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偶然から必然へ。カブス今永昇太の無敗神話を支える危機管理能力。

一村順子フリーランス・スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 カブスの今永昇太投手は24日(日本時間25日)、敵地でのカージナルズ戦で、今季6勝目を賭けて今季10試合目のマウンドに上がる。勝てば、デビューからの無傷の6勝。日本人メジャーでは、2002年の石井一久(ドジャース)、2014年の田中将大(ヤンキース)に並ぶタイ記録となる。投げ合う相手は元巨人のマイコラス投手だ。

 前回18日(同19日)の登板は本拠地でのパイレーツ戦。勝敗はつかなかったが、7回4被安打無失点の好投で、防御率は1913年以降の大リーグ新人投手による先発9試合での史上最高値となる「0・84」を叩き出した。

 「味方のいい守備もあったし、たまたま失点しなかった」

 「今日はたまたま上手くいった」

 試合後の左腕は「たまたま」を繰り返した。13日(同14日)は、敵地のブレーブス戦で5回無失点(勝敗つかず)。その時も試合後「運が良かった」を3度、繰り返している。遡って今月1日(同2日)のメッツ戦の後では、こうも語った。

 「僕が想像していたより良い数字が並んでいますが、1試合1試合振り返ってみると、紙一重の勝負どころで、たまたま拾ってきたところがある。そうじゃない試合もこれから来る。そういう紙一重のところを自分のものにできるように頑張りたい」

 多少謙遜はあるのかもしれない。だが、そう何度も幸運が重なるだろうか。先発9試合で負けなし。背景には、”偶然”だけではない”必然”があるのではないか。紙一重の勝負どころで競り勝つ。もしくは、ダメージを最小限に留める。今永が成功を重ねている背景には、緻密な準備と旺盛な探究心があるように思う。

 遡ること今月8日(同9日)。パドレス戦で7回2失点と好投した翌日、今永はホットビー投手コーチとセットポジションからのフォーム改善に取り組んでいた。パドレス戦の直球平均速度は、今永の平均球速より0・5マイル下回る91・5マイル。小さな誤差を見逃さず、直ちに修正の手を加えた。

 「出力がなかなか上がらなかったので。特にクイックの時に、どうすれば出力が上がるのかという話し合いをして、体重移動とセッティングを修正しました。どっちに体重を置くのかというところで、マウンドは平坦ではないので、自分が思っている以上にキャッチャー寄りに頭が傾いてしまっていた。そうすると、体重が残せない。自分が5分5分と思っていても5分5分ではないというところを確認しました。(ブレーブス戦では)その誤差を意識して投げた結果、クイックで93マイルも出ていましたし、自分に落とし込むことができたのかなと思います」

 ブレーブス戦の直球平均速度は92・4と自己平均を上回った。また、昨年73盗塁でナ・リーグの盗塁王に輝いたアクーニャを一塁で牽制刺し。5回もアルビエスを牽制で刺した。「セットした段階で体重が後ろに残っていれば、(打者は)どっちに投げるか分かり辛いので、もしかしたら(影響)したかもしれないですね」。セッティングの修正には、副産物もあったようだ。

 過去9試合で1回から3回までの失点はゼロ。各球団、データやビデオを検証し、今永攻略に挑んでいるが、現時点では、どの球団も打者一巡目で、今永を攻めあぐねている。昨年、54本塁打139打点で2冠王に輝いたブレーブスのマット・オルソン外野手は、初対面した(3打数2安打)今永の印象について「ビデオで映像は見ていたが、実際に打席に立って感じたことは、腕の出どころがとても見づらいこと。球速92マイルの直球が94、5マイルに感じられて、Deceiving(騙される、惑わせる)だった」と語った。そして、「彼との対戦は1球毎にチェスをプレーしているような気がした」と振り返っている。

 昨年の2冠王は、不敗神話を築いている新人左腕との対戦から、チェスマッチのような知性を感じたようだ。64の目に分けられたチェス盤に繰り広げられる戦いには、幾通りもの攻め方があり、しばしば、頭脳と頭脳の対抗に、運はないと言われる。登板間の修正で、運の要素をひとつずつ排除しながら、今永の”不敗神話”が続いている。

フリーランス・スポーツライター

89年産經新聞社入社。サンケイスポーツ運動部に所属。五輪種目、テニス、ラグビーなど一般スポーツを担当後、96年から大リーグ、プロ野球を担当する。日本人大リーガーや阪神、オリックスなどを取材。2001年から拠点を米国に移し、05年フリーランスに転向。ボストン近郊在住。メジャーリーグの現場から、徒然なるままにホットな話題をお届けします。

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