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ダークマターの正体候補の素粒子「アクシオン」の検出に成功!?その実験の最新の結論

どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。

今回は「アクシオンを検出した可能性とその事例の結論」というテーマで動画をお送りしていきます。

●ダークマターとは?

Credit:NCSA, NASA, B. Robertson, L. Hernquist
Credit:NCSA, NASA, B. Robertson, L. Hernquist

人類の観測技術が進歩した現在では、宇宙は未知の物質による強大な重力によって支配されていることが明らかになっています。

例えば星々の銀河に対する公転速度や、銀河同士が引き合う速度などは、人間が観測できる通常の物質による重力だけでは説明できないほど、速い速度で運動していることが知られています。

Credit:Springel et al. (2005)
Credit:Springel et al. (2005)

宇宙を重力的に支配している、人間が存在を知覚できない物質のことを、「ダークマター」と呼んでいます。

先ほどの銀河の例をはじめとして、人間が存在を知覚できる物質による重力だけでは説明できない様々な現象を上手く説明するには、ダークマターは人間が知覚できる物質の約5倍程度もの質量を持っている必要があるとされます。

これだけ宇宙の至る所で様々な重力的な影響を及ぼしているにもかかわらず、現代の人類はダークマターを観測する技術を持っていないため、依然として謎だらけの存在です。

●アクシオンを検出!?

ダークマターの候補の一つに、「アクシオン」という素粒子が挙げられています。

2020年の6月には、そんな未知の素粒子アクシオンを検出した可能性があると発表があり、大ニュースとなっていました。

Credit:XENON Collaboration
Credit:XENON Collaboration

東京大学などの日本の大学も参加する国際研究チームによって行われたXENON1T実験では、-100度に冷却された液体キセノンを使って、ダークマターの存在を探っていました。

ほとんどのダークマターは物質と衝突せず通り過ぎてしまいますが、長期にわたって大量のキセノンを監視していれば、極稀に外部からのダークマターとキセノンが衝突する瞬間を観測することができると期待されています。

キセノン原子を構成する電子と原子核の両方にダークマターが衝突する可能性がありますが、原子核との衝突についてはその可能性がある現象についても一度も観測されていないようです。

一方で電子との衝突(電子反跳)については、実験装置中の不純物などから出る放射線などによっても起こることが知られています。

これらの既知の原因によって発生する意図せぬ電子反跳は、背景ノイズとみなされます。

上記の画像のグラフにおいて、横軸は電子反跳のエネルギー、縦軸が発生回数、赤線が背景ノイズで発生すると予想されているグラフ、そして黒い点が実際に発生した電子反跳の分布です。

2017年2月から1年間で起きた電子反跳を調べると、低エネルギーの範囲において、背景ノイズだけでは説明できない、つまり何か別の要因によって発生した電子反跳が起こっているようなデータが得られました。

この観測結果について、研究チームは3つの可能性を考えていました。

まず第1に液体キセノン内に、原子核内に中性子を2個含んだ三重水素(トリチウム)が複数存在し、そこから電子が放たれて、キセノンの電子と衝突した可能性です。

三重水素は存在量が非常に微量であるため液体内にどれほどの個数が含まれているかがわかっていないので、背景ノイズに含むことができていません。

そして第2に、ニュートリノという既知の素粒子による影響です。

ニュートリノの持つ磁力とその向きを表す磁気モーメントと呼ばれる要素は0であると考えられています。

ですが、仮にそれが予想されている0より大きな値を持つ場合、今回の過剰な電子反跳を説明できるようです。

仮にこれが正しければ、素粒子にまつわる基本理論である標準理論を超える理論の構築につながるかもしれません。

最後に第3の可能性として、標準理論には含まれていない未知の素粒子アクシオンによる影響が考えられています。

実は太陽でもアクシオンが常に生成されている可能性があり、この説が正しい場合、この過剰な電子反跳を非常に高精度で説明でき、これが偶然起きた可能性は、たったの0.02%程度に過ぎないとされていました。

ただし太陽アクシオンは陽子の100万分の1程度の質量を持つと予想されているのに対し、アクシオンがダークマターの候補として機能するためには、陽子の100兆分の1程度の質量である必要があります。

つまり過剰な電子反跳の原因が本当に太陽アクシオンであっても、ダークマターの正体解明にはつながりません。

とはいえ標準理論にない未知の素粒子が発見されれば、宇宙の見方が大きく変わることになりそうです。

●最新装置による計測の結果…

Credit: Luigi Di Carlo for the XENON collaboration
Credit: Luigi Di Carlo for the XENON collaboration

そしてXENON1T実験の装置をさらに改良した「XENONnT」装置を用いた同様の実験が2021年7月からの約97日間行われ、その結果が2022年7月22日に発表されました。

XENON1T実験の装置では、2tのキセノンが反応検出の対象となっていましたが、XENONnTでは反応検出の対象となるキセノンは6tまで増えています。

さらに精度も大幅に向上し、背景ノイズがXENON1Tの実に5分の1にまで減らされています。

背景ノイズを減らすため、関門となったのは液体キセノンの中に含まれる放射性物質「ラドン」でした。

これを除去するため、研究チームは液体キセノンから常時不純物を取り除くキセノン蒸留システムを新たに導入しました。

Credit:XENON Collaboration,概要欄記載URL
Credit:XENON Collaboration,概要欄記載URL

そのような液体キセノン内の不純物を除去するシステムを新たに組み込んだXENONnT装置を用いて行われた最新の実験では、なんとXENON1Tの実験で得られた低エネルギー帯の過剰な電子反跳が見られなかったそうです。

XENONnT装置では、過剰な電子反跳を説明する候補の一つであった、「液体キセノン内に微量存在する三重水素」についても、同様に除去されていると考えられます。

このことから、過剰な電子反跳の原因は三重水素であった可能性が高い、という結論が得られました。

未知の素粒子や、素粒子の未知の性質に繋がる発見はなかったということで、少し残念ではありますね。

ですが今回の発見でより一層真実に近づくことができましたし、最新装置XENONnTを用いた実験も継続して行われるはずなので、今後もダークマターにまつわる新発見に期待していましょう!

https://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/news/detail/874/
https://indico.cern.ch/event/922783/contributions/4892806/attachments/2484143/4264990/IDM2022_presentation_XENONnt_moraa.pdf
https://www.ipmu.jp/ja/20200617-XENON1T-ExcessEvents
https://academist-cf.com/journal/?p=15078
https://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/11328_excess

「宇宙ヤバイch」というYouTubeチャンネルで、宇宙分野の最新ニュースや雑学などを発信しているYouTuberです。好きな天体は海王星です。

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