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飲めるコロナ治療薬 重症化を50%減少させたモルヌピラビルは新型コロナ診療をどう変えるのか

忽那賢志感染症専門医
(提供:Merck & Co Inc/ロイター/アフロ)

メルク社は新型コロナウイルス感染症の治療薬であるモルヌピラビルの第3相試験の中間解析の結果を発表し入院または死亡を50%減少させたと発表しました。

この飲めるコロナ治療薬、モルヌピラビルが承認されたら新型コロナ診療はどう変わるのでしょうか。

初めて有効性を示した経口の抗ウイルス薬

一般的に新型コロナウイルスは全く新しいウイルスであることから、新しい抗ウイルス薬の開発には時間がかかります。

なぜ抗ウイルス薬の中でもレムデシビルだけ早期に承認されたかというと、レムデシビルはドラッグ・リポジショニング(Drug Repositioning)、つまり既存のある疾患に有効な治療薬から別の疾患に有効な薬効を見つけ出すという考え方から新型コロナに承認された薬剤だからです。

レムデシビルはもともとはエボラ出血熱に対する治療薬として開発された薬剤ですが、実験室で新型コロナウイルスにも効果がある可能性があることから、実際にヒトにも使用され効果が実証されたという経緯があります。

なお、ファビピラビルやイベルメクチンも、実験室では効果がある可能性が示唆されていますが、実際のヒトでは現時点では効果が示されておらず承認に至っていません。

今回のモルヌピラビルは、新型コロナウイルスに対する抗ウイルス薬の中で初めて有効性が示された経口薬です。

モルヌピラビルはどんな薬剤か

モルヌピラビルは、エモリー大学のベンチャー企業が抗インフルエンザ薬の候補薬として開発したものです。

現在は、Ridgeback社が買収しMerck社と業務提携して開発を進めています。

モルヌピラビルは、「エラーカタストロフ(error catastrophe)」というウイルスがRNAを複製する際にエラーを生じさせる作用によりウイルスの増殖を防ぎます。エラーカタストロフ・・・!!GANTZみたいでなんだかすごそうです。

低温での輸送や保管を必要とせず、経口カプセルとして内服できるというところも長所と言えます。

実験室レベルで様々なウイルスに活性を持っており、東部ウマ脳炎ウイルスなどマニアックなウイルス以外にも、新型コロナウイルスと同じコロナウイルスである、SARSコロナウイルスやMERSコロナウイルスにも活性を持ちます。

そして新型コロナウイルスにも活性があるということで、臨床研究が進められています。

第1相試験において安全性が検証された後、第2a相試験では、抗ウイルス効果の検証が行われており、モルヌピラビル投与群では、プラセボ群と比較して投与5日目にウイルス培養が陽性になる人が減少したことを示しました。

第2/3相試験では、200mgから800mgまでの投与量のモルヌピラビル投与群(1日2回 5日間)とプラセボ群が比較され、いずれのモルヌピラビル投与群もプラセボ群よりも入院または死亡を減少させましたが、抗ウイルス効果は800mgで最も強く、副作用の頻度が変わらなかったことから「800mgを1日2回 5日間」というレジメンが選ばれ、そのままこの研究は第3相試験に切り替わっています。

そして今回、第3相試験の中間解析の結果が発表されました。

モルヌピラビルは入院または死亡を約50%減らした

Merck社が発表した第3相試験の中間解析結果は以下の通りです。

・モルヌピラビルを投与された患者のうち、入院または死亡したのは7.3%(28/385例)であり、プラセボを投与された患者の14.1%(53/377例)と比較して、モルヌピラビルは入院または死亡のリスクを約50%減少させた。

・死亡例は、モルヌピラビル投与を受けた患者では0例、プラセボ投与を受けた患者では8例であった。

まだ論文化されていないため、詳細なデータが不明ですが、これまでの第2/3相試験までの結果を含めて考えるとこの結果は納得できるものです。

この結果を受けて、プラセボ群に割り当てられた患者の不利益性を考慮して、この研究は新規募集を中止しました。

Merck社は今後アメリカのFDAに緊急使用許可申請を提出予定であり、アメリカで承認されれば、早ければ年内に日本でも緊急承認される可能性があります。

モルヌピラビルは新型コロナ診療をどう変えるか

このモルヌピラビルが日本でも承認された場合、新型コロナ診療はどう変わるのでしょうか。

残念ながら抗インフルエンザ薬のタミフルのように「新型コロナと診断されたら誰でも彼でもすぐに処方してもらえる」ということにはすぐにはなりません。

今回の第3相試験の対象者は「発症5日以内の軽症または中等症患者」かつ「少なくとも1つ以上の重症化リスクを持つ」方になっています。

おそらくアメリカのFDAもこの条件で承認を出すと考えられますので、日本もそれにならうことが予想されます。

したがって、重症化リスクのない方は適応から外れてしまう可能性が高いと考えられます。

現在のところ生産量も限られており、また5日間の治療で8万円近い値段になるようですので、適応が限られるのは仕方ないところかもしれません。

しかし、飲み薬での新型コロナ治療薬の意義は非常に大きいと言えます。

現在は重症化リスクのある酸素投与を必要としない軽症・中等症患者には抗体カクテル療法(カシリビマブ/イムデミマブ)と、ソトロビマブのモノクローナル抗体が使用できるようになりましたが、どちらも点滴での投与となっています。

第5波では入院患者だけでなく外来患者にも、ホテル療養者や自宅療養者にもこのモノクローナル抗体の治療が行えるようになり、重症化を防ぐことができた事例が増えたことは間違いありませんが、点滴での治療は医療へのアクセスの点ではややハードルがあることは否めません。

飲み薬であれば、医療者にとっても点滴準備などが不要となり、診断時に速やかに処方することができるようになります。

第5波では、ワクチン接種が進み致死率が大きく低下しましたが、このモルヌピラビルが承認されれば、新型コロナ診療はよりシンプルになり、大きな進展となることが期待されます。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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