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桜を見る会Factcheck(2) 菅官房長官「反社会的勢力の定義は定まっていない」は不正確

楊井人文弁護士
桜を見る会(2019年4月)(写真:ロイター/アフロ)

チェック対象

反社会勢力についてさまざまな場面で使われることがあり、定義は一義的に定まっているわけではないと承知しております。

出典:菅義偉官房長官、2019年11月27日午後の定例記者会見

結論【誤り】

2007年に犯罪対策閣僚会議幹事会申合せとして「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」が策定され、「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人である『反社会的勢力』」と定義されている。

<検証>

 菅官房長官は27日午後の記者会見で、「桜を見る会」に「反社会的勢力」とされる人物が出席していた問題について問われ、次のように答えた。

Q 桜を見る会について伺います。きのう、長官が会見で過去の桜を見る会に反社会的勢力の人が出席していたことを認める旨の発言をされたことを受けて、野党側は進退にかかわる問題だと長官の責任について問う姿勢です。長官は桜を見る会に反社会的勢力が出席していたことについて、責任をどう捉えているか聞かせてください。

官房長官記者会見(2019年11月27日、政府インターネットテレビより)
官房長官記者会見(2019年11月27日、政府インターネットテレビより)

A この点についてでありますけれども、まず、桜を見る会の個々の招待者については、招待されたかどうかを含めて、個人に関する情報であるために従来から回答は差し控えてきています。その上で、内閣委員会において質問がありました。桜を見る会の会場におきまして、私自身多くの方と写真撮影をし、委員ご指摘の人物と面識はありませんし、個々の招待者の参加について承知しておりませんと申し上げた上で、本人確認、またセキュリティーの向上策について、今後全般的な見直しの中で必要な対応をしていきたいということを申し、答弁したところです。

 反社会勢力についてさまざまな場面で使われることがあり、定義は一義的に定まっているわけではないと承知しております。また、昨日の記者会見で、この場でありますけれども、このようなやりとりを念頭に、もし桜を見る会の会場で一緒に撮った写真があるというなら、私自身は把握していないが、その方、その方は結果として会場にいらしたんだろうということを申し上げました。反社会勢力が桜を見る会に出席していたということは私自身は申し上げておりません。

 「反社会勢力」の定義について政府・行政機関が言及しているものがないか調べたところ、法務省のウェブサイトに「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」が公表されていた。これは、犯罪対策閣僚会議(閣議決定により2003年9月設置)の幹事会申合せ文書で、指針の冒頭で次のように記されている。

今日、多くの企業が、企業倫理として、暴力団を始めとする反社会的勢力と一切の関係をもたないことを掲げ、様々な取組みを進めているところであるが、上記のような暴力団の不透明化や資金獲得活動の巧妙化を踏まえると、暴力団排除意識の高い企業であったとしても、暴力団関係企業等と知らずに結果的に経済取引を行ってしまう可能性があることから、反社会的勢力との関係遮断のための取組みをより一層推進する必要がある。

出典:企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について(2007年6月19日)

 そして、「反社会的勢力」の定義については、脚注であるが次のように記していた。

暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人である「反社会的勢力」をとらえるに際しては、暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等といった属性要件に着目するとともに、暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求といった行為要件にも着目することが重要である。

出典:企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について(2007年6月19日)

 この定義は、金融庁の「主要行等向けの総合的な監督指針」にも引用されている。金融庁は行政処分の判断基準の一つに「反社会的勢力の関与の有無」を設け、「反社会的勢力の関与」を理由にした行政処分を下したこともある金融庁ウェブサイト参照)。菅長官は「一義的に定まっているわけではない」という言い方をしているが、政府機関で「反社会的勢力」について上記と異なる定義を示したものは確認できなかった。

 ただ、金融庁に対するパブリックコメントで「いかなる属性・行為をもって反社会的勢力と認定するかは、明確に統一された基準がない」との指摘があり、金融庁が「反社会的勢力はその形態が多様であり、社会情勢等に応じて変化し得るため、あらかじめ限定的に基準を設けることはその性質上妥当でない」と回答したことがある。

 他方、民間では、日本証券業協会は定義を設けているが(日本証券業協会ウェブサイト)、「反社会的勢力」の統一的な定義が定まっているわけではない。

<結論>

 政府は公式に「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人である『反社会的勢力』」と記して反社会的勢力の排除のための指針を定め、金融庁もこれに基づき行政処分を行っている。政府を代表する菅官房長官の発言は、公式の定義がないとの意味にとらえられるが、定義がないとは言えない。ただ、具体的な集団や個人が、定義された「反社会的勢力」に当てはまるのかどうかは、基準が明確でなく、見解が分かれる場合もあると考えられる。よって、「不正確」と判定した。

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この記事は、ニュースのタネより転載。ニュースのタネのファクトチェック基本方針、およびFIJのレーティング基準に基づいて作成しました。

弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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