働き方のルールを取り払うことで現場の力を引き出したい インテージグループ働き方改革担当者インタビュー
「バズワード」化する働き方改革
エン・ジャパンが春に行ったアンケート調査によれば、回答企業の60%が「働き方改革に取り組んでいる」という。今年は各社トップの年頭あいさつや春闘でも、「働き方改革」がキーワードだった。「働き方改革をやらなければ!」という空気が経済界全体に広がっていることが分かる。
しかし、流行には乗ったものの、自社にとっての意味があいまいな「バズワード」と化してしまっている企業が多いようで、現場の社員の間では反発の声も目立つ。先月サイボウズが都内のJRの駅に以下のようなコピーが踊る広告を掲示し、共感の声が集まったのもその表れだろう。
業界トップの危機感から働き方改革をスタートしたインテージグループ
「残業は月に◯時間以内」、「女性管理職を◯%に」といった数値目標を掲げるだけで、どう実現するかは現場に丸投げ。働き方は変えても仕事量や売上は減らすなという無茶振り――、これでは上手くいきようがない。
経営トップや管理職が、「働き方改革」の意義を理解し、本気で必要性を感じているなら、このような方法は取らないだろう。各社員も、その目的と手段に納得ができれば、達成のために前向きに動き出すのではないだろうか。
インテージホールディングスでは、この4月に「コアタイムのないフルフレックス勤務」と「回数制限のないリモートワーク」の制度を導入した。まずは50名ほどのホールディングス所属の社員が対象だが、これから国内15社あるグループ会社にも順次広げていく予定だという。
同社で働き方改革のリーダーを務める経営企画部の松尾重義氏は、インテージグループにおける働き方改革の目的を「社員ひとりひとりのプロフェッショナリティを高めること」だと語る。
「私は1月にこの会社に入社したんですけれど、そのときに社長の宮首や取締役で働き方改革推進担当の仁司と話をして理解したのは、社員の自律性やプロフェッショナリティをいかに高めるか、という点が課題であるということでした。そのためには、社員ひとりひとりに権限や裁量を渡していく必要があり、その象徴的な要素が働く場所や時間だったのです」
インテージグループの主な事業は、マーケティングリサーチだ。1960年創業の最大手だが、今の時代は誰でもウェブを使って簡単にアンケート調査ができ、データ分析を支援するITツールもたくさん出回っている。それでも選ばれ続ける会社であるためには、各リサーチャーのアウトプットの品質向上や現場発で新しい価値を生まれてくるような組織作りが必要だという危機感が、同社の働き方改革の背景にある。
現場の力を高めるためにルールを廃止
働き方改革というと、何か新しい制度を導入するというイメージが強いが、同社がやったのは、ルールを減らすということだ。
元々フレックスタイム制だった働く時間については、10時半〜15時のコアタイムを廃止。健康のため、早朝・深夜に仕事すること、長時間労働は推奨しないが、午前7時から22時の間、かつ1日7.5時間という所定労働時間を基準に、いかに効率良く働くかを各自考えてほしいという。
働く場所については、これまでも外出中の空き時間にカフェで仕事をする、といったことは可能だった。4月からはさらに自由度を高め、ある日は1日在宅で仕事をする、といったことも、上長や関係者と調整の上で自由に決められるようになった。「月に何回まで」とか、「事前に人事部の許可を得る」といったルールはない。
社員の働き方を変えるために、ルールを作るというよりも、減らす方向に向かった理由について、松尾氏は次のように語る。
「その時々でどんな働き方が最適かというのは、現場で実際に仕事をしている人たちが、一番分かっている気がします。だから、こうしなきゃいけない、というルールがあること自体が、制約になっている部分がもしかしたらあるんじゃないかという気持ちが強かったんです。権限とか裁量を下ろして、各々がどうしたら良いかを考える方が、個々人も会社も、むしろ強くなっていくのではないかと期待しています」
社員の過半数が新しい働き方を実践し、ポジティブな変化を実感
同社では、新しい働き方への変化や効果について、社員に継続的にアンケートを取り、結果を全グループ内に公開していく予定だ。
働き方改革をスタートした4月の状況を振り返るアンケートでは、フルフレックス制度を活用した働き方を実施した社員が40%超、リモートワーク制度を活用した働き方を実施した社員が50%超だった。活用頻度は、どちらも月1〜2回が最も多く、次に週1〜2回が多かった。
注目すべきは、新しい働き方の取り組みによって「自分自身の働き方(プライベート含む)にポジティブな変化があった」と回答した社員が6割を超え、「所属チームやチームの仲間の働き方にポジティブな変化があった」と回答した社員が5割を超えたという点。冒頭に挙げたような、会社の意向と現場の社員の感じ方に不協和音が起きているという問題は、かなり少ないと見て良いだろう。
また、「自身の生産性に変化があったか?」という質問に対して、約3割の社員が「生産性が高まった」と回答し、その具体的な理由として「リモートワークにより、ひとりで集中できる環境を持てる」、「通勤がないことで疲れにくく、集中しやすい」、「自己管理力が求められているという意識から、今まで以上に成果を出そうと動機づけられた」といった意見が出ている。
一方、7割弱の社員が「生産性は変わらない」と回答したが、その理由のほとんどは、まだ新しい働き方を試していないか、実施回数が少ないということだった。
このような結果を見ると、「集中を要する作業をするならリモートでやった方が良い」、「出勤を要するタスクがない時は、通勤でムダな体力を使うのはやめよう」といった考え方が徐々に浸透していくことが予想される。他に、子育て中の女性が曜日によって出社する日とリモートで仕事をする日を決めて働くことで、家事・育児との両立をしやすくなったという例もあるそう。今後続けていくことにより、会社側の期待通り、現場発でより良い働き方を考える文化が醸成されていきそうだ。
次回は、同社の取締役で、働き方改革推進担当の仁司与志矢氏のお話を紹介する。