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ネット上の「フェイク情報」は「企業からのカネ」がある限りなくならない。スタンフォード大学などの研究

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(写真:イメージマート)

 ネット上には多くのフェイク情報が氾濫している。フェイク情報には供給元と消費する側がいるが、最近の研究により企業がフェイク情報元に資金を提供しているという問題が浮かび上がってきた。

フェイク情報サイトの蔓延

 ネット上の情報の多くは、アフィリエイトのような広告収入を得ることを目的にしており、正確で質の高い情報と正しいように見せかける欺瞞的な情報や全くのデタラメ情報などが混在し、情報の受け手の側のリテラシーが問われる状況にもある。

 問題なのは、単にアクセス数を稼ぐために作られたフェイク情報の存在だ。こうしたフェイク情報の蔓延をどうやったら防ぐことができるのだろうか。

 スタンフォード大学などの研究グループは、ネット広告を出す企業の側がむしろ広告訴求効果を上げるためにフェイク情報を掲載するサイトに広告を出す傾向があることをつきとめ、その結果を米国の国立経済研究所(NBER)のサイトに発表した(※1)。

 同研究グループによると、研究期間(2019年から2021年)で調べたフェイク情報サイトの74%が企業からの広告収入によって支えられていた。これにより視聴者である消費者からの課金などで運営されるサイトと比べ、フェイク情報サイトが広告収入に依存する傾向が強いことがわかったという。

 また、ネット上に広告を出稿する企業や団体のうち44%が、そして広告出稿の多い上位100社の55%が、フェイク情報サイトへ広告を出していた。さらに、フェイク情報サイトの74.5%が、鉱工業、一般的な日用品、美容や健康、ファイナンス、行政、教育など多岐にわたる一般的によく知られる企業や団体から広告収入を得ていた。

 もちろん、意思決定者である広告出稿を決めるほとんどの担当者は、自社の広告がフェイク情報サイトに掲載されていることを知らない。同研究グループは、広告出稿の意思決定者(広告担当役員など)442人も調査し、自分の企業や団体がフェイク情報サイトへ広告を出稿していることを知っていたのは36%に過ぎなかった。

 ネット上の広告掲載方法の多くは自動オークションなどのアルゴリズムを使った配信システムによるもので、広告出稿の意思決定者の意向はほとんど反映されないからだ。

反発する消費者を知らない広告主たち

 同研究グループによれば、フェイク情報を受けた消費者はそれがフェイク情報と知ると、自分がそれを閲覧することが収益化されることに反発し、広告を出した企業の製品を買ったりサービスを受けたりすることをやめる傾向があるという。

 同研究グループが行った消費者4039人を対象としたアンケート調査によれば、企業がフェイク情報サイトに広告を掲載していることを知った消費者は別の企業に切り替える反応を示し、こうした反応が最も強かったのは女性と思想的に左寄りの消費者だった。

 興味深いのは、消費者による反発があるにもかかわらず、広告企業はフェイク情報サイトへの広告出稿を続け、こうしたサイトの収入源になり続けていることだ。同研究グループによれば、彼らにはフェイク情報サイトのような媒体に自社の広告が掲載されることをむしろ強く望む傾向があったという。

 では、どうすればいいのだろうか。

 同研究グループは、まずフェイク情報サイトへ広告出稿をやめたい企業や団体の意思決定者は、自分の広告がどんな媒体に掲載されているのかを知るため、自動オークションなどの広告プラットフォームにアクセスし、広告の出稿先を選ぶことが必要という。そして、消費者がフェイク情報サイトへ出稿している企業や団体を選別できるような透明性の高い情報提供システムを提供すべきだという。

 フェイク情報サイトをサポートする大手プロバイダーも同じ経済構造にいるため、一つのプロバイダーから閉め出されてもフェイク情報サイトは代替のプロバイダーで復活を繰り返す。だが、フェイク情報サイトの主要な広告が遮断されれば、サイト運営ができず、フェイク情報の拡散を食い止めることができる(※2)。

 ネット上の活動のインセンティブの多くは金銭的な動機であり、消費者の潜在的な反発を考えれば、フェイク情報サイトの抑制は結果的に企業の利益につながる。

 同研究グループは今後、前述した提案によってフェイク情報サイトへどう収益が減少するのかを明らかにし、フェイク情報サイトへ資金提供している企業や団体の意識を変え、フェイク情報サイトへ広告を出さなくても収益が上がるのかどうかを検証していきたいとしている。

※1:Wajeeh Ahmad, et al., "The Role of Advertisers and Platforms in Monetizing Misinformation: Descriptive and Experimental Evidence" National Bureau of Economic Research, Working Paper 32187, March, 2024
※2:Catherine Han, et al., "On the Infrastructure Providers That Support Misinformation Websites" Proceedings of the International AAAI Conference on Web and Social Media, Vol.16, 31, May, 2022

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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