そのバレンタインデーは誰のもの
自分用が流行?
バレンタインデーに関する記事が増えていますが、今年はチョコレートを<自分用>に購入することが流行しているとされています。
プランタン銀座の調査では、<本命用>の予算は昨年3173円、今年3300円と1割も増えていませんが、<自分用>の予算は昨年3183円、今年3954円と2割以上も増えています。
マクロミルの調査や大丸東京のアンケートでも、<自分用>の方が<本命用>よりも予算をかけているということから、バレンタインデーは自分のためにチョコレートを買っているという結論になっているのです。
読売新聞「大手小町」に配信されているプランタン銀座の記事では、<自分用>が過去最高予算という切り口から、チョコレートを紹介しています。
記事内で紹介されている「ロートンヌ」や「アステリスク」や「トシ ヨロイヅカ」などのパティスリーはどこもおいしいので、推薦されていることには納得できますが、<自分用>の予算が増えているのは何故でしょうか。
答えを探してみることにしました。
日本にあるチョコレートショップ
チョコレートのことを考えるので、まずはチョコレートショップについて整理してみます。日本にどういうチョコレートショップがあるかを挙げてみると、以下の通りです。
- アンリ・ルルー(フランス)
- カカオ サンパカ(スペイン)
- ゴディバ(ベルギー)
- コンパーテスショコラティエ(アメリカ)
- ジャン=ポール・エヴァン(フランス)
- ジャン=ミッシェル・モルトロー(フランス)
- ショコラティエ エリカ(日本)
- デカダンス デュ ショコラ(日本)
- テオブロマ(日本)
- デルレイ(ベルギー)
- ノイハウス(ベルギー)
- パレ ド オール(日本)
- ピエール・マルコリーニ(ベルギー)
- ファブリス・ジロット(フランス)
- ブルガリ イル・チョコラート(イタリア、日本のみの展開)
- マックスブレナー(アメリカ)
- モンロワール(日本)
- ラ・メゾン・デュ・ショコラ(フランス)
- ル ショコラ ドゥ アッシュ(日本)
- レオニダス(ベルギー)
- レダラッハ(スイス)
- リンツ(スイス)
世界中から様々な有名チョコレートショップが集まっており、どれも質が高いので、<自分用>にチョコレートを購入したいと思うことは何ら不思議ではありません。
しかし、ほとんどのチョコレートショップは何年も前にオープンしており、ここ最近になってオープンしたわけではないので、チョコレートショップの牽引によって、<自分用>が盛り上がっているわけではなさそうです。
2015年のバレンタインデーは土曜日
他の記事を探してみたところ、産経新聞の記事では以下のように書かれていました。
確かに、バレンタインデーが土曜日なので<義理用>の予算が減り、その分だけ<本命用>や<自分用>の予算が増えるというのは理解できることでしょう。
しかし、土曜日であれば<本命用>チョコレートをその本命の人に渡せる機会が多くなるだけに、<本命用>も<自分用>と同じくらい伸びてもよいような気がして、物足りなさを感じます。
バレンタインと自分用の相関関係
バレンタインと<自分用>の相関関係を調べれば何かヒントが得られないかと思い、Googleトレンドで調べてみることにしました。
「バレンタイン 自分用」の結果は以下の通りです。
このグラフを見る限りではバレンタインとセットになっている感じはありません。
今度はYahoo!リアルタイム検索で調べてみることにします。
「バレンタイン」だけで調べてみた結果は以下の通り。
ビッグキーワードであるだけに、さすがによくつぶやかれています。
少し期待感をもって「バレンタイン 自分用」と調べてみます。
ところがやはり、それほどつぶやかれてはいないようです。ただ、感情の割合に関しては、「バレンタイン 自分用」は「バレンタイン」よりも状況がよいようで、<自分用>に関して気持ちよくつぶやかれていることが分かります。
プランタン銀座の調査
ネットからはあまりヒントが得られなかったので、初心に立ち返り、今記事のきっかけとなったプランタン銀座の調査をつぶさに見ていくことにします。
「Q21 あなたにとってバレンタインはどんな日ですか?」
「彼やパートナーに愛情や感情を伝える日」が52%で1位となっていることに対し、「自分でチョコレートを楽しむ日」が25%で全体の4位となっています。
「Q22 一番大切なチョコは何ですか?」
「本命チョコ」が51%で1位となっていることに対し、「自分チョコ」が31%で2位となっています。
