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高速ゆうばり号の廃止は何が問題の本質か? 「国際的リゾートにする」としたホテル倒産し再開見通し立たず

鉄道乗蔵鉄道ライター
高速ゆうばり号は閉鎖が続くホテルマウントレースイ前に発着する(筆者撮影)

 北海道中央バスは、2024年9月末をもって夕張市のレースイリゾートと札幌駅前を結ぶ高速ゆうばり号を廃止する意向であることが明らかとなった。廃止理由は慢性的なドライバー不足に加えて運行経費の高騰などから路線維持が困難になったことだ。これにより夕張と札幌を直接結ぶバス路線がついに消滅する。

 高速ゆうばり号の廃止については、「そもそも利用者がいないので廃止されてしかるべき」との声もあるが、果たしてそれがこの問題の本質であろうか。

 そもそも、2019年のJR石勝線夕張支線の「攻めの廃線」によって充実したはずの夕張市内のバスネットワークは縮小を続けている。2023年9月末限りで夕鉄バスが運行する夕張市内と新さっぽろ駅を結ぶ路線バスが全廃されている。

 さらに、100億円規模の投資を呼び込み国際的なリゾートエリアにすると豪語された旧夕張駅前のホテルマウントレースイなどの運営会社は倒産。現在は再開の見通しがたたないまま放置され、観光振興とは程遠い状態に置かれてしまったことがそもそもの問題の本質ではないのだろうか。

閉鎖が続くホテルマウントレースイ

 高速ゆうばり号の廃止は、「利用者の減少を理由としたバス会社側の経営判断であるから責められるべきものはない」という声を筆者のもとに寄せられた。事業者の立場に立てば、これはその通りの話だ。高速ゆうばり号は、旧夕張駅前にあるレースイリゾートバス停に発着している。しかし、このレースイリゾートの中核施設であったホテルマウントレースイは、もともと夕張市が所有していた施設だったことから、夕張市は政策的にこれらの施設を活性化させることで観光需要を創出していれば、高速ゆうばり号の廃止という事態にはならなかったであろう。

 当時の鈴木直道市長は、JR石勝線夕張支線の「攻めの廃線」をJR北海道に対して提案した翌年の2017年、ホテルマウントレースイを含む夕張市が所有する観光4施設を破格の2億4千万円で中国系資本の企業に売却した。この背景には、従業員の継続的な雇用に加え、長年にわたって施設の運営と地域活性化を行うという同社社長と鈴木市長との口約束があったことが当時の市議会議事録における鈴木市長の発言で明らかになっている。

 さらに、同社社長と鈴木市長の記者会見も実施され「100億円規模の当時を行い、中国人を始めとした大勢のインバウンド客を夕張に呼び込む構想」があるということも報道された。

 しかし、こうした構想は実現することはなく、「攻めの廃線」が実施された2019年4月、これらの観光4施設は約15億円で香港系ファンドに転売され、その後、これらの施設の運営会社が倒産。現在でも、旧夕張駅前にあるホテルマウントレースイは再開の見通しが立たないまま閉鎖が続いている。

「稼ぐ市政」が実現できていればここまでは衰退しない

 当時の夕張市長を務めていた鈴木直道氏は、2019年、夕張市を立て直したという実績と「稼ぐ道政」を公約に掲げ北海道知事に初当選するが、当時の夕張市で「稼ぐ市政」を本当に実現できていれば、夕張市のバス路線網の崩壊が問題となることもなかったであろう。

 この問題の本質は、「攻めの廃線」によって充実したはずの夕張市内のバスネットワークが壊滅状態に加え、当初は100億円規模の投資を呼び込み国際的なリゾートエリアにすると豪語された旧夕張駅前のホテルなどは事実上の廃墟と化してしまい、石炭産業が消滅した夕張の最後の砦だった観光産業が崩壊してしまった点にある。

 最近ではさまざまなYouTuberが夕張市を訪れゴーストタウン化した夕張市の現状を配信しており、飲食店などの閉店も相次いでおり人口流出が止まらない状況となっている。夕張を再生させたというのであれば、夕張市の交流人口が増え地域経済も活性化し交通ネットワークの維持ができていなければおかしな話である。

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。ステッカーやTシャツなど鉄道乗蔵グッズを作りました。

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