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岸田総理の迷走から始まった臨時国会に「安倍包囲網」が浮上してきた

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(624)

極月某日

 第207臨時国会は、公明党の選挙公約である18歳以下への10万円給付を巡る岸田総理の迷走から始まったが、地方自治体や野党の声に押される形で方針転換すると、次に出てきたのは安倍政権時代に始まる国土交通省のデータ改ざん問題だった。

 国交省は安倍政権誕生直後の2013年から建設業者が提出していた受注実績データを改ざんし、会計検査院から問題を指摘されて2020年1月から修正を行ったが、その事実を公表していなかった。

 それが15日付の朝日新聞朝刊にスクープされたのである。改ざんされた受注実績データはGDP(国内総生産)の算出に用いられることから、統計の中でも特に重要な「基幹統計」と位置付けられている。

 独裁国家ならいざ知らず、民主主義国家で「基幹統計」を改ざんすることなどあってはならない。しかしその事実が朝日新聞にリークされ、衆議院予算委員会の最終日の朝に報道されたのだ。

 まるで10万円給付の問題が一段落するのを見計らい、次の大テーマに浮上させるタイミングでのリークである。そして同じ15日に「森友問題」で自殺した故赤木俊夫氏の妻が起こした裁判で、訴えられていた国は突然訴えを認めて裁判を終結させた。

 国交省のデータ改ざんも「森友問題」もいずれも安倍政権時代の出来事だ。それが予算委員会が開かれている最中に劇的な展開を見せた。これをどう見るか。臨時国会は間もなく終わるので、野党の追及を時間切れにするタイミングで出したのか。いやそうではなく来年の通常国会で追及させようとする計略が秘められているのか。いずれにも解釈できる。

 ただしフーテンの直感は「安倍包囲網」ではないかということだ。岸田政権にとって目の上のたんこぶは自民党最大派閥を率いる安倍元総理である。自民党総裁選で安倍元総理は高市早苗を担いだが、高市は決選投票に持ち込むための「噛ませ犬」で、それが功を奏し河野太郎ではなく岸田文雄が新総裁に選ばれた。

 従って安倍元総理は岸田政権の生みの親だ。最大派閥の力を見せつけながら、政権運営に注文をつけてくる可能性がある。表では「岸田政権を支える」と言いながら、再々登板の野望を持つ安倍元総理が本当に岸田政権を支える保証はない。

 それを承知しているから岸田総理も安倍派の若手である福田達夫を自民党最高意思決定機関の総務会長に抜擢することで安倍派内に分断の芽をつくり、また安倍元総理とは親の代からの「天敵」である林芳正を外務大臣に起用して総理候補に引っ張り上げた。

 これに対し安倍元総理は、林外務大臣が「親中派」と見られることから、反中国の姿勢を強め、台湾のシンクタンクの講演会にオンライン参加し「台湾有事は日本有事」と発言、また米国が呼びかける北京五輪の「外交的ボイコット」に日本も同調するよう岸田政権に圧力を加えている。

 こうした圧力をはねのけるための政略が、国交省のデータ改ざん問題や「森友問題」での突然の幕引きの背景にあるのではと思うのだ。まずは民主主義国家にとって深刻な国交省のデータ改ざん問題である。なぜ誰からの指示でデータが改ざんされたのかは今後の調査を待たなければならないが、結果的にはGDPが実態より過大になった可能性がある。

 改ざんが始まったのは安倍政権が誕生した直後で、デフレからの脱却を目指す「アベノミクス」が国民の注目を浴びていた時期だから、GDPを過大に見せたい政権の意向に沿った「情報偽装」を官僚が行ったと考えるのが自然である。

 安倍政権の特徴の一つである官僚の「忖度」が基幹統計を歪めたことになるが、これと同じことは安倍政権時代にも厚労省の「毎月勤労統計不正」が大問題になったことがある。「毎月勤労統計」もGDPに影響を与える基幹統計で、この時は労働者の賃金を実態より低くすることで失業保険の金額を低く抑えていた。

 問題が発覚したのは2019年の1月で、そのため通常国会で野党は官僚の「忖度」を厳しく追及したが、安倍総理は「出来る限り速やかに不足分を支給する」と言って、なぜ統計不正が始まったのかの原因調査や、どうやって基幹統計の不正をなくすかの議論は充分に行われないまま終わった。

 当時フーテンは、野党の追及も政府側の答弁も問題の焦点から外れたピンボケだとブログに書き、フーテンの独自の見方と情報偽装をなくす方法を披露した。野党は安倍総理を追及することばかりに熱心で、官僚の「忖度」がしきりに追及されたが、「毎月勤労統計」の不正が始まったのは2004年の小泉政権の時代である。

 当時は内閣人事局もできていないから安倍政権での官僚の「忖度」とは事情が異なる。そこでフーテンは小泉政権下の2003年に「労働者派遣法」が改正されたことが出発点ではないかと書いた。それまでの終身雇用制や正社員中心の雇用慣行が抜本的に変わるため、厚労省の官僚は失業保険金の増大で雇用保険財政が赤字化することを恐れたためと考えたのだ。

 そのため官僚は平均賃金を実態より低く抑え、失業保険金も低くするため「情報偽装」を行った。基幹統計の不正は先進国ではありえない。フーテンはそれをなくすため米国議会の制度を参考にすべきと書いた。

 米国ではベトナム戦争の敗戦を契機に政治改革が始まった。それはなぜ米国議会がベトナム戦争への参戦を認めたのかの反省から始まる。原因は議会がCIAやペンタゴン(国防総省)の嘘情報を信じたことだった。

 議会は官僚からの情報だけで判断することの危険性を知った。そのために議会がやったことは情報源の多角化である。最も簡単なのは行政府の情報と並行して立法府に情報収集能力を持たせることだ。さらには民間シンクタンクの情報も参考にする仕組みが作られた。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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