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「その杭を不倫相手に突き刺すんですよ!」『あなたがしてくれなくても』が届けた過激なセリフたち

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

言葉センスが目立った『あなたがしてくれなくても』

『あなたがしてくれなくても』はセリフが残るドラマであった。

それぞれが、それぞれの考えでがんばっているのに、何だかうまくいかない、というこのドラマでは、周りの人たちが掛けてくれる言葉が印象的であった。

言葉のセンスが目立ち、「名セリフ」が続出した。

いくつか、書き残しておくことにする。

人生のどっかで使えるかもしれない。使えないほうがいいとおもうけど。

4人のメインキャストと、3人の「助言する人」たち

メインの登場人物は4人。

セックスレスに悩む妻・みち(奈緒)

その夫の陽ちゃん(陽一/永山瑛太)

みちの職場の上司の新名さん(新名誠/岩田剛典)

新名さんの妻で雑誌副編集長の楓(田中みな実)

このメイン人物によくアドバイスしていた人たちがいた。

みちの会社の後輩の華ちゃん(北原華/武田玲奈)

楓の上司である川上編集長(川上圭子/MEGUMI)

陽ちゃんの喫茶店のアルバイトの三島さん(三島結衣花/さとうほなみ/陽ちゃんの浮気相手でもあった)

この3人だ。

主要人物4人のうち、新名さん(岩田剛典)だけはアドバイザーがいなかったことになる。

そこがつらかったのかもしれない。

以下、心に残った言葉を挙げていく。

「奥さんに刺さったその杭(くい)、どうなるかわかります?」(7話 三島結衣花)

このドラマでもっとも刺さったセリフのひとつである。

陽ちゃんと三島さんはちょっとしたはずみで関係を持ってしまった。

たぶん一度きりの関係のはずだ。

隠しておけばいいのに、陽ちゃんは正直に妻に言ってしまう。

彼が妻に告白するとき、日本中のテレビの前で「言っちゃだめー!」と叫び声がこだました、とおもわれる。

そして当の三島さんにも、妻に話した、と喋る。

「話をした。三島さんとのこと……ほんとのことだし……うそをついたままじゃ…」

彼女は手に持っていたタオルで彼をおもいっきり叩いて「バカじゃないのっ!ほんと男って……!!」とまくしたてる。

「言えなくて苦しかったですか、言えてすっきりしました?」

彼につかみかかって、責め立てる。

「自分の心に刺さった杭(くい)抜いて、かわりにそれ、奥さんに刺しただけでしょ! それで奥さんいま、血流してるんですね……奥さんに刺さったその杭、どうなるかわかります? 女は痛みが消えるまで黙って耐えるほどバカじゃないから、今度はそれ、不倫相手の女に突き刺すんですよ………」

ふるえるセリフだった。

「店長、ひとつ教えてあげます、おぼえておいたほうがいいですよ、不倫は妻を変えるって……」

「なんで浮気されると相手の女に怒りを向けるのかね」(8話 川上圭子)

8話で楓(田中みな実)の上司の川上編集長(MEGUMI)が、雑誌企画の話から、こういうことを言った。

「女ってさ、なんで浮気されると相手の女に怒りを向けるのかね……旦那とやり直したいんだったらさ、女じゃなくて、旦那と向き合うべきじゃない。ま、わたしは即行、別れたんだけどね(笑)」

世間話だったのだが、渦中にある楓に響く言葉だった。

「旦那とかさ、のん気に見えない?」(2話 川上圭子)

もうひとつ、編集長(MEGUMI)の名言。これもあくまで雑談。

「おもわない? なんで男はさ、仕事して、遊んで、浮気なんかもできちゃうのに、女が出世したいとおもうと、仕事だけになっちゃうんだろうって……。

結婚したり出産したりするとさ、会社って親切なふりして、時間に余裕がある部署にまわそうとするじゃん(……)でも、そういう女の必死さってさ、わかんないんだよー。

油断したら足をすくわれる怖さ、積み上げてきたキャリアを一瞬で奪われる危機感……。

旦那とかさ、のん気に見えない?」

気軽な口調で鋭く指摘する。

楓も「ときどき…(のんきに見える)」と答えていて、やさしい夫(岩田剛典)をやや見下してる気分が伝わってきた。少し怖いシーンであった。

「私を殺した女の顔、ひとめ見れてよかったです」(8話 岩井鞠子)

喫茶店アルバイト三島結衣花(さとうほなみ)は、三年前、勤め先の上司と不倫をしていた。

そのことで訴えられ、さらに「サレ妻」(佐藤めぐみが演じる岩井鞠子)がバイト先に乗り込んできた。

二人は店内で対面する。

申し訳ございません、最近、連絡がありましたが、一切、会っていませんと弁明する三島を遮って彼女は言う。

「そんなのどうでもいい。接触したのが許せなかったんです…」

強く見つめて彼女は続ける。

「この三年間、空を見てきれいだとおもったことはありますか?

