大阪都構想:大阪はなぜ2回目の住民投票に挑戦するのか?
来る11月1日、大阪市で住民投票が行われる。政令指定都市である大阪市を廃止し東京23区のような特別区4つに再編し大阪府の権限を強化する、いわゆる“大阪都構想”(以下「都構想」)の是非を市民に問う投票である。
都構想は5年前の2015年5月17日に住民投票が行われ、その時は僅差(約1万票、比率で1%の差)で否決された。今回は2度目の挑戦だ。なぜ2度目をやるのか、地元出身かつ、これまで維新改革に関わってきた立場から解説したい。
(1)前回とは異なる新たな「大阪4区」案に進化
メディアはさかんに「2回目の挑戦」と言う。だが、今回の住民投票にかかる都構想の内容は、前回より進化している。前回は大阪市を5特別区に再編する案だったが、今回は4区に分ける案になっている。また敬老パスの維持を約束し、虐待対策の児童相談所を各区に置くなど、住民向けサービスが前回案より充実した。これは今回の案作りで公明党の意見を取り入れた成果だ。また特別区の庁舎設置コストも359億円と大幅に削減された。
(2)公明党も賛成し府議会・市議会で議決支持
前回の住民投票では公明党は賛成の態度を示していなかった。しかし今回は一緒に案を作り明確に賛成している。維新と公明の共同の街頭演説も10月4日に実施ずみ。この変化は大きい。中央では自民と公明が連立政権を担う。だが大阪では維新と公明が連携して住民投票を進める。そして自民党も、実は大阪市議会の自民党は一貫して反対だが、大阪府議会の自民党には賛成の議員が多数いて一時は大阪府連として賛成していた。最終的に自民党全体としては反対とされたが、本気で反対している府議会議員は少数だ。加えて菅総理は大阪の二重行政の弊害を長年、指摘されてきた。
こうした事実を重ねると、今回の都構想案は府議会、市議会で議決支持されたうえに、国政与党の公明が賛成し自民にも賛成派がおり、加えて総理の支持を得て住民投票にかけられるわけだ。
(3)大阪市民の投票で最終決定
ところで、そもそもなぜ住民投票が必要なのか。市町村合併の場合は地元の議会で議決すれば、必ずしも住民投票を行う必要はない。しかし今回の場合は大阪市役所が政令指定都市制度から離脱し、さらに市を廃止するという全国初の変更だ。そこで様々な議論を経て、最終的に法律で大阪市民による住民投票を行う制度とされた(「大都市地域における特別区の設置に関する法律」)。
だから都構想は、すでに大阪府民の代表である府議会議員と大阪市民の代表である大阪市会議員の両議員が多数決で賛成し、さらに総務省が適法を確認した案、つまりプロの目から見て太鼓判が押された制度であることを前提に当事者である大阪市民の考えで最終的に決定するものだ。つまり民主制の理念を最大限に尊重したプロセスで進められているのだ。
(4)バーチャル大阪都の9年間の実績
都構想が必要とされる最大の理由は、言うまでもなく大阪市と大阪府の二重行政の排除である。これについては実は11年の“ダブル選挙”で橋下徹氏と松井一郎氏がそれぞれ大阪市長と大阪府知事に就任してツートップ体制の下での「バーチャル大阪都」を実現、その下で府と市が合同で府市統合本部を設けて共同で大阪全体の改革を進めてきた。
橋下氏が退任した15年秋以降も、吉村市長と松井知事が「バーチャル大阪都」を引き継ぎ、万博の誘致や地下鉄なにわ筋線(関西空港へのアクセス鉄道)の建設、長年止まっていた阪神高速淀川左岸線の建設などのインフラ建設や経済活性化策に取り組んできた。
さらに府立大学と市立大学の統合や独立行政法人の公衆衛生研究所(府)と環境科学研究所(市)の統合など、外局や独立行政法人の統合が進んだ。また今回のコロナ対策でも府市が共同設置する健康基盤安全研究所が威力を発揮した。こうした「バーチャル大阪都」の実績の積み上げが今回の2度目の挑戦の背景にある。
