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さて、私はどこにいるでしょう。真冬のシャクトリ虫の命がけの擬態#イモムシ

天野和利時事通信社・昆虫記者
真冬の寒風に身をさらすクワエダシャクの幼虫。寒中我慢大会のようだ。

 真冬に葉を落とした桑(クワ)の木には、シャクトリ虫が1種類いるのだが、あまりにも枝そっくりで、ピクリとも動かないので、その存在に気付く者はほとんどいない。「さて、私はどこにいるでしょう」という、子供向けの本で良くあるパターンの擬態の典型だ。このシャクトリ虫は、クワエダシャクという蛾の幼虫だ。

タイトル写真の一部を拡大。これでシャクトリ虫だと分かるかな。
タイトル写真の一部を拡大。これでシャクトリ虫だと分かるかな。

 多くの虫は、卵や蛹といった寒さに強い形態で越冬する。成虫越冬する虫は、土の中、樹皮の下などに隠れている。幼虫で越冬する虫も、土や朽木、落ち葉の中に隠れている。

 しかしクワエダシャクの幼虫は、真冬の寒風に弱々しいイモムシの体をさらして、裸のクワの木の枝に、必死にしがみ付いている。命を落としかねない危険な寒中我慢大会のようだ。

さて、この写真では私はどこにいるでしょう。隣の枝が非常に紛らわしい。
さて、この写真では私はどこにいるでしょう。隣の枝が非常に紛らわしい。

上の写真のクワエダシャクを拡大。
上の写真のクワエダシャクを拡大。

枝とほぼ平行の姿勢のクワエダシャク。これもまた見つけにくい。
枝とほぼ平行の姿勢のクワエダシャク。これもまた見つけにくい。

比較的見つけやすい状態のクワエダシャク。
比較的見つけやすい状態のクワエダシャク。

矢印の位置にクワエダシャクがいる。首を後ろに曲げたこのポーズも良く見かける。
矢印の位置にクワエダシャクがいる。首を後ろに曲げたこのポーズも良く見かける。

クワエダシャクの尾脚部分。これで枝にしがみ付いている。
クワエダシャクの尾脚部分。これで枝にしがみ付いている。

クワエダシャクの頭部付近。3対の胸脚があるのが分かる。
クワエダシャクの頭部付近。3対の胸脚があるのが分かる。

 もっと楽な越冬方法がいくらでもあると思うのだが、彼らには彼らなりのこだわりがあるのだろう。そこそこ繁栄していることから判断して、こうした無謀とも思える越冬方法には、天敵が少ない、細菌に侵されにくいなど、それなりのメリットがあるのかもしれない。

 そんなクワエダシャクの幼虫の写真を撮っても、ただの木の枝にしか見えないので、全く見栄えがしない。そんな写真をネットにアップしても、「いいね!」はほぼゼロでスルーされてしまう。それは昆虫ブロガーにとってはみじめな敗北だが、クワエダシャクにとっては大勝利だ。

 しかし、虫の少ない真冬にクワエダシャクの幼虫を見つけると、虫好きは大喜びする。完全な自己満足の世界だ。擬態に絶対の自信を持っているクワエダシャク。その擬態を見破った時の虫好きの優越感。真冬のクワの茂みでは、そんなマニアックな戦いが、人知れず繰り広げられている。

このカイコの繭のようなもの(クワコという蛾の繭)が付いていれば、葉のない冬でもクワの木だと分かる。
このカイコの繭のようなもの(クワコという蛾の繭)が付いていれば、葉のない冬でもクワの木だと分かる。

(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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