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「攻めの廃線」でバスが倍増され便利になったは本当か? 2015年は今のバスと同等の本数だった夕張支線

鉄道乗蔵鉄道ライター
運行最終日の石勝線夕張支線清水沢駅(筆者撮影)

 北海道中央バスは、2024年9月末をもって夕張市のレースイリゾートと札幌駅前を結ぶ高速ゆうばり号を廃止する意向であることが明らかとなった。廃止理由は慢性的なドライバー不足に加えて運行経費の高騰などから路線維持が困難になったことだ。これにより夕張と札幌を直接結ぶバス路線がついに消滅する。

 この問題の本質は、石炭産業の消滅した夕張で最後の砦となっていた観光産業を崩壊させた失策だったことは、2024年5月18日付記事(高速ゆうばり号の廃止は何が問題の本質か? 「国際的リゾートにする」としたホテル倒産し再開見通し立たず)で触れているが、「攻めの廃線」で便利になったはずの夕張市内のバス路線ネットワークについても崩壊が進んでいることは問題だ。

 昨年の2023年9月末をもって夕鉄バスが運行する夕張市内と新さっぽろ駅を結ぶ路線バスが廃止され、「攻めの廃線」によって便利になったはずの夕張市内のバスネットワークは縮小の一途をたどっている。

 当初は「攻めの廃線」により持続可能な交通体系を再構築するとされたが、このままでは現在10往復が維持されている夕張市内の路線バスについてもいずれ存廃問題に発展しかねない。

結果として不便になっただけの「攻めの廃線」

 「攻めの廃線」によって、夕張市は持続可能な交通体系を維持するための費用としてJR北海道に7億5千万円を拠出させ、夕張市内線のバスの増便を行ったとした。鉄道廃止後は、それまでの新夕張―夕張間の5往復から、10往復のバスが増便され市内の停留所も増え便利になったとされた。確かに、石勝線夕張支線の廃止直前の本数だけを比較すると、「バスの本数を倍増させた」として成果を喧伝できる。

 しかし、「攻めの廃線」の方針を発表する前年の2015年には新夕張―夕張間には9往復の普通列車が設定されており、この部分を見比べると結果として、「攻めの廃線」は、所要時間、運賃ともに鉄道のおよそ2倍となるバスの便数を1便だけ増やしただけの成果である。

 夕張市の市街地は南北に細長く、石勝線新夕張駅のある紅葉山地区から、夕張市役所や旧夕張駅のある夕張地区までは、およそ16km離れている。新夕張―夕張間を結んでいた石勝線夕張支線の「攻めの廃線」前は、同区間の所要時間は27分で運賃は360円だった。これが、バスに転換され所要時間は約50分に延び運賃は760円となった。

 鉄道代替バスは、「鉄道時代より便利になった」と喧伝されたが、実際には所要時間、運賃ともにおよそ2倍となったことから利用者は減少傾向が続き、外部から夕張への訪問者も減ってしまった。

廃止後の清水沢駅(筆者撮影)
廃止後の清水沢駅(筆者撮影)

2015年版の運転免許統計では大型2種免許保有者の77.3%が50代以上となっていた

 なお、「攻めの廃線」を発表した2016年に警察庁が公開した2015年版の運転免許統計によると、すでに路線バスを運転できる大型2種免許の保有者は、77.3%が50代以上となっており、30代が5.7%、20代以下が1.0%となっていた。石勝線夕張支線のバス転換については、地元バス会社との協議の中で、こうしたドライバーの高齢化問題について分からなかったというのであろうか。

 現在、夕張市内の路線バスは、夕鉄バスが10往復の運行を維持しているが、ドライバー不足などから、まずは夕張市内と新さっぽろ駅を結ぶ路線バスが維持できなくなり2023年9月末をもって廃止に。ドライバーの残業規制が強化された2024年度からは10往復が維持されている新夕張駅と旧夕張駅方面を結ぶ路線バスの始発便と最終便の時刻の繰り上げと繰り下げが行われ、どうにか維持が図られている状態だ。

 最新の2023年版運転免許統計では、大型2種免許の保有者の84.2%が50代以上とさらに高齢化が深刻化しており、そのうち30代が3.4%、20代以下はわずか0.8%だった。

夕張市内の路線バス(筆者撮影)
夕張市内の路線バス(筆者撮影)

鉄道の自動運転化を考えたほうが現実的だった!?

 国土交通省では、2018年より「鉄道における自動運転技術検討会」を定期的に開き、昨年2022年9月に地方鉄道への自動運転の導入も想定した「鉄道における自動運転技術検討会のとりまとめ」という資料で今後の指針を発表したことは、ほとんど知られていない。

 地方鉄道での自動運転は、踏切などへの対応から国家資格を持たない前方監視員の乗務を想定しているが、この前方監視員乗務による自動運転についてはすでに JR九州の香椎線で実用化している。夕張についても、鉄道の自動運転化を視野に入れながら、石勝線夕張支線の活用を図ったほうが地域交通の持続可能性を担保し、かつ観光振興による地域活性化の双方を同時に達成できたのではないだろうか。

 「攻めの廃線」後、2020年に約10.6億円の費用を投じて建設された交通結節点「りすた」は、2023年9月末をもって「りすた」を起点としていた札幌方面への夕鉄バスの路線バスが廃止されていることから、すでに交通結節点機能を喪失している。

福島県の只見線は維持管理費上回る経済効果生む観光路線に

 2022年10月に豪雨被害から11年ぶりに復旧した福島県の只見線については、福島県は上下分離を図った会津川口ー只見間について、この区間の1日の輸送密度は79人で年間の維持管理費が5.5億円に対して、鉄道の観光政策に取り組んだ結果の経済効果は6.1億円と発表。鉄道の維持管理費を上回るとした。

 ちなみに、石勝線夕張支線の「攻めの廃線」を決めた2016年の前年の同路線の輸送密度は119人で年間の維持管理費は1.6億円だった。さらに夕張は新千歳空港からも1時間圏内の好立地で、福島県の只見線よりも活性化の環境に恵まれていたのにもかかわらず、そうしたポテンシャルを自ら潰してしまった。

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。

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