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中国の偵察気球「あと数日間、米上空を飛行か」「撃墜しない理由」...米英メディア報道

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
訪中を延期した、ブリンケン米国務長官。(写真:ロイター/アフロ)

アメリカでは、国土の上空飛行が確認された中国の気球の話題で持ちきりだ。

米北部上空で確認されている気球について、中国はコース外に飛ばされた民間の気象観測気球であると主張し、珍しく謝罪の意を示した。一方、アメリカ側はその気球を中国の偵察気球(スパイバルーン)と見ており、「明確な主権の侵害と国際法の違反にあたり、受け入れられない」と強く非難している。

この日夜、中国・北京に向け出発予定だったアントニー・ブリンケン国務長官は、この気球問題が中国との会合の話し合いの中心になることを望まないとし、訪問の延期を発表した。

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インディペンデント紙は、中国の偵察気球について「米国防総省は気象研究用の気球だとする中国の主張をきっぱり否定。撃墜を含む『対応策を検討中』」と報じた。

アメリカのパット・ライダー准将は、3日正午の記者会見で「(中国の)声明は承知している。しかしながら実際、我々はそれが偵察気球であることを知っている」とし、「我が国の領空においていかなる飛行物体の侵入も容認できない」「アメリカは引き続き、対応の選択肢を検討している」と述べた。

またライダー准将は同日の時点で「この気球がアメリカの中央部の上空、約6万フィート(1万8300メートル)上空を東方向に移動していることを確認した」と述べた。気球には操縦能力があり「飛行コースが変更した」という。そして「あと数日間、アメリカ上空にある可能性が高い」との見解を示した。

USAトゥデイによると、一般的な商用機の飛行時の最高高度は約3万5000フィート(3万3000〜4万2000フィート)。軽飛行機でも通常1万フィート近くだという。この偵察気球は、航空機よりさらに高い上空を飛行していることになる。しかし高度の変化によっては(カメラの望遠レンズなどで)地上から確認することもできているようで、同准将は偵察気球の位置に関する正確な詳細を明らかにすることを拒んだものの、「一般的に空を見上げ、気球がどこにあるかを見ることはできる(確認時にできた)」と付け加えた。

米国防総省の発表によると、この気球は150の核弾頭を収容するモンタナ州のマルムストローム空軍基地を含む「機密がある多くの施設」の上空を通過し、3日午後には、カンザス州北東部やミズーリ州北西部の上空でも確認されている。

モンタナ州のマルムストローム空軍基地には、核を搭載したICBM(大陸間弾道ミサイル)があり、緊急時にいつでも発射できるように準備されている。(写真は点検中のクルー。2005年撮影)
モンタナ州のマルムストローム空軍基地には、核を搭載したICBM(大陸間弾道ミサイル)があり、緊急時にいつでも発射できるように準備されている。(写真は点検中のクルー。2005年撮影)写真:ロイター/アフロ

マイク・ペンス前副大統領やマイク・ポンペオ前国務長官などから、バイデン政権の弱腰が非難され、気球を「撃ち落とすべき」との声が上がっている。

しかしCNNに出演した専門家によると、この気球はバス3台分の大きさでメタルが使われ、撃ち落とさない理由として「撃ち落とすことによる破片が地上に与える損害が、気球自体が与えるリスクを上回ると判断した」という。またこの気球には、中国がすでに使用している地球低軌道の偵察衛星より多くの情報をもたらす能力はないこともわかっている。

あらゆるリスクを回避するため、アメリカ側は今のところ偵察気球を撃ち落とす選択をしていないようだ。

アメリカでは近年、ハワイとグアム上空でも中国からの偵察用とされる同様の飛行物体が確認されている。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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