「量子もつれ」発生の瞬間を史上初めて可視化に成功!
どうも!科学ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「量子もつれの可視化」というテーマで動画をお送りしていきます。
●量子もつれの可視化
ミクロな世界を説明するために生まれた量子力学、この量子とはエネルギーの最小単位のようなものです。
今回、イギリスのグラスゴー大学の研究チームが、光の量子「光子」が「量子もつれ」と呼ばれる量子間にはたらく量子力学特有の性質を撮影することに成功したと2019年に発表しました。
この画像の白い点は、検出した1つの光子を表しています。
この実験では空間的に離れた2カ所にそれぞれ光子を1個ずつ検出器に送った際に、4分割された空間のどの位置に検出されるかを見ています。
それを4万回繰り返した結果、ある地点で検出した光子と異なる場所で検出した光子が円状の反対側に対応して観測されています。
これがサッカーなら、あるサッカー場で蹴られたボールがゴールの左側、異なるサッカー場で蹴られたボールがゴールの右側に同時刻にシュートされるようなもの。
野球なら、甲子園球場で投手のボールがインコースに、札幌ドームの投手のボールがアウトコースに同時刻に投げられたようなものです。
このような遠隔作用のあるような振る舞いをする量子の世界の性質「量子もつれ」。
これは、かの有名なアインシュタインですら「Spooky(不気味な)」遠隔作用だと言いました。
この量子もつれの可視化が今回のテーマです。
●量子もつれの実験
この実験では、光の波長が355 nmの青色に近い光を、色を変える特殊な結晶BBOに入射して、波長が710 nmの赤色の光を使用しています。
この色が変わる際に1つの光子は2つの光子になります。
光のエネルギーは、光の波長と逆数の関係にあるので、波長が半分になる分、2つの光子になってエネルギー保存則が満たされています。
生み出された2つの光子は、ビームスプリッター(BS)を通して、2つの光路に分けられます。
そして、空間的に離れた場所でそれぞれ単一の光子を同時に検出しています。
光子の同時検出には、高感度の単一光子検出器が用いられています。
片方で単一光子を検出すると、それをトリガーに、もう片方で同時に到着する光子を検出しています。
しかし、片方の検出がトリガーとなる場合、電気的な遅延が起きてしまうので、その分、光の進む道を20 mほど伸ばした遅延軸(Delay Line)を設けています。
長いようにも見えますが、光の速度から考えると1千億分の1秒程度の時間差になります。
今回は、光子のスピン角運動量ではなく、軌道角運動量を観測しています。
スピン角運動量は、光子の自転のようなもの(スピン)ですが、軌道角運動量は光子の公転のようなものです。
つまり、光子の軌道角運動量とは、らせん状の位相構造から生じます。
光子の軌道角運動量を身近な時計に例えると、時計の針のようにくるくるまわるようなもので、時計の針が回って何時を指しているのか表すものを位相といいます。
さらに片方の光路では、空間光変調器(SLM)と呼ばれる装置を用いて、特定角度の位相の光子だけを通しています。
つまり、特定の位相(0度、45度、90度、135度)だけを通すためのフィルターとして使用して、もう片方の光子の相関を見ています。
その結果、フィルターを通して光子は位相が決まったところにあるのに対して、フィルターを通していないもう片方の光子は位相が反転したところに観測されました。
これはどの角度でもそのようになっています。
なぜこのようになるのかと言うと、実はBBOで色が変わって、1つの光子が2つの光子になる際に、このペアが量子もつれ状態になっています。
具体的には、軌道角運動量が、反転した関係を保ち続けます。
そのため、離れた光子間の量子もつれを画像に収めることができたのでした。
ちなみにどの位相で飛んでくるかは観測するまでわかりません。
すべての検出した光子を図に表すと、特定の位相の無い円状の画像が得られます。
また、このような反転した図だけであれば古典力学的粒子にもできそうに思われます。
しかし、その場合角度に制約がかかるのですが、実験ではその制約を破っており、量子力学でしか説明できないこともわかっています。
以上のような技術自体はかなり前から確立されており、他の物理量を観測した事例などは他にもあったのですが、今回は光子の軌道角運動量を観測したということで、量子もつれの関係を直接的に画像として、わかりやすく可視化した研究事例となっています。
●量子もつれの発展
量子もつれは、量子に載せた量子情報を伝送する技術である「量子テレポーテーション」に応用できます。
今回の実験のように、離れた光子間の量子もつれを利用して、宇宙のようにどれだけ離れた場所でも量子情報を伝送できるのです。
また、量子状態を量子ビットとして利用すれば、「量子コンピューター」としての応用も期待できます。
量子コンピューターでは0と1の離散的な値ではなくその重ね合わせ状態で計算処理を行い、従来のコンピューターでは実質計算できないような時間のかかる計算も高速に処理できます。
量子テレポーテーションと量子コンピューター、どちらもサイエンスフィクションのような話ではなく、量子力学に基づいて、すでに実現している量子もつれを利用した技術です。
まだ、実用的レベルにはさらなる発展が必要ですが、今後の応用研究が期待されます。
この量子もつれは応用的な研究だけでなく、私たちの身近な重力の基礎となる時空も量子もつれから生まれるということが、東京大学の大栗氏により理論的に導かれています。
それは量子コンピューターが記録する方法と共通点があることまで明らかにされています。
私たちの世界に存在する4つの力「重力」、「電磁気力」、「強い力」、「弱い力」のうち、「重力」以外はすでに量子力学の理論から説明できていました。
そのため、大栗氏のこの理論研究は、物理学で重要な力の統一理論に貢献するものです。
量子もつれは、20世紀初めのミクロな原子の世界を説明するために生まれた量子力学の議論から生まれたものですが、私たちにテクノロジーとして関わるだけでなく、住んでいる時空とも深く関わるのです。
今回の実験は、将来の私たちと深い関係のある量子もつれを視覚的に理解させてくれるもので、昔は頭の中だけで実験されて、理解されてきた量子力学の世界を、今の私たちは直接目撃できるようになり、今後、量子の世界がより身近になるでしょう。
光が進む瞬間をとらえた映像については、以下の動画でも解説していますので、併せてご覧ください。