さて、私はどこにいるでしょう。真冬のシャクトリ虫の命がけの擬態#イモムシ
真冬に葉を落とした桑(クワ)の木には、シャクトリ虫が1種類いるのだが、あまりにも枝そっくりで、ピクリとも動かないので、その存在に気付く者はほとんどいない。「さて、私はどこにいるでしょう」という、子供向けの本で良くあるパターンの擬態の典型だ。このシャクトリ虫は、クワエダシャクという蛾の幼虫だ。
多くの虫は、卵や蛹といった寒さに強い形態で越冬する。成虫越冬する虫は、土の中、樹皮の下などに隠れている。幼虫で越冬する虫も、土や朽木、落ち葉の中に隠れている。
しかしクワエダシャクの幼虫は、真冬の寒風に弱々しいイモムシの体をさらして、裸のクワの木の枝に、必死にしがみ付いている。命を落としかねない危険な寒中我慢大会のようだ。
もっと楽な越冬方法がいくらでもあると思うのだが、彼らには彼らなりのこだわりがあるのだろう。そこそこ繁栄していることから判断して、こうした無謀とも思える越冬方法には、天敵が少ない、細菌に侵されにくいなど、それなりのメリットがあるのかもしれない。
そんなクワエダシャクの幼虫の写真を撮っても、ただの木の枝にしか見えないので、全く見栄えがしない。そんな写真をネットにアップしても、「いいね!」はほぼゼロでスルーされてしまう。それは昆虫ブロガーにとってはみじめな敗北だが、クワエダシャクにとっては大勝利だ。
しかし、虫の少ない真冬にクワエダシャクの幼虫を見つけると、虫好きは大喜びする。完全な自己満足の世界だ。擬態に絶対の自信を持っているクワエダシャク。その擬態を見破った時の虫好きの優越感。真冬のクワの茂みでは、そんなマニアックな戦いが、人知れず繰り広げられている。
(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)