おなかが痛くなるくらい笑ったり、声を荒げるほど腹を立てたことは?

セックスはしました?

……わたしは一度もありません。

心から笑ったことも、怒ったことも……。

わたしの心は、三年前に死にました」

恐ろしく重い空気が流れる。

「……二度、死ぬのは耐えられません……。

わたしを殺した女の顔、ひとめ見れて、よかったです。ごちそうさまでした」

立ち去っていった。凄まじいシーンであった。

「たぶん、今も知らないとおもいます」(8話 三島結衣花)

この、一方的な弾劾では何も言葉を発しなかった三島さんは、あとで店長に向かって喋る。

いままで自分で言い訳していただけだった、店長の奥さんにも訴えられちゃうかも、と言ったところ、店長は「みちは、そんな女じゃないから」と答える。

すこし呆れながら彼女は言う。

「夫婦って何なんですかね……付き合ってるとき、あの人に言われたんです、うちの妻は何でも許してくれる女だって……たぶん今も知らないんだとおもいます。奥さんがどんなおもいでいるのか……私も今日まで知りませんでしたから……自分のせいで心が死んだなんて…」

このあと、彼女は店をやめさせてくださいと申し出る。

また誰かの心が死ぬの、いやなんで、と去っていった。

「まあ、ワンナイトってやつですね、軽犯罪!」(7話 北原華)

このドラマで武田玲奈が演じた「華ちゃん/北原華」の存在は大きかった。

彼女は、まわりの見えている後輩だった。

困った状況にある人に的確なアドバイスを与え、世界を明るいほうに動かしていく存在だ。

あらゆる職場に一人いて欲しい「後輩」である。

『あなたがしてくれなくても』を支えた大きな脇役であった。

夫の浮気を知って落ち込んでいるヒロインみちに、言い放ったひと言がこれである。

「まあ、ワンナイトってやつですね、軽犯罪!」

みちは驚いて「えっ、重罪だよ、重罪、もう死刑だよ」と主張するが相手にしない。

ひどい男だね、これだから男ってのは、というタイプの同調をしないところがすごい。

この先どうすればいいのか、ということを冷静に見極めて、そのための道を示してくれる。

「そりゃ浮気がバレた旦那さんも罪だけど、でも、先輩ひとりだけが被害者なんですかね」と言い放って帰っていった。

「浮気なんて現実逃避以外なくないですか」(7話 北原華)

次の日、華ちゃんは会社でみちと会って、まだ怒っているのを見てとる。

「まだご立腹か……旦那さんってそんな悪いことしました?」

「したでしょ! 他の人と、したんだよ」

「……先輩、気持ちわかるでしょ……浮気なんて、現実逃避以外なくないですか?」

繰り返される華ちゃんの質問で、みちは考え直し、陽ちゃんを追い込んだのは私だ、と気づくことになる。

「私のことが好きなんじゃないよ、自分のことが好きなんだよ」(10話 吉野みち)

最後にヒロインの言葉。

これもまた、見ている者に突き刺さったセリフである。

はるか昔に似たようなことを言われたような、いまだにどっかで自分に向かって言われそうな、そういう言葉だ。

恋愛の根本に潜む大きな問題でもある。

みちは、離婚を決心して、夫に別れようと話しかける。

夫は承諾しない。

「何でだよ、なんでみちのこと好きなのに、別れなきゃいけないの? おれ、みちがいないとダメなんだよ。ただ、おれの隣にいてほしい…」

こういうセリフをいうときの永山瑛太が放つ気配はすさまじい、とあらためて、おもう。すごい役者さんだ。

妻は、まっすぐ彼を見つめて言う。

「陽ちゃんは私のことが好きなんじゃないよ……自分のことが好きなんだよ……全部、陽ちゃんの気持ちだけ……自分が困るから、自分がさみしいから、自分が好きだから……陽ちゃんのなかに、私がいないんだよ」

これを言われてしまうと、もう、どうしようもない。

刺さる言葉であった。

深く刺さった言葉は、たぶん、どこかに残っていくのだろう。

『あなたがしてくれなくても』はいくつもの言葉を届けたドラマであった。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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