振り飛車復活へ!タイトル挑戦を決めた久保九段も信頼を寄せる「令和の振り飛車」
3日、第68期王座戦挑戦者決定戦が行われ、久保利明九段(44)が渡辺明二冠(36)に勝って挑戦権を獲得した。
永瀬拓矢(27)王座との五番勝負は9月3日に神奈川県秦野市「元湯 陣屋」で開幕する。
タイトル戦での振り飛車
振り飛車がタイトル戦に帰ってくる。
2019年に行われた第68王将戦七番勝負以来、実に1年半以上ぶりだ。
その時は久保王将(当時)に渡辺現二冠が挑戦し、4勝0敗という一方的なスコアで渡辺二冠が奪取に成功した。
今回の挑戦権決定戦における久保九段の勝利は、この時のリベンジを果たしたと言えよう。
その当時、筆者は下記のような記事を書いた。
【将棋】振り飛車は冬の時代へ。復活のカギは「藤井システム」か?
本局の久保九段は「令和の振り飛車」で渡辺二冠を沈めた。
振り飛車党のファンにとっては歓喜の瞬間だ。
令和時代の振り飛車は、どこが新感覚なのか?
ポイントは3点ある。
1.端歩のタイミング
一つ目は、飛車側の端歩をきわめて早いタイミングで突くことにある。
(このあとは、後手を振り飛車として解説を進める)
第1図のように、早いタイミングで飛車側の端歩を打診するのが骨子となる。
態度を保留し、相手の指し方によって作戦を決めるのだ。
思想としては「藤井システム」に近いものがある。
昨日は渡辺二冠が端を挨拶しなかったので、久保九段は端を突き越して戦った。
居飛車からすると、場合によっては相手は居飛車でくるかもしれず、どう対処するか難しいところだ。
2.スペシャリストからゼネラリストへ
2つ目は、第2図のように飛車を振る場所を保留して作戦の幅を広げることにある。
端を突き越した久保九段は四間飛車に振った。
もし相手が端を受けてくれば、三間飛車だったかもしれない。
その辺りの作戦は本人のみ知るところだが、居飛車からするとどこに振ってくるかわからないのはやりづらい。
一方、「令和の振り飛車」は相手の指し方で飛車の振る位置を決めるため、どこかの筋にしか振れないスペシャリストでは指しこなせない。
振り飛車党も、どこの筋の振り飛車でも指しこなすゼネラリストになる必要があるのだ。
3.美濃囲いを放棄
これが一番大きな要因であり、令和時代を象徴する要因である。
振り飛車=美濃囲い、という時代はもう終わったかもしれない。
「令和の振り飛車」は玉を8二まで持っていかずに、7二で留めることが多い。
これは居飛車が穴熊や銀冠のように玉をしっかり囲った際に、振り飛車が玉頭から攻め込むためだ。
昨日は渡辺二冠が玉側の端から仕掛けて、久保九段は玉頭から反撃した。
その際、久保九段の玉が7二にいることで渡辺二冠の攻めが一歩遠くなり、中盤を優位に進める要因となった。
これは「令和の振り飛車」の長所がモロに生きる展開だった。
終盤は渡辺二冠にもチャンスがあったようだが、結果的に序中盤でのリードが大きく久保九段が振り切った。
注目の五番勝負
筆者は6月に「振り飛車の未来」についてのオンラインイベントを行った。
その際、今までにない振り飛車が台頭すると解説したのだった。
しかし、まさかこんなに早く時代が来るとは思わなかった。
何故かといえば、「令和の振り飛車」とは聞こえはいいが、実際に指しこなすのは大変だからだ。
筆者も解説はしながらも、自らの実戦で指したことはない。
しかし久保九段は短期間で「令和の振り飛車」を取り入れて信頼を寄せ、渡辺二冠を撃破するまで磨き上げた。
それこそが、真の強者たる所以と言えよう。
永瀬王座との五番勝負は9月に開幕する。
久保九段は信頼を寄せる「令和の振り飛車」で戦うことだろう。
8月は佳境に入った竜王戦決勝トーナメントも同時並行で行われる。
久保九段は準決勝にコマを進めており、ダブル挑戦の可能性もある。
今後の久保九段、そして「令和の振り飛車」から目が離せない。