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大リーグ労使交渉決裂、公式戦短縮の代償。

一村順子フリーランス・スポーツライター
マンフレッド・コミッショナーのリーダーシップにも批判(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 大リーグの労使交渉は1日(日本時間2日)、計15度目の最終交渉で決裂し、公式戦の開幕2カードの中止が決定した。オーナー陣は最低年俸の引き上げで上積みしたが、贅沢税とボーナスプール、金銭面の2大懸案の溝は埋まらず、正当な収益分配を主張する選手会は最終提案を却下した。

 譲歩しないオーナー陣と選手会への失望。リーダーシップを欠くマンフレッド・コミッショナーへの批判。ファンの落胆。評判の失墜。球界のダメージは計り知れない。オーナー陣が経営側の言い分を主張し、選手が公正な報酬を要求するのは勝手だが、ロックアウト突入後90日の猶予がありながら、40日以上交渉を放置し、時間切れで袂を分かった両者。ファンが待ち望む公式戦を犠牲にしてまで固執したのは、究極は金銭問題と非難されても仕方ない。

 決裂の代償は、第一に、選手の報酬に直結する。開幕2カード計91試合の中止は日割りで減俸され、選手全体で1日につき約2050万ドル(約24億円)の損失。試合数など出来高契約を結ぶ選手にも不利となる。また、開幕が15日以上遅れるとFA権取得期間に影響が出ると言われ、エンゼルス・大谷翔平選手のFA取得が1年延期する可能性も指摘されている。寒冷地では観客数が伸びない4月上旬の試合の中止は、経営側には、さほど痛手にならないと言われるが、球場で働く従業員は失業状態となり、地域の経済効果にもマイナスだ。

 ロックアウト継続により、FAトレード市場は継続して凍結。ポスティング制度でメジャー移籍を目指す鈴木誠也外野手の交渉も中断したままで、唯でさえ遅れている球団のロースター整備は更に滞る。未所属のFA選手は約300人。年俸調停待ちも約100人。登録枠ボーダーライン上の選手は、更に煽りを受けるだろう。

 選手の調整面にも悪影響は否めない。通常6週間のキャンプで投手は球数、打者は打席数を増やしつつ、感覚を磨くが、ロックアウト継続で選手は大学施設を利用するなどして、自主トレを続けている。選手会はアリゾナの施設を提供するなど支援しているが、実戦からは遠ざかる。本来ならオープン戦序盤で起用機会が与えられる若手も、アピールのチャンスを逸する。何より、リハビリ中の選手のケア不足は、選手本人にも球団にも不安を残す。最後に、ロックアウト突入後、機構側は20年ぶりにドーピング検査を中断している。長期間フリーパスとなる隙を狙った違反者が現れる可能性も懸念される。

 春は近いが、球音は聞こえない。迷走する大リーグ。守るべきは、詰まるところ、試合の通常開催ではなかったか。

フリーランス・スポーツライター

89年産經新聞社入社。サンケイスポーツ運動部に所属。五輪種目、テニス、ラグビーなど一般スポーツを担当後、96年から大リーグ、プロ野球を担当する。日本人大リーガーや阪神、オリックスなどを取材。2001年から拠点を米国に移し、05年フリーランスに転向。ボストン近郊在住。メジャーリーグの現場から、徒然なるままにホットな話題をお届けします。

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