アザールとベンゼマの「縦関係」に見る、レアル・マドリーの攻撃の新機軸。求められる「ラストピース」
レアル・マドリーが、ショックから立ち直ろうとしている。
コパ・デル・レイでアルコジャーノ(2部B)に敗れてベスト32敗退が決定したマドリー。アルコルコンに屈して大会から姿を消した2009-10シーズンを思い起こさせるような、マドリディスタからすれば屈辱的な敗戦だった。
だがリーガエスパニョーラ第20節で、マドリーはアラベスに4-1と大勝した。この試合、輝きを放ったのがカリム・ベンゼマとエデン・アザールである。
アザールは2019年夏にチェルシーからマドリーに移籍。マドリーは彼の獲得に際して高額な移籍金を支払った。その額は1億ユーロ(約120億円)とも、1億6000万ユーロ(約192億円)ともいわれている。
アザールに限らず、クリスティアーノ・ロナウドが退団した2018年夏以降、マドリーは積極的に前線の補強を行ってきた。
ルカ・ヨヴィッチ(移籍金6000万ユーロ/約72億円)、ヴィニシウス・ジュニオール(4500万ユーロ/約54億円)、ロドリゴ・ゴエス(4500万ユーロ/約54億円)、ヘイニエル・ジェズス(3000万ユーロ/約36億円)、マリアーノ・ディアス(2170万ユーロ/約26億円)、ブラヒム・ディアス(1700万ユーロ/約20億円)...。アザールを含めると合計額は3億2000万ユーロ(約384億円)を超える。
ただ、フロレンティーノ・ペレス会長がC・ロナウドの後釜として最も期待していたのはアザールだろう。そして、アザールはジネディーヌ・ジダン監督が欲していた選手でもある。ペレス会長がエース継承者と計算していたガレス・ベイルがジダン監督とそりが合わず、アザールを中心にするチーム作りにマドリーはシフトしようとしていた。
しかしながら、その計画は頓挫する。想定外だったのは、アザールの度重なる負傷だ。チェルシー時代、彼は在籍した7シーズンで20試合に欠場した。一方でマドリー移籍以降、1シーズン半で43試合に欠場している。
「アザールは身体のベストの状態を意識しているが、限界を超えてしまっている。原因はストレスにあると思う。ストレスによって、筋肉が通常より緊張している状態で、それによりアザールの負傷が増えている」とはベルギー代表のメディカルスタッフであるクリス・ヴァン・クロムブルッヘの言葉だ。
「レアル・マドリーでは、アザールに大きな期待が懸けられていた。アザールはそれをまともに受けてしまった」
「ロベルト・マルティネス監督やジダン監督、そしてファンのために全力を尽くしたい。それがアザールの口癖だ。常に試合に出る準備をしている。そうして自分自身にプレッシャーをかけている。そういったものは表面上にはあらわれない。だがアザールも人間なんだ」
■ベンゼマの真の決定力
そのアザールが本格的に復帰してくれば、恩恵を受けるのはベンゼマだろう。C・ロナウドが退団してから、2019-20シーズン(公式戦27得点)、2018-19シーズン(30得点)と唯一マドリーで要求される決定力を示し続けてきた男だ。
先のアラベス戦では2得点を記録し、今季のリーガでの得点数を10得点に伸ばした。リオネル・メッシ、ルイス・スアレスらとの得点王争いに名乗りを挙げている。
「マドリーには、弾丸のような選手がいた。ベイルだ。そして、ゴールスコアラーがいた。クリスティアーノだ。その2人の間の空間に、僕がいた。僕はすべてが機能するためのピースだった」
ベンゼマは以前、ベイルとC・ロナウドとの3トップについて、そう語っていた。
「BBC」は342試合で3トップを組み、ベンゼマはC・ロナウドに47アシスト、ベイルに10アシストを記録している。
ベイル、ベンゼマ、C・ロナウドの「BBC」時代を超えて、いま、ベンゼマの最高のパートナーはアザールだろう。ピッチ上での彼らの化学反応は観衆をワクワクさせるもので、また攻撃の活性化と得点を予感させる。
アラベス戦の2点目のように、アザールとベンゼマが縦関係になった時が、相手の脅威になる。アザールがフリックで後方に流して、スペースのある状態でボールを受けたベンゼマがミドルシュートを沈めた場面だ。
■レアル・マドリーで新たな歴史を
アザールはチェルシーで、1シーズン平均15得点をマークしていた。
しかし、マドリーではリーガ第8節ウエスカ戦で得点を決めるまで、392日間、ゴールから遠ざかっていた。
「アザールはチェルシーで素晴らしい選手だった。これから、マドリーで新たな歴史を築いていかなければならない」
ベンゼマのアザール評である。他ならぬベンゼマが、ずっと、マドリーで「決定力不足のストライカー」というレッテルを貼られてきた。だからこそ彼の言葉には重みがあり、アザールにはそれに応えるポテンシャルがある。