STATION F 世界最大ベンチャー基地の住人たち(1)
パリ13区にある昔の貨物駅を利用したベンチャー基地STATION F。スタートアップの数はおよそ1000件、5000人が働く世界最大規模のインキュベーターの概要はすでに紹介した。ではそこにはいったいどんな人たちが“入居”しているのか。今回から5回にわたって、筆者が出会ったSTATION Fのスタートアッパーたちのプロフィールを紹介したいと思う。
ひとりめは、Lauren DANNAY(ローレン・ダネー)さん。
黒のパンツスーツで颯爽と現れた彼女は、まるでモデルさんのような華がある。
whoomiesというアプリケーションを長年の友人であるアレクサンと二人で立ち上げてからもうじき2年になる。
このアプリは、賃貸物件を一緒にシェアする人を探すというもので、すでに利用者は5万人を超える。
「Tinder とAirbnbをミックスしたようなシステムと言ったらイメージしやすいかしら。一緒に暮らすのに適している人を探して家も探す。これまでのコーロカシオン(賃貸シェア)システムは、どちらかというと物件に軸足が置かれて、物件を選んだ後、同居人がどんな人かわからないということがありました。けれどもこのアプリではまず人を選ぶ。暮らしのスタイル、パーソナリティ、ベジタリアンとかをアプリに入力し、相性診断をしてマッチンングするところから始めます。人工知能がアプリ利用者とチャットするような形で質問をし、項目を埋めてゆくという新しいシステムを開発するのに時間がかかり、昨年9月にようやくパリとロンドンでスタートさせました。ロンドンは家賃が高いので、賃貸物件の半分が同居というマーケット。パリだけでなく、ロンドンでこのアプリを使えるようにすることが最初からの目的でした。」
このアイディアは、自分の過去の経験からきているとローレンさんは言う。
「パリで実際に私自身がコーロカシオンをしていたことがあって、同居人はたくさん旅をする人でした。シンガポール、ニューヨーク。生活リズムが私とは全くちがっていた。そんな時、コーロカシオンのTinderを作ることを思いたったのです。
大学では法律を専攻し、ファイナンスでマスターも取りました。そのあとNATIXISで3年間、銀行家として投資のアドバイスをする仕事をしました。その仕事は好きだったけれども、パッションがあるかというと、、、。朝起きたときに、何か物足りなさを感じていました。」
人が羨むような恵まれた職業生活のスタートを切っていたもの、アプリのアイディアを思いついたときに退職を決意したという。
「非常にいい経歴だけれども、何かが足りなかった。今はパッションとともに目が覚めます。過去のキャリアを後悔していません。もともと朝型なのでここに早く来ますし、働くのにとても心地よい環境なので、遅くまでいることも苦になりません。」
退職後、アプリケーションの企画に全エネルギーを注ぐことになるが、以前は5つのスタートアップを抱えるインキュベーターで仕事し、STATION Fが発足するのを知ると、最初の“入居者”になるべく、志願書を送った。
「サイトを通じてのセレクションに通った後、プレゼンテーションビデオを送りました。1か月待って、最終セレクションに残ったことがわかって、とても嬉しかったです。ここに入ることによってたくさんの恩恵が受けられることがわかっていたから、すごくモチベーションがありました。いわゆるコーワーキングとは全く違うとてもセレクティブなものですから、ステイタスがあり、投資家たちからの信用を得ることにもつながります。」
最初の数ヶ月で30万ユーロ(1ユーロおよそ132円として4000万円)の資金を得ることができ、それがアルゴリズムの開発に大いに役立った。2人で立ち上げたプロジェクトだが、現在チームは6人になり、近々さらに5人のスタッフの追加を予定しているという。
1年経ったSTATION Fの居心地を尋ねると、「ユニーク(他にはない特異な場所)」という言葉が返ってきた。
「まずはインフラストラクチャーがユニーク。そこに1000の起業があって、みんなそれぞれのプロジェクトに邁進している。これはとても刺激的な事です。STATIOIN F内のすべての起業家やスタッフとコンタクトできる内部コミュニケーションシステムがあって、テーマごと、例えばモバイルアプリがテーマの人とノウハウを分かち合う事ができたりします。またパートナー企業の技術やインフォメーションソースを利用したり、投資家ともアクセスできる。つまりエコシステムがとてもダイナミックなのです。」
これからもたくさんのプロジェクトが控えている。例えばアメリカの学生宿舎の入居者のマッチングなど、スケールはどんどん国際的に。ちなみにこのアプリ、すでに55ヶ国語に翻訳されていて、日本版も来年半ばに具体化する予定だという。