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イスラーム過激派の食卓(動員力を誇る「シャバーブ運動」)

髙岡豊中東の専門家(こぶた総合研究所代表)
(写真:ロイター/アフロ)

 長年紛争と混乱が続くソマリアでは、「シャバーブ運動」と呼ばれるイスラーム過激派団体が活動している。同派は、アル=カーイダのフランチャイズの一つであり、ソマリアに止まらずケニアなどの隣接国で時折西側諸国の権益を攻撃することがあり、その活動は国際的な反響はさておき昨今すっかり衰退したアル=カーイダの仲間たちの中では活発な方である。また、「イスラーム国 ソマリア州」と称してソマリアのイスラーム過激派の取り込みや切り崩しを図った「イスラーム国」が広範な領域の占拠や大規模な人民の動員を達成できていないのに対し、「シャバーブ運動」は傘下の通信社を通じ住民の大規模集会や自派の慈善事業について発信を続けている。

 その「シャバーブ運動」は、2021年5月半ばに1時間を超える長さの広報動画を発表した。その内容は指導者の演説、構成員へのインタビュー、戦闘や訓練の模様などに、アル=カーイダの著名活動家の演説の音声を重ねた「昔ながら」の作りで、それ自体は珍しいわけでも強いメッセージ性があるわけではない。しかし、よく見ると、当該の動画は「シャバーブ運動」の現在の力量の一端を示すものとして興味深い情報をいくつも含んでいた。写真1は、動画に「出演」した複数の西洋諸国出身者の一人が英語で自分の活動の意義や喜びを語る場面である。イスラーム過激派に欧米諸国の出身者(しかも成人後にイスラームに改宗した者)が加わることは、諸派の活動や勧誘の面や、欧米向けの扇動・広報の面で長らく問題視されているが、この場面は現在も「シャバーブ運動」による勧誘活動と同派に合流する者が後を絶たないことを示す材料として看過できない。

写真1:2021年5月14日付「シャバーブ」
写真1:2021年5月14日付「シャバーブ」

 写真2と写真3は、「シャバーブ運動」の大規模な拠点か、戦闘員を多数集めた会合での食事の支度の場面である。焚火による素朴な調理方法ではあるが、調理している料理・食材の量は、今期のラマダーンで各地の「イスラーム国」が発信した同種の画像に比べて随分多いように見える。これは、「シャバーブ運動」が一度に大勢の戦闘員に食事を提供する能力があることを示している。調理や食事の場面は複数個所・複数の集団によるものが映し出されており、同派が擁する拠点や構成員数の規模がそれなりに大きいことを示唆している。

写真2:2021年5月14日付「シャバーブ」
写真2:2021年5月14日付「シャバーブ」

写真3:2021年5月14日付「シャバーブ」
写真3:2021年5月14日付「シャバーブ」

 実際の食事の風景も、写真4のような食卓が複数並んでいるようであり、「シャバーブ運動」がソマリアの僻地に少人数で潜伏して細々と調理や食事をしているわけではないことがわかる。さらに興味深いのは写真5(赤の円は筆者による)で、ここでは食事(なりおやつ)に際し、多数の戦闘員にコカ・コーラと思しきペットボトル入り飲料が配布されている。「シャバーブ運動」自身が拠点の中でコカ・コーラを製造してボトルに詰める能力があるとは考えにくいので、同派は何処かの集落や業者からそれを調達していると思われる。

写真4:2021年5月14日付「シャバーブ」
写真4:2021年5月14日付「シャバーブ」

写真5:2021年5月14日付「シャバーブ」
写真5:2021年5月14日付「シャバーブ」

 どのような分野で活動する団体にとっても、調理や食事のための施設や食材を調達する機能を整備し、それを維持することはかなりの資源を投じなくては不可能なことである。特に、同一の製品を一度に大量に調達し、それを保管した上で構成員らに配布するような行為は、略奪や恐喝による調達を通じて維持することは極めて難しいと思われる。上記の通り、今般の作品は1時間を超える大作であり、今やイスラーム過激派のファンたちに、そのような大作を視聴する根気・時間と、大作が意図するところを理解する知性があることは甚だ疑わしい。そのため、「シャバーブ運動」の広報が広く理解され反響を呼ぶとは思われない。とはいえ、この作品は現在の「シャバーブ運動」の兵站能力の一端を示すものであり、それを見る限り同派が「イスラーム国」と比べてはるかに大規模な活動をしていることは明白なのである。

中東の専門家(こぶた総合研究所代表)

新潟県出身。早稲田大学教育学部 卒(1998年)、上智大学で博士号(地域研究)取得(2011年)。著書に『現代シリアの部族と政治・社会 : ユーフラテス河沿岸地域・ジャジーラ地域の部族の政治・社会的役割分析』三元社、『「イスラーム国」がわかる45のキーワード』明石書店、『「テロとの戦い」との闘い あるいはイスラーム過激派の変貌』東京外国語大学出版会、『シリア紛争と民兵』晃洋書房など。

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