上記2つを合わせてみると、「彼やパートナーに愛情や感情を伝える日」なので「本命チョコ」が一番大切であるはずなのに、<本命用>は<自分用>よりも予算が少ないという、何だかやるせない気持ちになります。
カカオの価格が高騰
少しめげてきたところで、チョコレートはグルメの中でも専門的な分野であることに考えが至ります。
そこで、All Aboutチョコレートガイドを務め、テレビや雑誌で活躍するショコラコーディネーター市川歩美氏(公式サイト「Chocolat Lover's Net」)に状況を訊いてみると、「サロン・デュ・ショコラで海外トップの売上を誇るチョコレートショップでは、為替の影響とカカオ豆の価格の高騰を受けて、今年は昨年よりも値上げしている」と答えます。
日本のチョコレートショップについて尋ねると「日本のチョコレートショップではまだ値上げの話を聞いていない」としながらも、「チョコレートそのものの価格の高騰に加え、ボンボンショコラに使われるバターも値上がりしているので、これから値上げするところも増えてくる可能性がある」と説明します。
確かに、チョコレートの原料となるカカオ豆の国際的な価格は2013年から高騰しており、2014年あたりから国内におけるチョコレートの価格も上がっています。
カカオ豆の価格が上がっている上に、昨年から円安も進行したために、チョコレートの価格を維持することが難しくなり、2014年7月から明治、森永製菓、ロッテがチョコレート菓子の価格を上げたり、分量を減らしたりしているので、チョコレートショップも関係ないはずはありません。
Bean to Barがブーム
<自分用>について訊くと、市川氏は「バレンタインデーの時期にだけ日本で販売する海外のチョコレートショップや、バレンタインデー限定チョコレートが年々増えている」と明快に答えます。日本にあるチョコレートショップが増えているかどうかは考察しましたが、バレンタインデーの時期にだけ日本で販売する海外のチョコレートショップが増えているかどうかを考察していなかったのは、落ち度でした。
市川氏は続けて「相手に贈る前に自分で試してみる『リサーチチョコ』が広まっていることも、自分用が増えている要因。また、カカオ豆を選び、焙煎する段階から全てを手がける本格的な板チョコレート『Bean to Bar』(ビーン トゥ バー)も今年ブームとなっている」と話します。
確かに、市川氏が命名したリサーチチョコの広まりとBean to Barのブームは、<自分用>が今年大躍進する理由となりそうです。
プランタン銀座の調査、再び
思考が前進したところで、気を取り直してプランタン銀座の調査に戻ることにします。
「Q4 本命チョコ選びのポイントは?」
「美味しい」が81%で1位、「相手の好みに合う」が43%で2位となっています。チョコレートを試食して確かめるのも悪くありませんが、<本命用>であることを考えると、購入してしっかりと食べてみる可能性が高いでしょう。
「Q20 自分チョコ選びのポイントは?」
「限定品」が28%で3位となっていますが、限定品というのは概して値段が高いことが多いです。また、この「限定品」は<本命用>ではランクインしていないので、<自分用>特有のものであると言ってよいでしょう。
上記2つを合わせてみると、<本命用>に「相手の好みに合う」「美味しい」チョコレートを選びたいので味見するためにチョコレートを購入し、さらには、<自分用>として値段が高い<限定品>チョコレートも購入するので、<自分用>の予算が高くなっていると考えられます。
自分用チョコレートの今後
<自分用>チョコレートの予算が過去最高となったことが気になったので調べ始め、色々と回り道をしましたが、ある程度納得できる答えを得ることができました。
よくよく考えてみると、欧米のバレンタインデーは、女性から男性へだけではなく、愛の告白をするイベントでもなく、贈り物がチョコレートに限定されるわけでもないので、日本のバレンタインデーは独自の進化を遂げたと言えます。
1960年の森永製菓による「愛する人にチョコレートを贈りましょう」という魅惑的なコピーを嚆矢とする日本のバレンタインデーは、日本におけるチョコレート年間消費量の2割程度を占めるまでに成長して国民的行事となっていますが、<自分用>の予算が最高額を更新していくことがあれば、物語性が失われてしまい、限定ショップと限定商品の乗算によって爆発力を高めるだけの商業的イベントに帰してしまうと感じられ、何だかまたやるせない気持ちになってしまうのは、果たして私だけでしょうか。