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2015年バレンタイン商戦のまとめと、いささかの寂しさ

東龍グルメジャーナリスト

2015年の特徴

「そのバレンタインデーは誰のもの」ではバレンタインデーの調査結果について調べ、「バレンタインに媚薬を」では新しいバレンタインディナーについて紹介しました。

どちらともバレンタインデーについて書きましたが、バレンタイン商戦についてはまだまとめていなかったので、ここで整理してみます。今年2015年におけるバレンタイン商戦は、以下3つの特徴があると言えるでしょう。

  • Bean to Bar
  • 高額化
  • 選択肢の広がり

Bean to Bar

Bean to Barは「そのバレンタインデーは誰のもの」でショコラコーディネーター市川歩美氏(公式サイト「Chocolat Lover's Net」)が紹介しているように、カカオ豆にこだわり、焙煎する段階から製造に至るまで、全てを手がける本格的な板チョコレートです。

競争が激化していくバレンタイン商戦において、他のチョコレートよりもこだわりを感じられるBean to Barが広がりをみせていくことは想像に難くありません。「サロン・デュ・ショコラ日本公式サイト」でもBean to Barのページが作られているように、注目度は高いです。

まず日本初の本格的なBean to Bar アルチザンパレドオールが2014年11月にオープンして話題となりました。その他に注目のBean to Barブランドをあげると以下の通り。

  • Emily's Chocolate(奥沢)2011年2月オープン
  • XOCOL(深沢)2013年10月オープン
  • Chocolate Naive(神宮前)2013年11月初上陸(オープンではない)
  • minimal(富ヶ谷)2014年12月オープン
  • VANILLA BEANS(みなとみらい)2014年1月オープン

専門店がオープンしているだけではなく、既存のチョコレートショップやパティスリーが関心を持っていることもポイントです。

また多くのブランドが、カカオ豆の焙煎から板チョコになるまでを一貫して手掛ける“Bean to Bar”に注目。フランス最古のチョコレートメーカー「ショコラ カズナーヴ」やベトナム発の「マルゥ」、エクアドルの自社農園で育てたカカオを使用した「トシ・ヨロイヅカ」など、国内外問わず多くのブランドがタブレットチョコレートを提案した。

出典:FASION PRESS

大手メーカーばかりが脚光を浴びていたシャンパーニュで、ブドウの栽培から醸造、販売に至るまで行うレコルタン・マニピュラン(RM)が注目され、人気が出てきている状況と似ています。

シャンパーニュの場合でもチョコレートの場合でも、共通するのは「全てを手掛ける」ゆえに「少量」であることで、それによって差別化を図ることができ、希少価値が高められているのです。

高額化

チョコレートが高級化していること、それと関連して、予算が高額化していることも特徴的です。毎年恒例となっているプランタン銀座の調査からも、バレンタインデーに費やす予算は<本命用><義理用><自分用>が昨年よりも増えており、<自分用>に関しては過去最高の予算となっています。マクロミルの調査でも、今年は予算が高くなっているという結果がでているのです。

背景には、新興国の需要増によるカカオ豆の高騰、昨年末からの円安に加えて、バレンタインデー限定で販売する海外のチョコレートショップの増加と限定商品の増加が挙げられるでしょう。サロン・デュ・ショコラが今年からNSビルで開催されるようになり、昨年以上に盛り上がりをみせたことで購買意欲を刺激したり、手間と時間がかかるために高価となりがちなBean to Barが広がっていることも、予算を高額化させている一因になっています。

バレンタインデーの2月14日が土曜日ということで、<義理用>を渡す機会が減り、バレンタインデー当日に<本命用>を渡せる機会は増えるために、<本命用>の予算が高くなることも想像されます。平日に比べると食べる時間もあるので、例年以上に<自分用>を購入することも考えられるでしょう。

選択肢の広がり

通常のバレンタインデーで贈られるオーソドックスなチョコレート(板チョコレートやトリュフなど)以外のスイーツが注目されています。例えば、老舗である「資生堂パーラー」「タカノフルーツパーラー」の限定バレンタインパフェ、食べログでも評価最上位の「ケンズカフェ東京」の特撰ガトーショコラ、名門帝国ホテル 東京「ガルガンチュワ」のグラン クラシック ショコラ、バウムクーヘンで有名な「クラブハリエ」のショコラバーム、<ニューヨークの朝食の女王>という称号を与えられている「サラベス」のチョコレート エクスプロージョンなどが、バレンタインの商品としてメディアでもよく紹介されているのです。

和菓子でも同様の傾向があり、「舟和」の「芋ようかん」、「おたべ」の「チョコ八ッ橋」や「ショコラのおたべ」、「菊乃井」の「発芽玄米柚子チョコカステラ」、「鶴屋吉信」の「鶴屋吉信ようかん バレンタイン」など、枚挙に暇がありません。

こういった店や商品は、バレンタインデーと関係なく、もとから知名度が高く、人気があるものばかりです。それがバレンタインデーでもさらに脚光を浴びるということは、バレンタインデーにおける選択肢が広がっていることに他ならないでしょう。

また、パフェやパンケーキなどは店で食べることが一般的で、相手に贈るという感じではないだけに、こういったものは<自分用>として関心を持たれていると考えられます。

去る2月3日の節分に向けては、恵方巻がよく取り上げられていましたが、今では純粋な太巻だけではなく、ロールケーキ、ワッフル、トルティーヤなど様々な商品が恵方巻として販売されています。市場が大きくなるにつれて他の業態が進出してきた結果ですが、これと同じように、バレンタインデーでも市場が大きくなるにつれて、他の商品が増えてきているのです。

2016年も

以上を鑑みると、流行のBean to Barやバレンタインだけの限定商品や普段は買わないような高額なものは<本命用>や<自分用>に、テイクアウトできないものは<自分用>に購入されているとみてよいでしょう。オーソドックスなチョコレート以外については、少し変化球を投げられるような付き合いが長い<本命用>に購入されると思われます。<義理用>に関しては、バレンタインデーが土曜日であることを考えると、全く購入されることがなく、月曜日になってから空気を読んでコンビニで慌てて購入することが多いかも知れません。

バレンタイン商戦に活気があることはとても喜ばしいことですが、西洋から独自の進化を遂げて「女性から男性への告白」という実に明快なストーリーと共に発展してきた日本のバレンタインデーが、<自分用>や<オーソドックスなチョコレート以外の商品>で盛り上がることはいささか寂しい気もしています。

それだけに、来年はせめて<自分用>よりも<本命用>の予算が高くなればと思っているのですが、2016年2月14日のバレンタインデーは日曜日であることを考えると、今年と同じ傾向なのかなと思って、またいささか寂しい気がしてしまいます。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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