Yahoo!ニュース

アクリル板不設置で罰則も 国会の関与なく知事の命令範囲拡大 パブコメも省略

楊井人文弁護士
命令罰則対象の拡大を事前周知せず行った田村憲久厚労相。(写真:つのだよしお/アフロ)

 大阪府などでまん延防止等重点措置を実施するのに先立ち、知事がアクリル板設置などの対策を事業者に要請・命令できるよう、厚生労働省が4月1日に告示を改正していたことがわかった。

 官報に掲載されていたが、報道発表はなく、事前に案を示して国民の意見を聴くパブリックコメントも省略されていた。田村憲久厚労相が「命令・罰則範囲の拡大」という重要な決定を、国民に事前に知らせず行ったことになる。

 先月にも、国会で議論されていなかった「マスク非着用者の入場禁止」などの措置を政令で追加したばかり。新型コロナ対策の名のもとに、国会の関与なく、国民に十分周知されない間に、命令・罰則範囲が拡大しつつある。緊急事態宣言の最中に成立した改正特措法の危うさが、改めて浮き彫りになった形だ。

国会関与なく命令対象が徐々に拡大

 2月初めに成立した改正特措法は、国会の関与なく政府の判断で命令・罰則の対象を広げることを可能とする法律だ。

 緊急事態宣言や新設された「重点措置」で知事が事業者に命令できる対策を「営業時間の短縮」のほかに、政令で追加できる規定が置かれたからだ。

 政府はこの規定を使って、改正特措法の施行と同時に政令を改正し、「マスク非着用者の入場禁止」など7項目を命令・罰則の対象に追加した(詳しくは既報=マスク非着用者の入場を許したら罰則? 国会関与なく罰則新設できる"新型コロナ"改正特措法の欠陥も参照)。

 この政令改正のパブリックコメント(以下「パブコメ」)は3日間と大幅に短縮された上、告示で新たな措置を追加できる規定も盛り込まれた。これにより、閣議決定なしに厚労相の判断で命令・罰則の範囲を広げることが可能になった。

大阪府など 付与された権限をフル活用の方針

 田村厚労相は今回、この規定に基づく告示で、次のような措置を知事が要請、命令できる権限を認めた(官報)。

(1) 当該者が事業を行う場所の換気

(2) 入場をする者等の会話等により飛散する飛沫を遮ることのできる板その他それに類するものの設置

(3) 入場をする者等相互の適切な距離の確保 その他の入場をする者等の会話等により飛散する飛沫による新型コロナウイルス感染症の感染の防止に効果のある措置

(注)厚生労働省告示第169号。わかりやすくするため箇条書きにし、括弧書きを省略した。なお、「施設の換気」は改正前の告示にもあり、表現が若干変更されたものの、追加は実質的に(2)(3)の2項目。事務連絡も参照のこと。

 このうち(2)は「アクリル板の設置」を指している(政府の説明資料)。

 一見すると事業者の負担はさほど大きくないように見えるが、空間的にゆとりがなく難しい対応が迫られる店も出てくるとみられる(NHK参照)。

 大阪府、兵庫県、宮城県は、4月5日から実施される重点措置期間中、時短要請やマスク非着用者の入場禁止、アクリル板設置など、知事に付与された10項目の措置全てを飲食店事業者に適用する方針を示した

 大阪府の吉村洋文知事は、政令に明確な規定はないが、マスクをつけたまま食事をする「マスク会食」の周知や、それに応じない客を退させる措置を事業者に要請する考えだ。

まん延防止等重点措置の期間中、飲食店などの事業者に要請する事項。大阪府ホームページより
まん延防止等重点措置の期間中、飲食店などの事業者に要請する事項。大阪府ホームページより

措置追加の事前周知、報道発表なし

 今回の「アクリル板設置」などの措置を追加する告示改正では、行政手続法が義務付けている事前公表・パブコメの手続きが省略されていたことも判明した。

 行政手続法は、政令などを定める際、事前に案を示して原則30日間のパブコメ期間を設けることを行政機関に義務づけているが、例外的に免除できる規定もある。

 厚労省はこの規定を使い、「公益上、緊急に命令等を定める必要があるため、意見公募手続を実施することが困難」だったと説明している

 田村厚労相は、大阪府の吉村知事からの要望を受け、急きょ告示で措置を追加した可能性がある。

 ただ、4月2日の厚労相定例会見では、前日行った告示についての言及がなかった。今のところ、報道発表も行われていないようだ(会見録は後日掲載見込み)。

 調べた限り、政府が国民に対してこの罰則の新設を公表したのは、官報以外では、西村康稔コロナ担当相が3日に公表した啓発動画が初めてではないかとみられる。

 この中に、アクリル板設置も命令対象に追加したとする説明資料が掲載されていた。

【訂正】当初「省令改正」と記載していましたが、正しくは「告示改正」でしたので(省令と告示は形式的な違いだけですが)、表現を訂正しました。

弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

楊井人文の最近の記事