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通算436セーブ右腕がメジャー公式球の品質向上に、日本企業との技術提携を提案。

一村順子フリーランス・スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 大リーグ機構は6月24日(日本時間6月25日)、不正物質使用の規定違反で、メッツのエドゥイン・ディアス投手に10試合の出場停止と罰金の処分を下した。23日(同24日)のカブス戦の9回に救援登板した際、審判に粘着物の検査を受け、1球も投げることなく退場となった。試合後、メンドーサ監督は「ロジンと汗と土。不正物質の使用ではないが、過剰にベトついていたから処分された」と説明。ディアスも「普段と同じロジンを使い、いつも通り指に土をつけただけ。驚いた」と語った。一方、カラパザ審判長は「明らかに不正物質。我々は何千というケースを調べているので、違反は分かる」と見解を発表。言い分は食い違った。結局、ディアスは不服申立てせず、処分を受け入れた。やっぱり、不正物質なのだろうか。

 そもそも、ロジンと汗と土だけで、許容量を超えるベトつきが生じるのか。レッドソックスの抑え、ケンリー・ジャンセン投手に聞いた。「ロジンと汗と土だけでは、ベトベトにならない。ロジンを一袋使い切ってもね。何かを混ぜないと、ベトつかない。ローションかアルコールか。きっと何かと混ぜたんだ。残念ながら、ズルしたんだ」と436セーブ右腕。その線引はクリアだと言った。

 大リーグは、2021年途中から粘着物質検査に乗り出し、新ルールを導入。登板時に手や帽子などの検査を実施し、違反選手は、抗議なしで即退場。10日間の出場停止処分を受けることになった。今回、ディアスで処分者は8人目だ。

 「取り締まっても、根絶は難しいと思うよ。大リーグには、昔から滑り止めを使ってきた長い歴史があるからね。違反者がなくなることはないんじゃないかな。本来、しっかりトレーニングして球質を上げるのが、筋なんだろうけど、ズルしようとするヤツは必ず、出てくる。残念なことではあるが、しょうがない。ボールは滑るし。結局、処分を受けて、復帰するだけだ」

 違反撲滅に懐疑的なジャンセンは、状況を改善する案として、2つの提案をした。1つは、罰則を重くすること。「検査が始まって、多くの選手は滑り止めを使うのを止め、ルールに従っていると思う。でも、バレても10日間の出場停止で済むなら、ズルするヤツもいる。10日間じゃ、チームもそれ程、痛くない。先発投手なら、登板を1回飛ばす程度だ。15日間か20日間。それぐらい厳しくしないと、チームも選手も真剣にやらない」

 もう一つは、ボール自体の改善だ。「そもそも、ボールが滑るから、ピッチャーは苦労している。日本の公式球を触ったことがあるけど、指にしっくりくる感じで、あれならしっかりグリップ出来ると思った」。筆者が日本人と知った上で、ジャンセンはミズノ社製のNPBの公式球を評価。本拠地フェンウェイ・パークでは、ロッカーが隣の元日本ハムで同僚のクリス・マーチン投手に同意を求めた上で、「技術提供を受けるとか、すればいいのに。難しいのかな」と語った。

 マーチンも頷く。「いいアイデア。ライセンスの問題とかあるんだろうけど。日本のボールが優れているのは、革の質感もそうだけど、一定でバラつきがないこと。こっちのボールは、大きさや弾力性がまちまち。時々、いびつな形もある。投手はグリップをしっかり定めたいんだ。2021年のロジンは質が悪くて苦労した。翌年からロジンの質が良くなって助かったけれど、それでも、寒い時期や乾燥した地域で投げる時は苦労する」

 大リーグは、創立1887年の歴史を誇る米ローリングス社のボールを、1977年から公式球に採用。2018年に大リーグが共同投資で同社を買収。実質的に傘下組織という関係にある。ベースボール発祥の地を自負する米国の面子に懸けても、海外他社のボールを採用するとは思えないが、業務提携を結んで、皮なめしの技術や製品の均一性を高める技術を導入してはどうか。自動車業界などでは、ホンダとジェネラル・モーターズなど、日本の国産メーカーと欧米のメーカーによる業務提携があるが、野球界は無理なのか。粘着物違反と肘靭帯の再建手術が後を絶たない大リーグ。将来の殿堂入りが視野にあるジャンセンは、選手にフェアプレーを求めると同時に、ボールにも改善の余地があると指摘した。

フリーランス・スポーツライター

89年産經新聞社入社。サンケイスポーツ運動部に所属。五輪種目、テニス、ラグビーなど一般スポーツを担当後、96年から大リーグ、プロ野球を担当する。日本人大リーガーや阪神、オリックスなどを取材。2001年から拠点を米国に移し、05年フリーランスに転向。ボストン近郊在住。メジャーリーグの現場から、徒然なるままにホットな話題をお届けします。

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