天の川銀河を脱出するほど超高速で移動する星を新発見!そこまで加速した原因とは?
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「天の川銀河内で最速の天体を新発見」というテーマで動画をお送りしていきます。
ハーバード・スミソニアン天体物理学センターなどの研究チームは、天の川銀河内を超高速で移動する天体を新たに発見し、その分析結果を2023年6月に発表しました。
●天体の速度はどうやってわかるのか?
天体は宇宙空間をそれぞれ異なる速度で動いています。
そもそも地球から遥か彼方にある天体の移動速度はどのようにして理解されるのでしょうか?
天体の実際の速度(空間速度)は、太陽に近付いたり遠ざかったりする方向の速度(視線速度)と、それと垂直方向の速度(接線速度)に分解できるので、反対にそれらがわかれば空間速度が求まります。
視線速度は、その天体から地球にやってきた光の波長がどれだけ伸びたり縮んだりしているかを調べるとわかります。
光の波長はドップラー効果により、光源が地球から見て速く近付いているほど短くなり、速く遠ざかっているほど伸びるためです。
また接線速度は、その天体の太陽からの距離と、太陽から見た天球上の位置の変化によって理解されます。
求め方も面白いですが、今回の動画では「空間速度」「視線速度」「接線速度」という用語がよく出てくるので、これらの簡単な意味を理解してもらえたら幸いです。
●最高速度記録を塗り替える天体を新発見
天の川銀河内の天体は、銀河の中心部に対して公転しています。
例えば太陽系は銀河中心部から約25000光年の距離を、銀河中心部に対して秒速約230kmという速度で公転しています。
この速度が非常に速いと、天の川銀河の重力を振り切って脱出していまいます。
何らかの原因で天の川銀河を脱出してしまうほどの速度を手に入れた天体が稀に発見されています。
そんな中、ハーバード・スミソニアン天体物理学センターなどの研究チームは、既知の天の川銀河内の天体の中でも接線速度が高いことで知られていた天体の視線速度を分析し、正確な空間速度を求めた結果、天の川銀河の重力を振り切って脱出できるほど非常に高い空間速度を持つ4つの白色矮星を新たに発見し、その分析結果を2023年6月に発表しました。
4つの天体の視線速度はどれも1000km/s以上、空間速度は1400km/s以上にもなると判明しています。
その中でも特にJ1235という天体の視線速度は1694km/s、J0927の視線速度は2285km/sであり、これらの2天体の空間速度はそれぞれ2670km/s、2753km/sであると判明し、どちらも観測史上最高速度記録を塗り替えています。
また、4つの超高速度白色矮星の表面温度は2万~13万度と、どれも非常に高温であることもわかっています。
さらにどれもD6星というタイプに分類されると見られています。
ここでD6とは、Dynamically-Driven Double-Degenerate Double-Detonationの略で、白色矮星同士の連星で起こる、Ia型超新星爆発の一種のことです。
このタイプの超新星爆発によって外に弾き飛ばされた白色矮星がD6星と分類されています。
D6は白色矮星同士の連星系で発生する超新星の一種ですが、これが発生し、超高速度星が誕生するメカニズムは以下で説明する通りです。
まず軽い方の白色矮星の表面にあるヘリウムガスが、重い方の白色矮星に流れ込みます。
そうして重い方の白色矮星表面にヘリウムが溜まりすぎると、表面のヘリウムで爆発的な核融合反応が起こります。
するとその衝撃波が重い方の白色矮星中心部の炭素・酸素から成るコアにも伝わり、重い方の白色矮星全体が吹き飛ぶ大爆発(Ia型超新星)が発生します。
D6が起こると、軽い方の白色矮星は公転する主星を失うので、元の公転速度のまま銀河内を突き進むことになります。
これがD6が発生し、新たに観測されたD6星が生まれるまでの一連の流れです。
●重力で拘束される天体にはさらに上がある
今回は別の天体の重力で拘束されず、天の川銀河内を独走する天体の中で最速の天体を紹介しましたが、銀河中心の超巨大ブラックホール「いて座A*」の重力で拘束される天体も含めるとさらに速いものが存在します。
これまでいて座A*の近くを物凄い速度で公転する恒星はいくつも発見されていて、S1、S10などのようにS(数字)と名前を付けられています。
2020年8月には、ブラックホールに非常に近い領域を公転する恒星が新たに5つも発見されたと発表されました。
S4711、S4712、S4713、S4714、S4715という星々です。
その中でもS4714は特筆すべき軌道を描いています。
S4714は極めて細長い楕円型の軌道を描いているため、瞬間的にいて座A*に最も近いところまで接近します。
S4714はなんといて座A*までわずか12.6天文単位、太陽と土星間に迫る距離にまで接近することが判明しました。
最接近時にはなんと24000km/s、光速度の8%にまで加速させられていることがわかっています。これはJ1235の空間速度2670km/sと比べても圧倒的に速いです。
瞬間的には最もブラックホールに接近するS4714が既知の天体では天の川銀河全体の中で最速の星ということになります。
ただしブラックホールの重力で拘束されているため、他の大質量天体が接近して軌道が乱れるなどの特殊なことがない限り、基本的にS4714が天の川銀河を脱出することはありません。
ということで今回は、天の川銀河内の新発見の超高速度天体について紹介させていただきました。