ちなみに前回15年の住民投票の頃は、橋下徹氏が知事になって約7年、市長になってからはまだ3年強しかたっていなかった。地下鉄トイレがきれいになるなどの実績は目に見えていたが、府と市の二重行政の解消については目に見える成果が十分には示せていなかった。今回はそれから5年たち、住民が「バーチャル大阪都」の実績を実感できるところまで来ている。しかも二重行政の解消だけではない。一連の維新改革では地下鉄・バスの民営化、関西国際空港の再生、教育改革、西成区の活性化策、インバウンド誘致などに取り組み、実際に大阪の街が安全に、きれいになり、活性化している。こうした改革の果実をもとに「維新は都構想にもう一度挑戦すべきだ」という市民の声は大きい。
振り返ってみると大阪維新の会ができて、はや10年。今では府下の約3分の1の市町村長が維新の会に所属し、大阪府市と連携した維新改革を進めている。加えて「バーチャル大阪都」の実績が積みあがる。これらを背景に維新は府議会、市議会はもとより、各市町村の議会選挙でも議席を伸ばす。19年4月の統一地方選挙で松井知事と吉村市長が入れ替わるクロス選でも大勝した。
維新はこの10年、国政、地方を問わず、ずっと都構想の実現を訴え続けてきた。したがってこの9年間続けてきた「バーチャル大阪都」をリアルな制度にするための挑戦を続けるのは忠実な民意の反映といえるだろう。
(5)依然、残る二重行政の弊害
一方で「バーチャル大阪都」の限界も見えてきた。例えば大阪全体の事を考えると、水道も消防も東京のように府に一本化して広域でスケールメリットを追求した方がいい。しかし大阪市議会は「周辺市町村のことには関知しない。自分たちは現状で困っていない」と主張する。周辺市が困窮して大阪全体が衰退すれば大阪市も結局は困るのだが、制度上、確かに大阪市は大阪市の市域外のことには口出しできない。
いくらトップ二人が足並みをそろえても、大阪市と大阪府はあくまで別の自治体である。仮に大阪市議会で大阪維新の会が過半数を得たとしても、大阪市が権限を超えて、あるいは放棄して大阪全体の利益を最大化し、そのことで大阪市も繁栄するという広域戦略は描けない。
東京の場合は、都庁に都市計画などの広域行政の権限を集約し、東京全体の都市戦略を描き、そのもとで23特別区が住民サービスを担当する。それに比べるとまさに重複や無駄が多く、全体としてはいかにも不合理だ。加えて市街地やオフィス街は今や大阪市域を超えて周辺に広がっている。ここで府と市の権限の整理をきっちりやらなければ、大阪の経済再生も住民サービスの充実も難しい。こうした権限の整理は、やはり自治体の制度の見直しを経てやっと実現する。
(6)一度否決されたのになぜ?
都構想反対派がよく言うのは、「5年前に反対という民意が下された。再挑戦は不要」というものだ。しかし上述のように今回の大阪4区案は、前回とは異なる進化版だ。公明党も参加して見直しがなされ、府議会と市議会で再び可決された。また大阪維新の会は都構想への再挑戦を掲げ、15年秋以降の首長選、議員選挙、さらに国政選挙でも勝ち続けてきている。こうした事実を前に大阪維新の会が2度目の住民投票をするのは当然と言えるし、再び民意を問うというのは政治家としての誠実な態度と言えるのではないか。
以上述べてきたとおり、都構想への挑戦は突然の出来事ではないし、過去の案の蒸し返しでもない。10年かけて実績を積み上げてきた大阪の維新改革の流れから、いわば必然的に出てくる事象である。その意味では、11月1日は二度目の挑戦というよりも、10年目の総決算というべきだろう。だからこの結果次第で、ついに大阪の未来は決まる。これまでの改革を続けるか、それを消して過去の姿に戻るか、市民の決断が問われている。