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防衛費を43兆円にするために、1兆円の増税が嫌なら、42兆円にすればよい話。現中期防は来年度まで有効

土居丈朗慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)
2023年度からの中期防衛力整備計画では5年間で防衛経費を43兆円にするという(写真:Fujifotos/アフロ)

2023年度から5年間の防衛経費の総額を定める中期防衛力整備計画(中期防)を、今年末までに閣議決定することを目指している。

その次期中期防での防衛経費の総額を、43兆円にし、その財源は、決算剰余金の活用などで確保するものの、2027年度以降は足りないことから、そのうち1兆円強を増税で賄うことを、12月8日に岸田文雄首相が表明した。

ちなみに、今の中期防は、2018年12月18日に閣議決定され、防衛経費の総額は概ね27兆4700億円で2019年度から2023年度までの5年間とされ、来年度まで有効である。

次期中期防の規模を43兆円にした主な意図は、日本の防衛費を、対GDP比でNATO加盟国並みの2%にすべきと求める勢力の意見を受け入れたことである。5年間の総額を43兆円にすると、2027年度までには日本の防衛費は単年度で対GDP比で2%になると見込まれる。

しかし、その防衛費の増額のための財源として増税が提案されたことで、反対意見が相次いでいる。

防衛費のための増税は受け入れられないとか、増税して防衛費を増やすぐらいなら子育て支援など社会保障を増やすべきだとか、防衛費増額と増税を結び付けたことで、忌避感が出たのだろう。

無理もない。防衛費を増額してどんな防衛装備品を整備するのかも詳しく示されていないのに、その請求書だけを増税という形で国民に回してきた、と受け止めても不思議はない。

とはいえ、防衛費の増額で足りない財源は国債増発で賄えばよいという意見は、国民に負担増の痛みなく防衛費がやすやすと増やせると錯覚させる意味で虫が良すぎる。そもそも、日本の防衛費を対GDP比で2%にすべきと求めた勢力には、増税反対・国債増発を主張する人が多い。

拙稿「『防衛力の抜本的強化』のための増税はありうるか」でも記したが、国債で防衛費を賄うと、それで揃えた防衛装備品は、技術進歩が激しく10年も経てば陳腐化して使えなくなるのに、その購入費に充てた国債は、使えなくなった10年後以降は完済されるまで、その元利償還負担だけが国民に及ぶ。

使えなくなった防衛装備品を買うのに借金をして、その防衛装備品が陳腐化して使えなくなってもなお、その借金の返済だけが残るという事態は避けなければならない。

岸田首相は、12月10日の記者会見で、「国債でというのは、未来の世代に対する責任として採り得ないと思っております。」と明言した。

それでも、増税は受け入れられないということなら、1兆円強の財源が追加で得られないことから、防衛経費の総額も1兆円強減らし、43兆円から42兆円に減らす。そうしても国民生活に大した支障はない。

何せ、防衛費を1兆円減らしたら直ちに国民の生命と財産が守れなくなる、というほどの状況ではない。そもそも、防衛費を対GDP比で2%にするというのは、NATO加盟国並みにするというだけの参照値にすぎず、日本はNATO加盟国でもないし、NATO加盟国から日本が2%にせよと求められたわけでもない。

おまけに、現行の中期防は、前述の通り、もう1年有効期間が残っている。仮に今年内に決着が付かなかったとしても、防衛計画に空白期間が生じるわけではない。

防衛費を増額したい勢力が、中期防を1年前倒しで作成することを求めた結果が、次期中期防の1年前倒し改定だったのだ。それでいて、防衛費を対GDP比2%まで増額、増税反対、国債で賄え、というのでは、「未来の世代に対する責任」を果たしていない。

岸田首相は、防衛力強化に係る歳出歳入両面での財源確保の具体的内容を一体的に決定すると表明している。財源確保を含めて一体的に決められないなら、何も慌てて今年内に決めなくても、現行の中期防があるのだから、重大な支障はない。

それでもなお、今年内に決定するというわけだから、今後の防衛論議の焦点は、増税に賛成か反対か、ではない。防衛費を43兆円にするために増税を甘受するか、増税を拒むなら防衛費を42兆円にするか、のどちらか、である。

ただ、その焦点で結論が得られてもなお、残された大きな課題がある。それは、2027年度以降の

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慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)

1970年生。大阪大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。慶應義塾大学准教授等を経て2009年4月から現職。主著に『地方債改革の経済学』日本経済新聞出版社(日経・経済図書文化賞とサントリー学芸賞受賞)、『平成の経済政策はどう決められたか』中央公論新社、『入門財政学(第2版)』日本評論社、『入門公共経済学(第2版)』日本評論社。行政改革推進会議議員、全世代型社会保障構築会議構成員、政府税制調査会委員、国税審議会委員(会長代理)、財政制度等審議会委員(部会長代理)、産業構造審議会臨時委員、経済財政諮問会議経済・財政一体改革推進会議WG委員なども兼務。

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