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なぜカネロは敗れたのか? 世紀の番狂わせを元世界王者&DAZN解説者が分析

杉浦大介スポーツライター
Photo Ed Mulholland/Matchroom

5月7日 ラスベガス  Tモバイルアリーナ

WBA世界ライトヘビー級タイトル戦

王者

ドミトリー・ビボル(ロシア/31歳/20-0, 11KOs)

12回判定(115-113x3)

スーパーミドル級4団体統一王者

サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ/31歳/57-2-2, 39KOs)

 パウンド・フォー・パウンド最強王者が落城ーーー。ラスベガスのT-モバイルアリーナに大観衆を集めて行われたチャンピオン同士の対戦は、サイズ、スキルを有効に生かして戦った王者ビボルが文句のない判定勝利を飾った。カネロは2013年のフロイド・メイウェザー(アメリカ)戦以来の2敗目を喫し、現役最強ランキングのトップからも陥落は確実だ。

 試合後、DAZNのコメンテイターとして今戦を解説した元WBC世界スーパーウェルター級王者セルジオ・モーラ(アメリカ)に、この試合を分析してもらった。カネロ敗北という番狂わせはなぜ可能になったのか。

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聡明さとパワーの融合

 まずは3人のジャッジが適切な方を勝者に選んだことを嬉しく思っています。ビボルは絶品のパフォーマンスで、カネロをどうやって崩せばいいかを実践してくれました。前戦でカネロと戦ったケイレブ・プラント(アメリカ)のようにただジャブを突き、距離をとってアウトボクシングするだけでは満足しなかった。必要に応じて力を込めてパンチを出したことが大きな意味を持ちました。

 振り返ってみれば、カネロと対した際にはダニエル・ジェイコブス(アメリカ)、ビリー・ジョー・サンダース(イギリス)にもそれができませんでした。ビボルはその点、非常に賢明なアウトボクシングを続け、ディフェンスに気を配りつつ、時に相手をロープに詰め、効果的にハードパンチで攻めることができたのです。

 ビボルはそれができる選手であることは、本来は私たちはわかっているはずでした。アメリカでの台頭期のビボルは連続KOを続け、“ネクスト・ゴロフキン”などと呼ばれたもの。その後、6連続判定勝利で評価を下げてしまいましたが、今回、大舞台でついに聡明さとパワーを融合させた見事な戦いを見せてくれたのです。

 カネロは再戦すべきか、それとも

 私がカネロに与えたラウンドは2ラウンドだけで、118―110という大差でビボルの勝利だと見ました。同じくDAZNの放送席に座ったジェシカ・マキャスキル(アメリカ)は117-111、ショーン・ポーター(アメリカ)は116-112といずれもビボルを支持しています。3人の現&元世界チャンピオンが揃って大差でビボルの勝ちにしたのだから、もう文句なしでしょう。

 ビボルは本当に素晴らしかったですが、一方でカネロの方は切迫感がなかったように感じました。自信過剰で気が緩んでいるように見えましたし、プラントやセルゲイ・コバレフ(ロシア)との試合のように終盤にKOできると考えていたんじゃないでしょうか。その油断もまた相手にわたった流れを取り戻す手段を見つけらなかった一因でしょう。

 カネロの今後に触れておくと、ビボルとの再戦か、スーパーミドル級に戻ってデビッド・ベナビデス(アメリカ)を始めとする強豪と戦うかを選ぶことになるのでしょう。やはりカネロはライトヘビー級で戦うには小さすぎると思います。いい感じで筋肉をつけてきましたが、それでもパワーでビボルを脅かすことができなかったことも、この試合が難しくなった理由の1つでした。

 とはいえ、もしも私がカネロのマネージャーだったら、ビボルとの即座のリマッチを勧めると思います。カネロは適応能力に秀でたボクサー。ビボルを相手に顔面を狙うのではなく、再戦では相手の腕、肩を狙ってパンチを出し、当てればポイントは奪えるんじゃないかと思います。今日の試合後も、ビボルは「腕はかなり痛めつけられた」とも話していました。だとすれば、カネロが戦い方を変えれば、付け入る隙はまだあるんじゃないかと考えています。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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