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「祝・新中国連邦国家」を掲げた謎のバナー飛行、混沌としたNY上空に現る

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
ここ1週間は無数のヘリが忙しなく飛んでいるのだが・・・(6月4日筆者撮影)。

新型コロナウイルス感染症の流行に加え、黒人男性ジョージ・フロイド氏の死に端を発した抗議活動暴動と略奪とさまざまな問題が起こり渾沌とするニューヨーク。そんな中、謎のバナーを掲げた飛行機が上空を飛び、人々を訝らせた。

3日夕方ごろ(中国時間翌4日早朝)、メッセージを掲げたプロペラ機8機はマンハッタン南方から東方のブルックリンにかけて、上空を飛行した。バナーにはこのように書かれていた。

Congratulations to Federal State of New China!

(新中国連邦国家おめでとう!)

それを見た目撃者はその意味が飲み込めず、「どういう意味か?」とソーシャルメディア上で話題になった。

非営利ヒューマンライツ・ウォッチのアジア擁護局長にあたるシフトン氏も、バナーを見て首を傾げた。

ニューヨークのタイムズスクエアのデジタルサイネージにも、同様のメッセージが出現した。

後の地元各紙の報道によると、このバナーは天安門事件(六四天安門事件、1989年6月4日に発生)31周年を記念したもので、新中国連邦の成立宣言ということ。元ホワイトハウスの最高戦略責任者で政治運動家のスティーブ・バノン氏(Steve Bannon)と、2014年中国から亡命した実業家、クオ・ウェンコイ氏(Guo Wengui、郭文貴=かくぶんき)らが共同で行ったようだ。

クオ氏はこの日、自由の女神を臨むニューヨーク港の船上から、ライブストリームを通じて、当地はもとより世界中に向けてこのような声明を発表した。「今日から中国共産党は中国の合法的な政府ではない。我々は我々を支持する何百もの国々から支援を受けている。平和、法、人道主義のもとにすべての人に告ぐ」。

メッセージが意味不明の段階では、ミステリアスを通り越しやや気持ち悪いと訝る人々が多かったが、その意味を知った人々は胸を撫で下ろしたようだ。ツイッターでは声明を祝福する声が上がった。

クオ氏とは、中国政府に対してこれまでたびたび批判をしている人物だ。新型コロナウイルス騒動に関しても、ウイルスの「武漢研究所起源」説を主張している。バノン氏とクオ氏の両氏によって立ち上げられたウェブメディア「G News」で公開された新型コロナ関連記事で、「ウイルスが武漢ウイルス研究所のP4実験室で発生したことを中国政府は認める準備がある」と、裏取りがないまま虚偽の内容を報じるなど、過激な面もある。(この報道内容ついて、その後バズフィードがフェイクニュースだと指摘した)

米国の声明、今後の支援

筆者のもとには、ホワイトハウスの報道長官室発信のニュースレターが定期的に届くようになっている。5日に受け取ったニュースレターの書簡は、このようなものだった。

「天安門広場大虐殺31周年に寄せる声明」(以下、概要)

抗議活動のために31年前、北京はもとより中国全域に平和的に集まった数十万人の中国国民の勇気と楽観主義を、我々米国人は今、振り返っている。非武装の民間人に対しての中国共産党による虐殺は、決して忘れることのできない悲劇である。

(一部割愛)

米国は中国に対して、亡くなった人々に敬意を表すこと、また拘束され今もなお行方不明になっている人々についての説明を要求する。中国での言論、集会、信仰の自由を含む国民としての基本的権利の追求が可能になるよう願い、米国の人々は今後も中国の国民と共にある。

アメリカ運輸省は3日、今月16日より中国の航空会社旅客便のアメリカへの乗り入れを一切中止すると発表した。これは中国政府が、2国間を繋ぐ米系のユナイテッド航空とデルタ航空による中国便の運航を拒否したことへの対抗措置だ。運航停止となるのは中国国際航空、中国東方航空、中国南方航空、海南航空の4社。新型コロナのパンデミックの中でも、便数を抑えつつ2国間の運航が続いていたのだが、今後はすべての中国便の乗り入れがなくなる。

Updated: その後、米運輸省は中国旅客機の全便停止措置を緩和させ、アメリカ発着便を週2往復まで許可しました)

これはほんの一例でありトランプ大統領は今後も中国に対して、ますます圧力をかけ続けていくだろう。今回樹立した「新中国連邦国家」へも、何らかの支援をしていくのではないだろうか。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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