「見守り活動をする父親へのレッテル貼り」の危険と「学校やPTAの個人情報の扱いの甘さ」という問題
先月松戸市で起きた痛ましい女児殺害事件の容疑者が、見守り活動をしていた保護者会長(PTA会長)だったことについて衝撃が広がっています。
容疑の段階ですので事件に関するコメントはできませんが、PTA(保護者組織)という観点から、この件についての報道や世間の反応について少々気になる点をまとめておきます。
*見守り活動をする父親たちへのレッテル貼りをしない
まず確認しておきたいのは、レッテル貼りの危険に注意する、ということです。
容疑者逮捕の報道後、ある小学校では「男親のPTA活動や授業参観の禁止」が提案されたそうですが(男親からの提案によるそうです)、そんな極端な対応に結びついてしまうのは残念なことです。
お父さんを好きな子どもたちはみんな悲しい思いをしますし、なかには父親しかいない家庭もあります。
心から子どもたちを思って見守り活動をしている父親が大半なので、ひとまとめに危険視するのは失礼ですし、またこの事件をもって、見守り活動やPTA活動をひとまとめに「不要」と結論するのも違うでしょう(ほかの理由でそういう結論に至る可能性はあるとしても)。
警察官による犯罪事件もときどきありますが、だからといって「警察はいらない」という結論にはならないものです。
ただし一方で、見守り活動にどの程度の犯罪抑止効果があるのかは実際のところよくわからない、というのも事実でしょう。逆にこういう事件が起きる可能性もあるわけで「絶対必要」などと言うこともできないはずです。
*「PTA」もその他の名称も実質同じ
この学校の保護者組織は「PTA」という名称ではなく、学校名を冠した名称だったことから、容疑者が「PTA会長」なのか「保護者会長」なのか、一部で議論を呼んでいましたが、どちらも実質同じでしょう。
たまに「全国組織に入らない場合は、PTAという名称を使用しない」という説明を聞きますが、これはアメリカの話であって、日本のPTAには当てはまりません。日本では、PTAを名乗っていてもP連(PTAの連絡組織)に入らない例はたくさんありますし、逆にPTA以外の名称(育友会、親師会、PTO、等々)でもP連に入っている例はいくらでもあります。
現在は多くのマスコミが、容疑者について「PTA会長」ではなく「保護者会長」としているようですが、そう深い意味はないでしょう。「PTA=犯罪」というレッテル貼りを避ける目的もあるかもしれませんが、それよりも単に「名称がPTAじゃないから保護者会と呼んでおく」だけではないかと思います。
たとえば、いま大阪市のある学校で、保護者会をやめた家庭のお子さんが卒業式のコサージュ(花飾り)をもらえなかったことから裁判が起きていますが、この組織もPTAを名乗っていないので、わたしも記事のなかで「保護者会」と呼称しました。
が、もしこれを「PTA」と呼んでも、間違いというほどでもないと思います。
PTAという名称を使うのに、とくに条件はありません。「PTAと名乗っていればPTAと呼ばれる」という程度のことでしょう。
*学校・PTAにおける「個人情報の扱い」の甘さ
冒頭にあげたように、PTA活動と犯罪を結びつけるようなレッテル貼りは慎む必要がありますが、しかし今回の事件のなかには、PTAという組織特有の問題点も潜んでいた可能性はあると思います。
それはPTAや学校の現場では、「個人情報の扱いが大変甘い」という点です。(同時に、まったく意味のないところで個人情報を気にしている例が少なくないのですが)
学校はしばしば、PTAや子ども会などの他団体に対して、保護者本人の同意を得ることなく、氏名・連絡先・住所といった個人情報を渡してしまうのですが(これによって保護者の全員自動加入が可能となる)、これはじつは、危険を伴うことです。
知らない間に個人情報が他者のもとに渡り、子どもが犯罪に巻き込まれてしまう可能性もありえます。
ですから、そのような行為(本人の同意なく個人情報を第三者に渡す)は、個人情報保護法令で禁止されているのですが、そのルールが守られていません。
これまでは運よく大きな事件が起きなかっただけでしょう(表に出ないものはいろいろあったかもしれません)。
先日、ライターのみわよしこさんが「千葉女児殺害事件から考える、「顔の見える関係」だからこその危うさ」という記事で指摘された内容も、とても重要なものと思います。
学校→PTA(保護者)と同様、行政→現場(一般市民)に無償で労働が託される場面で、個人情報の扱いがずさんになることは、例外とはいえないようです。
この学校・保護者会、またこの見守り活動において、個人情報の扱いが適切だったかといったことはまだわかりませんし、容疑者が犯人ではない可能性もありますが、学校現場における問題認識が薄い現状のままでは、今後も何かしらの事件が起きる可能性は考えられるだろうと思います。