台風発生7月0の鍵はミッドウェー海域から南シナ海へ
熱帯低気圧「ダグラス」が西進
台風は、北西太平洋で熱帯低気圧が発達し、最大風速が毎秒17.2メートル以上となったときに発生しますが、北西太平洋に台風並みの熱帯低気圧が入ってきた場合も発生します。
逆に、台風が北西太平洋を出た瞬間に台風ではなくなります。
つまり、東経180度線は、日付け変更線であると同時に、台風変更線でもあります。
令和2年(2020年)7月26日にハワイ諸島の北方を通過した、台風並みに発達した熱帯低気圧「ダグラス」は、一時、オアフ島に上陸するのではと騒がれました。
ハワイ周辺の海水温は、台風が発生する目安とされる海面水温が27度より低いために、多くの年は、台風並みに発達した熱帯低気圧が接近しても衰弱します。
ただ、今回は、ハワイ沖の海水温がやや高い状態となっているために、急激に衰えることなく接近してきました。
結果的には、昭和34年(1959年)にカウアイ島に上陸した「ドット」、平成4年(1992年)にカウアイ島に上陸した「イニキ」、平成26年(2014年)にハワイ島に上陸した「イセル」の以来の、観測史上4番目(強い勢力でとなると、「ドット」、「イニキ」に続いて3番目)という、ハワイ諸島への上陸ということはありませんでした。
そして、台風並みに発達した熱帯低気圧は、西進を続けたのですが、通過したミッドウェー海域の海面水温が、台風が発達する目安とされる27度ギリギリぐらいであったことなどから衰弱しはじめました。
その後、7月30日9時には温帯低気圧に変わり、温帯低気圧の状態で日付け変更線を越えました。
一次、懸念されていた日付け変更線を越えて台風になる可能性は消えました。
しかし、南シナ海では、7月31日になって、急速に積乱雲が増えてきました(タイトル画像参照)。
南シナ海の積乱雲
日本の南海上や南シナ海では、台風が多く発生する海域で、7月ともなると積乱雲が次々と発生し、台風の卵となる渦が形成されています。
しかし、令和2年(2020年)は、7月になっても積乱雲があまり発生しませんでした。
海面水温は27度以上あり、台風が発生するのに必要な豊富な水蒸気がありましたが、上空の大気の流れのなかで対流活動を抑える下降流が卓越していたことなどが原因と考えられています。
従って、台風の卵となる渦も形成されず、台風の発生もありませんでしたが、ここへきて、積乱雲が増えてきました。
この積乱雲の増加に伴って、7月29日にはフィリピンの東海上に、周囲より気圧が低くなっている低圧部が出現し、西進して南シナ海に入りました。
そして、7月31日9時に低圧部の中から渦を巻くものが出現し、熱帯低気圧となりました(図1)。
気象庁は、7月31日9時に南シナ海で発生した熱帯低気圧に対し、熱帯低気圧付近の海面水温は31度と非常に高いことなどから、今後、24時間以内に台風にまで発達する可能性があるとしています。
ただ、8月1日0時の段階でも熱帯低気圧としていますので、7月31日21時の天気図解析(31日23時頃)までに台風とはならず、7月の台風発生数0がほぼ確定です。
遅い台風発生ぺース
令和2年(2020年)は、台風の発生ペースが遅く、台風1号が発生したのは5月12日21時と、台風の統計が整備されている昭和26年(1951年)以降の70年間で8番目の遅さでした。
その後、6月12日21時に台風2号が発生したものの、いまだに台風3号が発生していません。
7月末まで台風が発生しなければ、令和2年(2020年)は、台風発生数が2個となり、平成10年(1998年)の1個に次ぐ2位の記録です。
また、7月末までに台風3号が発生すれば、平成22年(2010年)などと2位タイの記録です(図2)
南シナ海の熱帯低気圧が、7月31日に台風にならなくても、8月1日には台風3号になりそうです。
また、8月1日には、沖縄の南海上でも熱帯低気圧が発生する見込みです(図3)。
この熱帯低気圧の発生海域の海面水温は、台風発生の目安とされる27度以上ありますので、今後、台風にまで発達する可能性があります。
過去の台風資料から、8月の平均経路を求めると、南シナ海で発生する台風は、西進から北西進して華南又はベトナムに上陸しますので、日本への影響がない見込みです。
しかし、沖縄の南海上で発生する台風は、北上して沖縄に接近するなど、日本に影響するものがでてきます(図4)。
また、動きが遅く、複雑な動きをしますので油断できません。
【追記(8月1日1時)】
南シナ海の熱帯低気圧は、7月中に台風にはなりませんでした。
これで、観測史上初の「7月の台風発生数0」となりました。
7月31日に近畿地方で梅雨明けとなり、沖縄・奄美地方に続いて西日本各地で梅雨明けとなりました。
熱中症への警戒が必要ですが、加えて、台風情報に注意する季節になりました。
タイトル画像、図1の出典:ウェザーマップ提供。
図2の出典:気象庁資料をもとに著者作成。
図3の出典:気象庁ホームページ。
図4の出典:饒村曜・宮沢清治(昭和55年(1980年))、台風に関する諸統計、研究時報、気象庁。