるような患者さんがこれです。40度の高熱があるのでかなりしんどいと思いますが、実はこれでも「軽症」です。
こういう軽症例については、これまで解熱剤や脱水予防の輸液などで対応していました。
軽症例に対して、ファビピラビル(商品名:アビガン)やイベルメクチン(商品名:ストロメクトール)という薬も期待されていましたが、現時点ではエビデンスが乏しく、これらの薬剤を積極的に推奨するにいたっていません。
そこで2021年7月に承認となったのが、「抗体カクテル療法」です。肥満などのハイリスク因子を持っているこういう患者さんに適用されます。抗体カクテル療法を用いることで、重症化を防ぐことが期待されます。
第4の承認薬「抗体カクテル療法」
新型コロナウイルスのタンパクに対する2種類の抗体をカクテルのように点滴することで、より戦闘力が高まります。カシリビマブとイムデビマブという2種類の抗体が入っていますが(図2)、バーで頼むカクテルにしては早口言葉みたいで言いにくいですね。
海外では主に外来の患者さんに用いられており、入院や死亡のリスクを約70%減らすと報告されています(2)。ただ、厚労省の通達によると、日本では当面、入院患者さんに限って配分されるそうです(3)。
将来的に、宿泊施設や自宅などの病院外で抗体カクテル療法ができればベストですが、軽症は中等症・重症よりも患者さんの絶対数が多いため、あまり配分対象を広げてしまうと、本当に必要な人に届かなくなる可能性があります。
しかし、この抗体カクテル療法に依存せずとも、自身の中に抗体を作ることができる方法があります。そう、それがワクチン接種です。ワクチンを接種すると、体の中に治療薬ができるのです。
まとめ
中等症例・重症例に対する治療薬だけでなく、軽症例に対する「抗体カクテル療法」が登場したことで、限られた重症病床の逼迫を防ぐことができるかもしれません。ワクチン施策と組み合わせることで、全体の重症度を下げることができれば・・・と期待しています。
追記(2021年8月14日):
①8月13日の通達で、宿泊療養施設でも投与が可能になりました。
②静脈への点滴でなく皮下注射も有効とするデータが出ています(4)。
(参考)
(1) NIH COVID-19 Treatment Guidelines Search. Therapeutic Management of Hospitalized Adults With COVID-19. (URL: https://www.covid19treatmentguidelines.nih.gov/management/clinical-management/hospitalized-adults--therapeutic-management/)
(2) FACT SHEET FOR HEALTH CARE PROVIDERS EMERGENCY USE AUTHORIZATION (EUA) OF REGEN-COVTM (casirivimab and imdevimab) (URL: https://www.fda.gov/media/145611/download)
(3) 新型コロナウイルス感染症における中和抗体薬「カシリビマブ及びイムデビマブ」の医療機関への配分について(依頼)(URL: https://www.mhlw.go.jp/content/000808472.pdf)
(4) O'Brien M, et al. N Engl J Med . 2021 Aug 4. doi: 10.1056/NEJMoa2109682.
【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】