正体不明のダークエネルギーの性質を解明!宇宙の終焉の仕方の理解にも大きな影響
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「最新のダークエネルギー探査の成果と宇宙の終焉の解釈」というテーマで動画をお送りします。
400人以上の研究者から成る国際研究プロジェクトである「ダークエネルギーサーベイ(Dark Energy Survey, DES)」が2024年1月、ダークエネルギー探査の最新成果を発表しました。
本動画ではまず前提知識としてダークエネルギーの基本的な性質などを解説して、その後最新情報を紹介します。
●ダークエネルギーとは?
ダークエネルギーとは、宇宙の全エネルギーのうち約70%を占めるとされる、未知のエネルギーのことです。
宇宙空間を収縮する方向に引力を与える重力とは反対に、ダークエネルギーは宇宙空間を膨張させる方向に斥力を与えると考えられていますが、その起源や正体は現在の宇宙論では説明できていない、謎多き存在です。
○ダークエネルギーの証拠
ダークエネルギーが実在すると信じられている主な根拠は、「Ia型超新星爆発」という現象を観測することで発見された「宇宙の加速膨張」です。
Ia型超新星爆発は、太陽のような中程度以下の質量を持つ恒星が寿命を迎えた後に進化する「白色矮星」という天体が起こす大爆発です。
Ia型超新星には、「どのIa型超新星でもその絶対光度がほぼ等しい」という性質があります。
よって地球から暗く見えれば発生源は遠く、明るく見えれば近いというように、発生源までの距離が計算できます。
Ia型超新星のように絶対光度がわかり、見た目の明るさからそこまでの距離を計算できる天体や現象を「標準光源」と呼びます。
その中でもIa型超新星は非常に絶対光度が大きく、遠くからでも観測できるため、特に長い距離を計算できる標準光源として知られています。
宇宙は膨張しており、遠方の天体からやってきた光ほど地球に届くまでの過程で空間膨張の影響を受けて波長が伸び、長い波長で観測されます。
これは「赤方偏移」という現象です。
Ia型超新星の赤方偏移の度合いと見た目の明るさで距離を計算することで、宇宙がどのように膨張しているかが分かります。
そんな中1998年、Ia型超新星は宇宙膨張が一定と仮定した場合の明るさの予想よりも暗く、つまり遠い距離にあることが判明しました。
これは宇宙の膨張が一定ではなく、加速している証拠です。
当時、理論的には重力によって空間膨張は減速していると予想されていたため、この発見は驚くべきものでした。
実際、加速膨張の発見は2011年にノーベル物理学賞を受賞しています。
加速膨張の発見以来、ダークマターを含むあらゆる物質による重力を押し返すほどの力で宇宙を膨張させる「ダークエネルギー」の存在が広く信じられるようになりました。
その他にも宇宙マイクロ波背景放射やバリオン音響振動という現象の観測でも、
ダークエネルギーの存在を裏付けるデータが得られています。
○ダークエネルギーの性質
気体も、中性子星の内部も、ダークエネルギーも、宇宙に存在するあらゆるものは「状態方程式」によってその性質が語られます。
ダークエネルギーの状態方程式(p = wρ)には、その圧力(p)とエネルギー密度(ρ)の比率を表す「w」というパラメータがあります。
wが負の値であれば負の圧力、つまり斥力を及ぼします。
さらにwの値が小さいほど密度に対して圧力が大きいので、強大な影響力を持ったダークエネルギーであることを示すというイメージです。
ダークエネルギーの性質はわかっていないことだらけですが、幾つか理論的な候補があり、それらの性質はこの「w」の値によって決まります。
つまりwはダークエネルギーの性質を語る上で極めて重要なパラメータであり、様々な観測によりその値を推定しようと試みられています。
観測された宇宙の加速膨張を説明するためには、wが-1/3より小さい必要があるため、この範囲内であると考えられています。
現在の標準的な宇宙論モデルである「Λ-CDM(Lambda-Cold Dark Matter)モデル」によると、w = -1であると予想されています。
w = -1の場合、空間が膨張してもダークエネルギーの密度が変化せず、宇宙膨張に一定の影響を与え続けるという性質を持ちます。
ダークエネルギーは空間そのものに付属するエネルギーであり、膨張に伴い新たな空間が生まれると同時にダークエネルギーも生み出されるということになります。
宇宙膨張に伴うダークエネルギーの影響が一定であっても、通常の物質や光の放射は膨張と共に密度が減少するため、宇宙膨張への重力の影響は次第に弱まります。
よってw = -1の場合、徐々にダークエネルギーの影響の方が相対的に大きくなり、結果的に宇宙膨張が加速します。
様々な観測から得られた推定値は、実際にwが-1前後であることを示しています。
●最新のダークエネルギー調査
400人以上の研究者から成る国際研究プロジェクトである「ダークエネルギーサーベイ(DES)」は2024年1月、最新のダークエネルギー探査の成果を発表しました。
チームは高精度な「w」の推定値を得るため、Ia型超新星の高品質なデータを実に1499個も利用しました。
ちなみに1998年に初めて宇宙の加速膨張を明らかにした研究では、Ia型超新星のデータはわずか52個しか用いられていません。
最新の研究の結果、「w = -0.8」という推定値が得られました。
まずこれは、wが-1/3より明確に小さいため、宇宙が加速膨張していることを強く裏付ける数値です。
一方で標準宇宙モデルである「Λ-CDMモデル」で予想される「-1」という数値とはズレているように見え、一般的な理解が誤りである可能性もあります。
ただし推定値の不確かさが大きく、実際のwの値が「-1」である確率も5%ほど残っており、定説通りでも不自然さはありません。
○宇宙の終焉の理解が変わるかも
wがちょうど-1である可能性はまだまだ残されていますが、wが-1より十分に小さい値である確率はかなり低まってきています。
理論的にはwが-1を下回るほどダークエネルギーの持つ影響力が大きい場合、時間経過とともにダークエネルギーの影響力が増大し続けることになります。
次第に物質同士を結合させる引力をダークエネルギーの斥力が上回り、銀河などの大きな構造から順に、惑星系、単体の恒星や惑星、さらには生命の体や原子の構造など、どんどん小さい構造も維持できなくなります。
このようにダークエネルギーの影響により、あらゆる物質の結合が存在しなくなる宇宙の終焉の仕方を「ビッグリップ」と呼びます。
今回の本題の研究も含め、最近の研究によるとダークエネルギーの影響力は時間と共に銀河などの大規模構造を破壊するほど増大する可能性は低く、同時に「ビッグリップ」という終焉の仕方を迎える可能性も低いと考えられてきています。
ダークエネルギーの性質は宇宙の歴史を決定する極めて重要な概念ですが、未だに謎だらけです。
さらに精度の高い分析により、wの正確な値が決定されるのが楽しみです。