北海道新幹線、泥沼化の並行在来線問題 防災計画にも明記「原子力災害時の避難路」としての住民指摘も黙殺
2030年度の札幌延伸開業を目標として建設が進められていた北海道新幹線であるが、トンネル工事などの遅れで開業が見通せない状況となった。北海道新幹線の札幌延伸に伴い、並行在来線となる函館本線の函館―長万部―小樽間はJR北海道から経営分離されることが決まっているが、北海道庁が主導する協議会では2022年3月に独断で輸送密度が2000人を超え、本来は廃線の対象とはなり得ない余市―小樽間を含む長万部―小樽間の廃止の方針を決定。2023年12月に開催された協議会では、道は新幹線アクセス路線として輸送密度が4000人を超える函館―新函館北斗間も含めた函館―長万部間の廃止を沿線自治体に対して提案している。
こうした北海道庁主導の協議会では、ドライバー不足の中でバス路線の減便・廃止を進めている沿線のバス会社を協議の場に呼ぶことなく廃止の方針を決めてしまったことから、バス会社側は激怒しているようだという話も関係者から漏れ聞こえており、並行在来線協議は迷走を続けている。北海道の政策姿勢は目先のコストカットにしか意識がなく、新幹線開業による経済効果をいかに地域に波及させるのかという発想は微塵もない。行政機関としての総合的な政策能力を欠いているといっても過言ではない状況だ。
このような北海道の政策姿勢を受けてか、各地で行われた並行在来線の住民説明会では、行政側は「住民の意見を聞く姿勢が全くなかった」と筆者のもとに情報提供が寄せられた。函館本線長万部―小樽間の沿線には北海道電力泊原子力発電所が立地している。こうしたことから、小樽市で住民説明会に参加した50代の会社員の男性は、「在来線の沿線に近い泊原子力発電所の災害時の住民避難の手段として在来線の維持が必要なのではないか」と会場で問題提起をしたが、黙殺されたという。北海道防災会議が発行する北海道地域防災計画(原子力防災計画編)には、放射能漏れなどの原子力災害時にJR北海道とJR貨物北海道支社が救助物資と避難者の輸送協力に関する指定公共機関とされている。さらに、この計画には「函館本線(長万部―小樽)輸送力」として同区間のダイヤと使用車両、定員を詳細に記した補足資料も添付されており、在来線の災害時の避難路としての有用性を裏付けている。
前出の男性は「後志管内約8万人の住民を自家用車とバスといった自動車交通だけで避難させるのは非常に難しいのではないか」と指摘する。2011年に発生した東日本大震災では、宮城県気仙沼市や岩手県石巻市など各地で避難民による渋滞が発生し、渋滞の車列ごと津波に飲まれて命を落とした方もいたことから、災害時の避難を自動車交通のみに頼ることの危険性が明らかとなっている。
北海道庁は、それでも「鉄道廃止は決まったこと」としてバス転換決定の方針を変える気はない様子であるが、区間によってはバスでは運びきれない乗客がいる現状で鉄道廃止を強行し、地域交通だけではなく災害時の避難路として有用なインフラすらも破壊するつもりなのであろうか。
(了)